課金!
試用版!
ボクは焦った。
だって、これから戦争って時に急に画面が真っ暗になって、画面一杯に
《--試用期限が終了しました--》
の文字が表示されたから。
これから初めての大規模戦闘が始まる興奮に、ウキウキしていた気持ちから一転して唐突な暗転に、何が起こったのか直ぐには分からなかった。
「そうだったー!30日間お試し版だったー!」
継続するにはどうすれば良いの?
すぐに戻らないと皆に迷惑を掛けてしまう!
「急がなくちゃ!」
ボクはめちゃくちゃ慌てていた。
そうだ!マニュアル!そう思って絵本を引っくり返してみたが、どこの国の文字だかさっぱり読めない。
「そうだ!お父さん!おとうさーん!!」
このゲーム本を買ったこの国へ出張に行っていたのだから、きっとこの文字も読めるはず。
絵本を抱えてリビングで寛いでいたお父さんに読んでもらう事にした。
「え?これゲームの本だったの?あちゃー、俺てっきり豪華なファンタージー絵本だとばかり思っていたよ。」
「うん、でね、試用期間が終わっちゃったから、続きをやりたいんだ。
皆が向こうで待ってるの!」
「あれ?ちょっとまて、これR-15指定じゃん。ダメだろやっちゃ。」
「日本語版はその制限が掛かってないって言われたよ?」
「え?・・・」
そこにお母さんとお姉ちゃんが割って入ってきた。
「これはあなたが悪いわね。
ゲームの本なんて買ってきて、ゲームはやるなって言う方が酷というものよ。」
「でも、R-15だぜ?日本では偶々制限が掛かっていないと言うだけでさー。
「私もちょっと興味あるなー。
私もやるという事ならいいでしょう?」
お姉ちゃんは高校1年生で、丁度15歳になったばかりなんだ。
「そんな抜け道アリなのかー?
でもうーん・・・お姉ちゃんが責任を持って監督するって言うなら・・・
で、いくらなの?
えーと・・・一ヶ月15ユーロ?・・・」
ちゃんと勉強もするという約束で、お母さんとお姉ちゃんの援軍もあって、渋々OKが出た。
・・・・・・・・・・・・◇◇◇・・・・・・・・・・・・
ボクがログイン出来たのは、半日程経ってからだった。
今度は正規ユーザーなので、突然終了してしまう事はないでしょう。
アーサーに聞いたら、あの後かなり大変だったらしい。
相手側に戦争が出来なくなった旨を通知して、もう戦う気満々だった人達を宥めてたんだって。
再戦の為にスケジュール調整しようにもボクがいつ戻ってくるのかが全然分からなくて、GMコールで現状を確認しようにも、神がお試し版だった事なんて今まで無いので、どうにも手の打ちようが無い。
ボクがいつ戻ってくるのか、このまま退会してしまうのかも分からない。
ボクのIDが削除されていない限り、自動的に失効して次の神が誕生するまでには数日かかる。
連絡を取りたくてもお試し版ユーザーには連絡手段が無い。
(お試し版は気軽に世界観を体験してもらおうという趣旨の為、雑多な登録手続き等の入力は省かれているらしい。
当然、メールアドレス等の連絡手段の入力も省かれていたので、連絡の取り様が無かったというわけ。
お試し版ユーザーが神に成ってしまう仕様は不具合として次回アップデートから修正される事になったそうです。)
そんなこんなで個別にGMコールが立て続けに発生してサポート回線がパンクしてたとか・・・て具合に敵味方含めワールド全体で大混乱だったとのこと。
アルギネには、いきなり使用期限が切れて回線断になる前に何回かアラートが出ていたはずと言われたけど、例によって翻訳されていないメッセージは自動的にスルーしてたんだよねー・・・。
そんなわけで、再戦の日取りを決める所からやり直しになったわけ。
「今から出来ない?」
ボクは焦りまくってたアーサー達を他所に、呑気にそんな事を言いながら一歩踏み出した所
ガラン ガラン ガラーン!
ボクの体が分解して、というか空っぽの鎧が崩れ落ちて、そのまま分解したパーツが坂道を転がって行ってその先に有る岩にぶつかって止まった。
何事が起こったのかとポカーンとしてその様子を見ているアーサーとアルギネと女給服の二人。
咄嗟の事に、何が起こったのか理解が追いついていないようだ。
坂の下に転がって行った胴あたりのパーツが動いて、中から子供の姿に戻ったボクがもぞもぞと出て来た。
「あれー?また子供に戻っちゃったよ?」
「・・・って、おいー!!!」
慌てて駆け寄ってくる4人。
その時、GMからのメッセージが鳴り響いた。
《規約違反行為がありました。
通常はアカウント剥奪となりますが、当ソフトウェア側に不具合が御座いました。
よって、体内時間の巻き戻し処分にて罰則を履行いたしました。》
「どれの事だ・・・」
「しっ!、余計な事は口にするな。
監視されてる。」
ボクはよく分からないけれど、アーサーとアルギネは思い当たる部分がある様だ。
女給服の二人はポカーンとしている。
「またこの3等身の原始人からかー」
「ま、まあ・・・処分がそれだけで済んで良かったよ。」
「チッ、正規ユーザーになった途端に罰則を与えるなんて、運営もなかなかコスイわね。」
「課金させた途端に垢バンなんてしたら訴えられるもんな、落とし所はこれしか無かったのかもな。」
「あのまま戦争になれば、ちょっとこっちが有利かもと思っていたのに・・・
仕方ないわ、これで対等な訳だし、今度はお互いにちゃんと覚醒年齢まで育ててからって事で合意させましょう。」
というわけで、ボクは育成されるらしい。
再戦は1ヶ月後という事になった。




