第9話 運命
すみませんが、また、ちょっと怖い話になっているので、気の弱い方はとばしてください。
魔王と話をしていたはずが気がつくと朝になっていた。あれも夢だったのだろうか?
クリスさんに相談してみた。
「うーん……それは考えづらいですね……」クリスさんは困ったように微笑んだ。
「どうしてですか?」
「昨日、魔王を封じていた結界の状況を調べさせたのですが、特に変化が無かったのですよ。」
「それは、つまり……」
「ええ、魔王はまだ結界の中にいる可能性が高いのです。」
昨夜の魔王は夢だとしても、訓練場に現れたのは一体なんだったんだろう?
私の疑問を見透かしたように、クリスさんは続けた。
「集団で幻視をするということは、往々にしてあるのですよ。」
幻視……あれが幻覚だったとは信じられないけれど……
「念のため、調べてみましょうか……」
また、私の額に手を当てる。いつものように、手が熱くなり、私の体も熱くなる。
「魔王の影響が消えています。もし本当に魔王に会っていたとしたら、魔王の影響は強くなるはずですから、おそらく夢でしょうね……」
そうか……
確かに夢のようだった。初めは小さな男の子で、それから魔王の姿になったから……
「魔王の影響も消えましたし、もう大丈夫でしょう。厨房に戻って大丈夫ですよ。」
「ありがとうございます。」
「ああ、でも、今日くらいは御両親に元気な姿を見せた方が良いかもしれませんね。」
確かに、父と母は心配しているかもしれない。
家に帰ってみると、いつも通りの我が家だった。母はいつも通りに不機嫌だし、父はいつもながら変な研究をしている。この夫婦に分かり合うという単語ほど似合わないものはない。ただ、いつものベッドで寝られるのはなんとも嬉しかった。
また、夢を見た。男の子と遊ぶ夢だ。やはり最後は喧嘩になってしまう。
夢から覚めると、体中が痛い。それと同時に激情が襲ってきた。怒りなのか……悲しみなのか……ここではないどこかに猛烈に逃げ出したくなる……そういう感情だ。
私は昔から、この激情が抑えられなくなるときがある。いつもなら、暫くすれば落ち着くのだが、今回はそれだけではなく、全身が引き裂かれるように痛い。
痛いのは嫌だ……
逃げ出したい……
ここから離れたい……
私はベッドから落ちるようにして、ベッドから降りた。全身の痛みが更に増す。
「ギャー」
叫び声がした。暫くして、その声が自分の声だと気づいた。
痛い痛い痛い……
どうしようもなく走り出したくなる私を押しとどめてくれる人がいた。
「大丈夫か……」
魔王だった。
「何故……」私は痛みの中で驚愕する。何故魔王が……
魔王は私の額に手を当てると、何やら呪文を唱え出した。痛みが嘘のように退いていく。
「どうして……」
「余と汝は離れられぬ運命と言うたであろう?」