パーティーメンバー
育成されると言っても、何をされるんだろう?
やっぱり、パワーレベリング?
でもそれは規約違反。
そもそも、敵もプレイヤーなので、向こうも協力してくれないとシステム的に不可能なんだよね。
かといって、味方を生贄にするのも嫌だし・・・
てなわけで、普通にパーティー組んで戦闘でレベル上げをする事になった。
ここでは4人から6人パーティーを組んで、こっちと敵の領土の境にある緩衝地帯に入ると、システムが自動的に戦力分析して敵とのマッチングをしてくれる。
お互いにOKすれば、戦闘開始。
戦闘行為以外で緩衝地帯を越えて相手側の領土に侵入すると、いつ襲われても文句は言えない。
腕試しにちょこっと越境行為する人も偶に居るとのこと。
実はそっちの方が得られる経験値は多いので、実は境界際で無差別に戦っている人は結構見かけるんだって。
「ところで、ダイスケはどこまで巻き戻されたんだ?」
「んーとね・・・1歳だった」
ボクは隅っこに表示されている年齢表示を確認してそう言った。
「あれ、生まれたてまで戻されたわけじゃ無いんだな・・・」
「え?」
アーサーの説明によると、生まれたては『0歳』なんだそうだ。
ゼロ歳で立って歩いて喋るなんて、お釈迦様みたいだなと思った。
それか、野生の仔馬。喋らないけど。
「という事は、カマキリ野郎達が仕返しに来た時に返り討ちにしたろ。
アルギヌが一人でやったんだけどさ。
あの時に入った経験値で1歳になってたのかもな。」
「という事は、職業スキルはもう付け終わった後かー・・・」
ボクはパネルを開いて確認してみたら、案の定もう付いていた。
付け直せるチャンスだと思ったのに、ガッカリ。
何でも、スキルは沢山付けないで目的のモノだけにしておいた方が、経験値のポイントが分散されないので早く強くなれるんだとか。10ポイントを1箇所に10ぶち込めるか、10箇所に1ポイントずつ振り分けるかって事らしい。
自分では振り分けられないシステムなんだ。クソシステムだね!
だから最初に会った時にアーサーもアルギネも一本道に絞って鍛えたほうが良いって言ってたんだ。
どうせ巻き戻すなら、0歳まで戻してくれたら良かったのに。
そんな話をしながら町のメイン通りまでやってきた。
最低4人パーティーだから、もう一人メンバーを見つけなければならないのと
「ダイスケの衣装を揃えなければな。」
アルギネが何故『防具』と言わずに『衣装』と言うのかがちょっと気になった。
ボク達3人は防具屋に入った。
「子供用の踊り子の衣装を・・・」
「ちょっとまってー!!」
アルギネがナチュラルに踊り子の衣装を買おうとしたので、ボクは慌てて止めた。
「違うよ!武闘家の道着!」
「チッ・・・」
今、舌打ちしたよね?、したよね!
ほんの小さな音だったけど、ボクは聞き逃さなかった。
アルギネって意外とガラが悪いのか?
実は中身は男だったりするのかな?ボクみたいに。
ボクの場合は文字が読めなくて偶々なんだけど、アルギネって実はネカマだったりするのかな?
「いや、普通は国民IDとか、社会保障IDなんかを入力しなくてはいけなくて、性別はプレイヤーとアバターは一致している場合が多いんだ。
最も、子供が親のIDを入力したりして性別を偽る事は可能みたいだがな。」
何にでも抜け道は有るって事だよね。
日本語版はマイナンバーの普及が進んでいなくて、そのあたりの対応は遅れているみたい。
「子供の頃の衣装なんて、防御力は殆ど無い気休めなんだから何でも良いのよ。
それに、お金は私が出してあげるんだから、ね?
