第42話
聖剣から流れ込んできたイメージの中では、カイン様が兵士たち相手に戦っていた。おそらく兵士たちは隣国の兵士たちだろう。私たちを襲った兵士たちに兵装が似ている。
「怯むな! 敵は1人だ。取り囲んで一気に襲え!」
隣国の将だろうか。味方を鼓舞しようと馬上から声を張り上げるが、隣国の兵士たちは完全に腰が引けている。
カイン様は海岸線沿いの広い平原で1対多の戦いをしているため、簡単に囲まれて、圧倒的に不利なはずだが、カイン様に焦りの色は全く見えない。
カイン様を中心に目映い光球が生まれたかと思うと取り囲んだ兵士たちが消し飛んだ。隣国の兵士たちの目に絶望が宿るが、カイン様は何事も無かったかのように呟く。
「汝らを葬る去ることなど造作もないが……虫ケラのように発生する汝らの相手をするのも面倒だな……」
そう言うと大きな地震が起き、地面が半分に割れ、海側の陸地が海に沈んでいく。逃げ遅れて、海に沈んでいく兵士たち……
「うわー、化け物だ!」
天変地異を間近で見た兵士たちは完全に怖気付き、潰走を開始した。
「くそ、豊かなドラファレスは目前だというのに……」
悪態をつきながら、隣国の将は馬の首を反転させる。
おそらく、隣国がドラファレスに攻め込む寸前に、カイン様が追い返したのだろう。こういったドラファレスを救うことをカイン様はずっと過去から続けてきたのだ。
やはりカイン様が魔王であるはずがない。そういう思いが強くなった。
目の前が暗くなり、別のイメージになった。
カイン様が立っている。ドラファレス城の広間のようだ。そのカイン様の周りを、明らかに魔族と思われる人間以外の何かが囲っていた。魔族の特徴なのだろう。目が全員一様に金色で肌が青白い。
その中の、怪しげに光るグラスを持つ魔族がカイン様に声をかける。
「陛下もいかがです? 今宵は、我々の世界征服の前祝い、そう主役に沈み込まれては盛り上がりに欠けるというものです」
「余は遠慮しよう。汝らで盛り上がれば良いのだ」
「それにしても、ドラファレスの王族どもを殺すなとは、どういう意図でありますかな? あやつらに利用価値などありますまい」
古株らしい、もう1人の魔族が尋ねるが、カイン様はその問いに応えず、真顔でその魔族の顔を覗き込む。
「失礼いたしました。陛下の深謀は我々の推し量れるようなものではありませぬな」
カイン様の機嫌を損ねたと思ったのか、その魔族は平身低頭して謝罪した。
「なに、気にするな。汝らに飽きたら、ドラファレス王を助けて、人間の繁栄に尽くすのも良いかと思ってな」
カイン様の、この応えに、魔族たちは戦慄する。青白い顔が更に青くなった。
「冗談だ。笑え!」
カイン様の言葉に、魔族たちの白々しい笑いが巻き起こる。
この光景を見ながら私は混乱していた。
これは、どういうことだろう?
先程のイメージとは全く別だ。これでは明らかにカイン様は魔王ではないか……
また、暗転し、別のイメージになった。
そのイメージの中では、カイン様が先程の魔族たちを惨殺していた。
「何故です!?」
最後まで生き残った魔族が絶叫する。なぜドラファレス王を殺さなかったのか、カイン様に聞いた魔族だった。
「もうすぐ死ぬのに理由を知ってもしようがあるまい……」
「ですが、このままでは死に切れません。何故ですか……」
「汝らが暴れれば聖剣の力を弱まるかと思ったのだがな……どうにも駄目なようだ」
「そんな理由で……」
そこまで言って、その古株らしい魔族はカイン様にとどめを刺された。
このカイン様の姿を見て、私はカイン様は魔王だったのだと確信せざるを得なかった。




