第4話 ペペロンチーノ
アルベルト様と2人で笑っていると、そこに金髪の女性が現れた。
「あら、楽しそうねえ」
多分私と同じくらいの身長だが姿勢が良いせいか大きく見える。そして、綺麗な金髪のストレートヘアに、アルベルト様と同じ深い青色の瞳が印象的だ。
「貴女がレイチェルかしら?」
「はい。レイチェルです。本日から料理人としてお仕えしております」
なんで私の名前を知っているんだろう?
「あら、そう」と微笑んだ。切れ長な瞳のせいでちょっとキツい印象だったのに、スゴイ優しそうになる。
「姉上、食事中に席を立つなど、はしたないのではなかったのですか?」
「ええ、そうです。ですが、可愛い弟の想い人と話すためであれば、はしたないとの誹りも甘受いたしましょう」
「僕の想い人って、僕はそんなことを言った記憶はありませんよ」
「想い人でなければ、私の影を使ってまで住所を調べ上げたのは、なぜなのかしら?」
その女性が悪戯っぽく笑みを浮かべながら小首を傾げると、長いストレートの金髪がサラサラと動く。
あれ、やっぱり調べてくれていたんだ。確かに、なんで私の住所が分かったんだろう?
て、不思議ではあったんだよね。
「あれはですね。彼女の膝掛けを返しそびれて……」
「そもそも、なぜレイチェルの膝掛けを貴方が借りていたのかしら?」
もうアルベルト様は目を白黒させている。
その女性はフフと笑うと、
「このくらいにしておきましょう。レイチェル、よろしくね」
と言って、席に戻って行く。アルベルト様も軽く挨拶して席に戻って行った。
※※※※※※
「スゴイだろ。アルベルト様と冗談を言い合ってたんだぜ」
まかないを食べながら、スージーが興奮したように皆に言う。
さっきから、厨房ではスージーを中心に、アルベルト様と私の話で大盛り上がりになっている。
「しかも、その後、アン様まで出て来て、こう言うんだ。あら楽しそうねって」
「ほう、アン様まで。そりゃあ、スゴイ」
「膝掛けをアルベルト様にお貸ししただけですよ」
と私が火消しに走っても、
「でも、それがあったから料理人として雇われたんだろ?」
「こりゃあ、料理人というのは建前で、おそばに置きたいだけかもしれんなあ」
「なるほど、未来の王妃は決まったか?」
ワッハッハと、どこまでも盛り上がる。
私は火消しを諦めて、まかないのパスタに集中することにした。このパスタは、先ほど運んで行った手の込んだパスタとは違い、ニンニクと鷹の爪を入れただけのペペロンチーノではあったけれど、私が今までに食べて来たパスタの、どれよりも美味しかった。パスタの弾力、パスタへの味の染み込み、どれをとってもピカイチだ。
「これ、美味しいですね……」と、おずおずと言うと、
「そりゃあ、ジョンお手製のまかないだからなあ」
「若いのに大したもんだよ。あの歳でサブメインを任されるのも納得だ」
あれ?
ジョンという人の話になったぞ。
そのとき、茶色い髪の男性が不機嫌そうに立ち上がった。お皿を運べと怒鳴った人だ。
「話してないでサッサと食え。それから、そこのドレスの奴、ここは遊ぶ場所じゃないんだぞ」
ちょっとカチンと来た。
「私だって、ちゃんと作業着を着てこいと言われたら、着てきましたよ。特に指定が無かったし、お城なんだからドレスかな?と思ったんです!」