試しにちょっとだけ、これ着てみない?」
「えー・・・」
アルギネの満面の笑顔に対して、ボクは思いっきり嫌そうな顔を作ってみせた。
でも、買ってもらうのにあまり我儘も言えないかーと思い直し。
「じゃあ、試着だけだよ。」
渋々了承した。
着たまま店の外へは出ることは出来ないのだけど、店内では自由に色々な服を着てみる事は可能なんだって。
結構色んな所がリアルに設定されているよね。
着替えて試着室から出てきたボクを見て
「あら可愛い。
やっぱり女の子ねー。」
「違うよ!男だよ!!」
「じゃあ、次はこのあぶない水着を・・・」
「いやだよ!!!
アーサー助けて!!」
何顔赤くしてるんだよ!
かあさん、後は任せたみたいな感じ出してんじゃねーよ!
女の子の扱いをどうしていいのか困ってるお父さんかよ!
ただでさえ衣装や防具は男用と女用でデザインが異なる物が多い。
まして、踊り子みたいに女性にしか無い職業の衣装は露出が多いし、フリフリ付いてるしで絶対にエロくなるようにデザインされているんだ。
ボクは頑として拒んで道着を買ってもらうことに成功した。
・・・お金を出してくれるアルギネには悪いけど。
道着が一番性別でのデザインの違いが少ないんだ。
アルギネは不満そうだったけど、知らない!
レジで踊り子の衣装とあぶない水着も買ってたみたいだけど、見ないふりをした。
きっと、自分で着るんだろう、そうに違いない。
クレリックの衣装着てたしね。
コスプレイヤーなんだろう、きっとそうだ。
なんか、嫌な汗が出た。
ボクはオレンジ色の道着を着て店の外へ出た。
ステータスを確認すると、本当に気休め程度防御力が上がっていた。
アーサーのデコピンで即死だったのが、これで致命傷位には押さえられるかも・・・知れない・・・
「次は、あと一人メンバーを見つけないとな」
緩衝地帯でオートマッチングの試合を組むには、最低4人パーティーにする必要がある。
攻撃力はアーサーとアルギネで10匹位は十分に相手できそう。
そこにボクが入ると、平均レベルが下がるから、後もう一人低レベル者を入れれば、全体のレベル平均が低いのに攻撃力が凶悪なパーティーの出来上がり。
その平均レベルと同格の相手を倒しまくれば、ボクの成長に十分な経験値を比較的簡単にかき集める事が可能ってわけ。
「ただ、向こうの神も同じ作戦で来るだろうな。
まあ、ワールドの人数的にそうそう当たるとは思えないが。」
酒場らしき所へ行くと、そこは荒くれ者の巣窟だった・・・という事も無く、割と普通に冒険者がたむろしていた。
ところで疑問なんだけど、パーティーメンバーを集めるのに何で酒場なんだろう?
「ド◯クエ?」
「いや、ウ◯ザードリ◯だろう?」
「人集めと情報収集の場が酒場というのは、西部劇以前から宿場町での伝統でしょう。
そこからやがて人や仕事を斡旋して手数料を取る仕組みが生まれ、酒場件ギルドの原型が生まれたのでは・・・というのが私の妄想よ。」
「「妄想なんだ・・・」」
まあ、その説は強ち間違ってはいないんだろうなと思った。
現代でも飲み屋にオッサン連中が集まって仲良くなったりしてるもんね。
ボク達3人はパーティー登録をして、あと一人子供が欲しいなと相談をしていた所に声を掛けてきた子供が居た。
「どこの若夫婦が子作りの相談をしているのかと思ったぞ。」
ボクよりちょっと年上に見えたその男の子は、ボク達のパーティーへ入れてくれと言ってきた。
「おまえ・・・か、まあ、いいけど。」
「あなた、戦えるの?戦わなくても構わないけど、邪魔だけはしないでよね。」
「しねーって、他に入れてくれる奴居なくて困ってたんだよー。」
「あたりまえでしょ。私も人の事は言えないけど。」
「おう、じゃあよろしくな!」
「え?知り合いなの?」
ボクはあまりに気安い会話にちょっと疎外感を覚えた。
「おまえ、まだ気が付かないのか?名前をよく見てみろ。」
「んー・・・『Hektor』?ヘクトール?・・・ヘクター!?
あの・・・あの、コカトリスの?!!」




