God vs God
「うええ、どうすればいいのこれ?」
こっちに来ても逃げ回るしか手がないの?
逃げ回りながら周囲を見回すと、先に退避していたクレリック達が数人で、石化したアルギネを解呪している所だった。
アルギネの頭の上から光が降りてきて、石化は解除された。
ボクはジャンプでブレス攻撃を避けながら、アルギネの方を見るとアルギネと視線が合ったので、アルギネに向かって手を振った。
「アルギネーー!!」
アルギネは暫くボクを目で追ってから
隣りにいる解呪してくれたクレリックの女性に向かって
「あれはダイスケなの?」
と緊張感の無い質問をしていた。
「アルカナを使えー!!」
遅れてやって来たアーサーがボクに向かって叫んだ。
「ア・・・アルカナって?」
「奥義!必殺技だー!」
アーサーの横では、アルギネを遠巻きにモンスター達(の魂)がザワ付いていた。
「アルギヌだ・・・」
「仲間殺しのアルギヌ・・・」
全員の注目を浴びる中、アルギヌは平然と歩いて来て、アーサーの横に並ぶと
「ほらやっぱり女の子じゃない。」
「いや、今それはいいから。」
「問題はそこじゃなくてなー・・・」
「武術スキルが不幸中の幸いか。」
「そのスキルはゼロだけどね」
「元が踊り子だし・・・」
「私達、死に損だったかな?」
アーサーの左横に立つデーモンと、アーサー達の前に座り込んで見物を決め込んでいる、レイス、キャットピープル、ハーピーの3匹が思い思いに勝手な事を呟いている。
ボクは逃げながら、メニューの中のそれっぽい項目を探すのに必死になっていた。
「こ・・・これかな?」
ボクは画面下に表示されていた、謎のアイコンをクリックしてみた。
すると、アバターは人差し指を真っ直ぐ天に向けると、頭の上の方に眩しい光の玉が出現した。
(おお?必殺技っぽいぞ!)
そう思っていたら、その光の玉は徐々に膨らみ、画面全体を覆う程に光を増し、真っ白になってしまった。
近くに居たコカトリスは眩しさで目を晦まし、少し離れていたアーサーとアルギネも眩しそうに顔を背けていた。
(あれ?ダメージは与えたのかな?)
光は収束し、ボクの周囲にはスポットライトを当てたように光が円状に当たっている。
その光が当たった範囲にあっという間に、1つ、2つ、3つ、と植物の双葉が開いて行く。
「それ、違うぞ!」
「農耕支援コマンドかしら・・・」
農耕支援コマンド、『ガイアの祝福』発動!
って、ちがーう!!
腹を立てたコカトリスが、ボクを嘴で突き刺そうとするのを華麗に(というかギリギリで)避け、せっかく育った双葉を踏みにじった。
なんかちょっと、小学1年生の夏休みの『朝顔の観察日記』を思い出して、宿題を踏みにじられた様な気分になった。
「ほら、また避けた」
「意外とすばしっこいよ」
「ここまでノーダメージ」
「回避性能は意外と高いよ」
「まさか『絶対回避』のスキルだったりして?」
「いや、それだけはあり得ないだろ・・・」
「取得できるのは『エクストラ回避』なんじゃないの?」
3匹はもう完全に観戦モードになっている。
もしもこれが自宅だったら、カウチに寝転んでポテトチップスでもつまんで寛いていそうな勢いだ。
「左側の一番上だ!」
アーサーだけはそれでも真面目にアドバイスしてくれる。
足を滑らせて逆さまに壁にひっくり返っているボクは、必死にメニューを探していた。
「こっちか!」
【Attack】>【Arcana】とメニューを開くと、【1】から【100,000,000】までの数字のみのパネルが開いた。
それぞれの数字の下にはゲージの様な物が表示されていて、【1】にはほんの少し、【10】には半分位、【100】と【1,000】のゲージは満タンに溜まっているみたいだ。
でも、意味が解らない。
「え?なにこれ?」
「もうどれでもいいや!えいっ!!」
ボクは【100】番の数字が書いてある箇所をクリックした。
すると、アバターは自動的に前転して起き上がり、武術のような構えを取る。
エフェクトがなんとも不思議な感じだった。
というのも、音楽の教科書に載っている様な音符が空中を飛んできて、ボクの後ろに出現した9つの頂点を持つ魔法陣に絡みついたのだ。
