エピローグ
・・・・・・一ヶ月後・・・・・・
平和な村。
色とりどりの花が咲き乱れる草むらで、蝶と戯れる子供達の姿。
戦争が終わって次の戦争までの1ヶ月間は、短い穏やかな期間となっている。
しかし、この期間は次の戦争に備えて冒険者のレベルアップの為の期間でもある。
ここは人間サイドの最後の砦となった島。
島の大きさはそれ程大きくは無い。
日本の島でいうと屋久島位の大きさだろうか、火山島ではなく、岩石質の地質で島全体は原生林に覆われている。
島の南西側の海辺に町が一つあり、船着き場がある。
実は、大陸から島へ渡るには、ダイスケが最初に思った通り船便もあるのだが、島の山体の中腹あたりに在る太陽石の鉱山が、海底を通って大陸まで開通しており、中間地点に拠点も在るために、冒険者は主にこの海底ルートを通って大陸へ渡る事が多いのだ。
そこへ全ワールドに向けたお知らせが響き渡る。
【GMからのお知らせです。
獣人界に新たな神の子が誕生しました。
両陣営ともルールを守って闘いましょう。】
【さあ、神狩の開始です。】
平和とは、次の戦争までの準備期間なんだっけ?
ひなびた田舎の村の中を1組の男女が歩いて来る。
男は、金銀の光沢が眩しいロイヤルナイツのフルプレート鎧を着て、身の丈も有りそうな大剣を背負っている。
頭には、バケツ男と揶揄される、異常に細長いヘルメットをかぶっている。とても戦い難そうだ。
女は、凝ったデザインのフリフリレースがふんだんにあしらわれた、ゴスロリの様な真黒なドレスを着ている。
頭には、これまた装飾の多い魔女の三角帽子を被り、手には竜の爪が珠を掴んだ意匠を施した長い杖を持っている。
二人は今、海辺の小高い丘を歩いて登っている。
「あいつら、生まれたばかりの神を立てて、戦争をふっかけてくるなよなー・・・まだ覚醒もしていないだろ。」
「あーあ、今・・・ダイスケが居ればなあ・・・」
「そんな事を言ったってしょうがないでしょ」
男は今ここには居ないキャラクターの事を思って呟いた。
女はそんな男の呟きを、愚痴を言っても仕方がないと嗜めた。
男はバケツの様な寸胴のヘルメットを脱ぎ、三本角の兜に被り直した。
「やっぱりそっちの方が似合うわね、アーサー」
「アルギヌもな」
アーサーとアルギヌは、町外れにある丘の上に建てられた一軒の石造りの小屋へやって来た。
家と言うには少々小さめなその建物は、トルコやイタリアにある、円筒形に円錐形の屋根を乗せた、伝統的な建物に似ている。
人の住む住宅は、丘の下側の平地に数件ずつ固まって建てられているのだが、この1軒だけはそこから少し離れた丘の上にぽつんと建てられている。何か特別な用途の建物なのだろうか。
アーサーとアルギヌがその扉の前までやって来て、扉をノックしようとした丁度その時、扉が開いて中から女給服を着た女性が二人出てくる所だった。女給服の二人の女性は、手にそれぞれカゴを持ち、1人はその中に沢山の花を、もう1人は果物やパン等の食べ物を入れて持っている。
二人もたった今来た所なのだが、窓からアーサーとアルギヌが丘を登ってくるのを見つけ、出迎えるために扉を先に開けたのだった
「あ・・・、ちょうど今ログインなさってますよ。」
「そうか!グッドタイミングだ!」
女給服の1人がそう言うと、アーサーは家の中に向かって声を掛けた。
「ダイスケ!」
薄暗い家の中から、鉄靴で石床を歩く、カツンカツンという金属音が聞こえて来る。
「酷いよね、神キャラは規約で作り直しできないっていうの。」
(それは最初にしつこい位確認と同意を求められたはずなんだけどね・・・)
アルギヌはそう思ったけど、ダイスケが読めなかったのであろうと思い至り、口には出さなかった。
家の外に出たダイスケは、様々な装飾が施されたメタリックな鎧を身に着けていた。
確か、格闘家はプレートメイルは身に着けられないと言われたはずたっだが?
実は、これはアルギヌ謹製の、プレートメイルに見えるが実は服なのだ。
糸の様に細い赤いヒヒイロカネで編み上げられた全身スーツに、銀色のミスリル銀のヘルメット、青いアダマンタイトと金色のオリハルコンの細かい彫金が施されたプレートで作られた、関節部を保護するパーツ、そして、絹糸の様に細いミスリル銀で編まれたレースのリボンによる装飾で各部が彩られている。
肩プレートと手甲とヘルメットの鍔には蝶のデザインの模様に宝石が配置され、額には大粒のダイヤモンドが光っている。
更に、アルギヌの重量軽減魔法を施された豪奢な全身鎧なのだ。
女神としての威厳を保つようにアルギヌが用意してくれ衣装だ。
店で購入したらいったいいくらするのか想像も出来ない。
(アルギネって、本当にお金持ちなんだなー・・・)
アルギヌは、最古参のプレイヤーなので、実際に財産は沢山持っているらしい。
ところで、ダイスケはこれが初戦争になる。
実際、神であるダイスケが戦闘に参加出来るのは、戦争の終盤で敵に目の前まで攻め込まれた場合か、両陣営の戦闘員が両方共全滅してGvGに持ち込まれた場合しか無いのだが、それでも大規模戦争というシチュエーションにはワクワクが止まらない。
初戦争を経験するダイスケは、やる気満々だ。
両手の拳を胸の高さまで持ち上げ、胸を反らして腕を引いて、再び胸の前で両の拳を打ち付けると、籠手の金属同士がぶつかって火花が散った。
「さーて、いっちょ暴れま・・・・・・・・・・・・」
そこまで言った言葉に被せるように、画面一杯に告知が表示された。
【◇◇◇◇◇『使用期限が切れました』◇◇◇◇◇】
「ダイスケー!!!」
遠くにアーサーの叫びが聞こえた。




