第41話
カイン様の全魔力を投入したかのような豪雨でも溶岩は全く止まらない。溶岩の一部がドラファレスの街を焼き出した。胃の腑がねじれるような、重い感情が巻き上がる。
やはり、聖女の力を使うしかないのでは?
と思っていると、そこに父が数人の兵士と共にやってきた。
そう他でもない、私の父、レイモンドだ。
「ご安心ください。カイン様。避難は済んでおります」
父が頭を下げて、カイン様に報告する。
「火山の噴火は無いと報告しているのに……」
私が呟くと、父は嬉しそうに話し出した。
「なに、可能性として、火山の噴火も捨てておかなかったということだよ。実際、役に立っただろう?」
ふうむ。なんだか馬鹿にされているような気がするが、ドラファレスの皆が助かったのだ。良かったのだろう。
「しかし、なぜここにいるのが分かった?」
カイン様が問う。
「雷光がカイン様を照らしているのが見えまして、溶岩を止めようとなさっているのではないか、と思い駆け参じました」
父が神妙に応える。
「そうか……」
カイン様は深く深く嘆息して、そして呟いた。
「ドラファレスに我が力は不要になったのかもしれんな……」
「そんなことがある訳がない……」
聖女が呟くが、それにカイン様が応える。
「しかし、国難は去ったのではないか……しかも我々の力は使わずに……」
「でも……」
「汝がどう思おうが自由だ。だが余は疲れた。少々休ませてもらおう」
カイン様は、ドカッと大地に座り込んで目を閉じてしまった。今まで気付かなかったが、黒い髪に白髪が混じっている。なんだか、その白髪がカイン様の長年の闘いの疲れを象徴しているように見えた。
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「お前さえ、お前さえ居なければ……」
ハッと気付くと、アン様が聖剣をカイン様の背中に突き刺すところだった。カイン様の背中に刺さった聖剣は腹まで貫通していく。明らかに致命傷だった。
とっさのことでカイン様も誰も反応が出来なかったのだ。カイン様は魔力が使えれば、物理攻撃は無効化できるので、そのせいで反応が遅れたというのもあるのだろう。
その様子を見て私は呆然と呟く。
「アン様は聖剣を使いこなせないはずじゃ……」
「私とてドラファレスの者、聖剣を使えないはず無いでしょ」
アン様は吐き捨てるように言う。
「さあ、今よ。ドラファレスに攻め込みなさい!」
アン様が隣国の兵士たちに指示を出すが、カイン様は刺さっている聖剣がまるで無いかように、掌を兵士たちに向けた。兵士たちは怖気付いたかのように逃げ出した。
「フッ、汝らを追い払う程度なら訳もない……で、だ」
「ひっ」
カイン様がアン様を睨むと、アン様は短く悲鳴をあげて逃げて行った。
それにしてもアン様は聖剣を振るえないと、私に嘘を吐いていたのか……
それは、なぜ?
いや、それよりも今はカイン様だ。
だが、カイン様の様子は意外と穏やかだった。黒い血を腹から流しながらも言う。
「レイモンドとやら、汝がいればドラファレスは安泰かもしれんな。余が消え去った後はよろしく頼むぞ」
「もったいない御言葉、カイン様をお守り出来なかった私にそのような……」
「気にするな……」
仁王立ちになりながらカイン様はなおも呟く。
「もとより、こうして消え去る運命だったのかもしれんな……」
そこに聖女が寄り添う。
「そうね……長い間ありがとう……私は大丈夫だから……」
「ちょっと、待ってよ!」と私は叫ぶ。
こんな訳の分からないまま、すべて終わった感じにされてたまるか!
そう思いながら、私はカイン様のそばに寄った。なによりも怪我人を放っておいて何が聖女だ。
そして、カイン様に突き刺さった聖剣の柄を握った。思った通り、聖剣からは凄まじい力が私に流れ込んでくる。その力をカイン様の怪我の回復に使いながら、少しずつ聖剣を引き抜く。
今まで回復に成功したのはクリスさんだけだったけれど、今回は絶対に上手く行くという確信があった。呪文の詠唱はイマイチ怪しいが、なにより聖剣の凄まじい力が助力してくれる。クリスさんがいつもやっている砂時計と同じような効果が聖剣にもあるのではと思ったのだけれど、予想以上だった。
それと同時に、聖剣の古い記憶なのだろうか……
様々なイメージが私の中に流れ込んできた。