コカトリスはボクの攻撃を阻止するかのように嘴にオーラを纏わせた、嘴刺突攻撃を放ってきた。
ボクは大地に足を踏ん張り、腕を後ろに回して力を溜め、必殺技を放つ。
【100 Burst !!】
腕に赤いリング状のオーラを纏い、物凄い速さで拳を繰り出す。
お互いの技の威力が空中で衝突し、爆発四散した。
コカトリスは後ろへのけぞり、ボクも後ろへ吹き飛ばされた。
「うし!やった!!」
「通常技を押し返しただけだわ」
相手の通常技とこっちの必殺技が互角。
でも、今まで逃げる一方だったのに、攻撃手段を得た事で、ボクは少し得意になった。
「あの構えはカバディ!」
「カポエイラ」
「音符?」
「何故魔法陣?」
「カラリパヤットでしょ」
「なんか、いろんなスキルがごちゃ混ぜっぽい」
「典型的なダメパターンだ・・・」
3匹は言いたい放題だ。
「たたみかけろ!」
「う・・・うんっ!」
アーサーのその掛け声で我に返ったボクは、素早く立ち上がり、今度はゲージの溜まっている【1,000】の方をクリックしてみた。
【1,000 Axel !!】
ボクは、まだ体勢を崩したままのコカトリスに向かって走り込み、ジャンプして回転をする。
「あれは、フィギュアスケートのアクセルジャンプ!」
「前向きにジャンプして後ろ向きに着地するという、1000回転半のウルトラZ難度の必殺技だ!」
段々ギャグじみて来た・・・
ボクの体は空中で回転し、オレンジ色の竜巻と化した。
そのままコカトリスへ向けて突進する。
嘴攻撃は、回転ノコギリの様な威力の暴風と衝突し、火花を散らして弾かれる。
ブレス攻撃も回転する風の遠心力によってボクの体まで届かない。
オレンジ色の竜巻は、コカトリスの体を巻き込んで切り刻み、そのまま通り過ぎて中央の柱の手前でようやく回転が終わり、カッコよく着地する。
・・・はずだったんだけど、地面に降り立ったボクは目を回して柱に顔をぶつけ、鼻血を垂らして転んでしまった。
「なにやってんの・・・」
「だってあれは踊り子の技じゃないもの。」
アーサーは頭をかかえ、アルギヌは冷静に分析している。
「大技をクリーンヒットして、たった2ミリしか削れないのか・・・」
これが敵の神ヘクターの能力『エクストラ防御』の恐ろしいところなのだ。
異常に硬い。
対峙した相手に、何時まで攻撃を続ければコイツを倒せるのだ?と動揺を誘う。
やがて回復薬も回復魔法も切れ、気力も切れ、ダメージが蓄積し、先にライフが無くなるのはこちらに成ってしまう。
だが今回は、ヘクターに誤算があった。
それは単騎で殲滅できるだろうという目論見の甘さ、人間の島に居た人数の見誤りと、味方の裏切り、人間側の神の覚醒であった。
しかし、折角覚醒した人間側の神は逃げるばかりで攻撃力はほぼ無いに等しい。
それもそのはず、パワーレベリングで強制覚醒させたばかりだから、戦闘スキルはゼロなのだから。
防具だって着けていない。
コカトリス形態で一発でも攻撃を当てさえすれば、簡単に詰みそうだが・・・。
なのに、奴は逃げる逃げる、避ける避ける。
こちらの攻撃は一発も当たらない。
ヘクターはイライラし始めている。
逆に向こうの攻撃はいくら喰らっても殆ど痛くは無いとはいえ、地味に削られて来ている。
まさか【絶対回避】なのか?
いやいや、まさかそれは有り得ない。
回避100%なんて、チートも良い所だ。
何かからくりでも有るのか?
【エクストラ回避】ならば、攻略の手はある。
こちらの【エクストラ防御】は、あくまでも被ダメージの軽減であって、全くダメージを受けていないわけではない。
何処まで行っても被ダメージの『軽減』でしか無いのだ。
防御力パラメーターの上限越えと言っても、パラメーターの計算式上、ダメージは絶対に0とはならないのだ。
例えるなら、紙テープをハサミで半分に、そしてそれをさらに半分に・・・と切り刻んでいっても、永久に無くなる事はない、みたいな感じだ。
決してゼロにはならない。
非常に軽微ながらもダメージは受けてしまう。
そして、異常に手数の多い相手は相性が悪い。
さっきの百烈拳なんかがいい例だ。
ただ、究極に硬いだけでしかないのだ。
延々と攻撃を受け続ければ、やがてライフは削り切られてしまうかもしれない。
ヘクターは焦り始めていた。




