第36話 刺客
この話から戦闘シーンが続きます。心の準備をお願いします。
山道の方を厳しい表情で見ていたカイン様が、その表情のまま、私に問い掛ける。
「レイチェル、見えるか?」
「ええと……」
何がだろう?
私には何も見えないが……
「どう見ても、客ではないな。しかも数が多い……」
私には見えないが、侵入者がいるようだ。
「この私に挑もうとする時点で、数など関係ないが、レイチェルに怪我があってはならんからな」
そう言うと、カイン様は不敵な笑みを浮かべて、魔法の詠唱を始めた。あたりに魔力が充満していくのが良く分かる。
だが、チャペルの奥から人の気配がした。
「カイン様!」
私は小さな声で叫ぶ。私の声にカイン様は頷き、そして呟く。
「なるほど……魔法の無効化か……用意が良いことだな……」
その次の瞬間、カイン様の体が一瞬で部屋の隅に移動する。その腕の先には黒い衣装に身を包んだ男が苦しそうにしていた。
速い!
カイン様は魔法だけじゃないんだなあ……
と、ぼんやり思った。
「魔法以外での攻撃など久しぶり過ぎてな。どうにも加減ができる気がしないが……誰に頼まれたか吐けば命までは取らんぞ」
そうカイン様が言っているうちに、男は血を吐いて意識を失った。
カイン様は苦々しく呟く。
「舌を噛んだか……良く訓練されている……」
その後も、刺客たちが私たちが滞在しているチェペルに侵入してきたけれど、カイン様が次々と制圧していく。カイン様の強さは圧倒的であった。
それにしても、その刺客たち全員、一切、言葉を発しないのは驚愕に値した。
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カイン様が一通り制圧し終わり、休憩しているところに、チャペルの戸を叩く音が聞こえてきた。
「カイン様!、レイチェル!」
アン様が兵を連れてやって来てくれたのだ。私たちが無事なのを見て、嬉しそうな笑みを浮かべる。
その笑顔はあくまで自然。
だけど、こういうとき、こんな自然な笑顔ができるものだろうか……
それより何より駆けつけるのが早過ぎないか?
もし、アン様が事前にこうなる事を知っていたとしたら?
様々な疑念が私の頭の中を渦巻く。
「無事でよかったわ」
嬉しそうに微笑むアン様に、私は問いかけずにはいられない。
「アン様、なぜですか?」
「何のことかしら?」
アン様は目を細めながら、私を困ったように見つめる。まるで、駄々っ子をあやす母親のような慈愛溢れた表情……
「刺客の1人が吐きましたよ……アン様……なぜですか?」
一応、外れた場合も考えて、解釈の余地は広めに、鎌をかけてみる。
私の問いに、アン様は、さきほどの表情からは想像もできないような怖い顔になった。




