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第28話 魔の法

皆が注目する中、私はパニックになっていた。

アルベルト様が将来の妻として紹介しようとしているのはどう考えても、肩に手が置かれている私だろう。


あれ?

もしかして私がいつの間にか、アルベルト様の妻になることになっていた?


もちろん、アルベルト様の妻になるのは嫌ではないけれど、それにしたって、結婚してくださいとか、一生共に歩もうとか、それなりのプロポーズがあってしかるべきではないか?


私の不満とは裏腹に、アルベルト様は皆が静かになったのを見て満足そうに頷いた。


アルベルト様が、さらに言葉を続けようとした瞬間、

大広間の中央に魔王が現れた。


大広間が時が止まる。誰もが思考を停止し、突然出現した魔王に注目する。その1拍子後、大広間は悲鳴で埋め尽くされた。


「なぜ……」

アルベルト様は驚愕しながらも呟く。


「何故とは? 古の法に背こうとする輩を止めに来ただけだが?」

魔王は、面白そうにゆっくり歩いて来る。まるで散歩をするようにのんびりと……


「レイチェル、さがって」

アルベルト様は、私を後ろにさげて、前に出る。しかし、アルベルト様は聖剣を持っていない。


「それにしても興味深い……何かの攪乱要因があったか……」

魔王は呟きながらも歩みは止まらない。


アルベルト様と魔王が対峙するという瞬間、白い影が割って入った。

クリスさんだった。


「何回も遅れをとるわけにはいかない!」

クリスさんは掌を魔王に向ける。


「クリスとやら、限界ではないのか?」

「そんなことはない!」


クリスさんは懐から、砂時計を2つ取り出し、さらに魔法を強化する。大広間の中の空気が震えているのが分かる。それと同時に、クリスさんの周りに黒い霧が漂い始めた。


「前回、余が途中で止めたとは言え、自分の器以上の魔力を酩酊状態で受け入れようとしたのだ。さらにそんなことをすれば……」

「うるさい!」


「それが汝の選択であれば、止める義理もないか……」


クリスさんの魔法が全く効かないのか、魔王はクリスさんを無視して私の所まで来た。アルベルト様も聖剣がなくては無力だ。


「時が満ちるまで、まだあるはずだったのだがな……」

魔王は愛おしげに私の髪を撫でる。


「レイチェルに触るな!」

あろうことか、クリスさんが魔王に殴りかかった。拳が魔王に届く前に弾かれ、クリスさんは床に叩きつけられる。クリスさんを覆う黒い霧がさらに濃くなり、獣のような咆哮が辺りに響いた。


クリスさんは痛みと怒りに我を忘れて顔を歪めている。目は真紅と言って良いほど真っ赤だ。とても、あの優しいクリスさんと同一人物だとは思えない。


「ねえ、クリスさんはどうなっちゃったの?」

「魔の法から外れたのだ……正気には戻るまい。殺しておくか?」


そんなの絶対ダメだ。


「お願い。なんとかして!」


魔王は困った顔で、私を見つめて言う。

「人間の法も時として人を殺すであろう? 魔の法でも同じなのだ。禁を破れば、それなりの報いはあるものだ」


人間の法が人を殺す?

死刑という意味だろうか?


「ねえ、お願いなの……」

涙が出てきた。私はクリスさんを助けたい。


魔王は暫く困った顔をしていたが、苦しげに言う。

「まだ早いのだが……余の後に続いて唱えよ」


魔王が唱え私がそれを追う。それは長い長い詠唱だった。普段、魔王やクリスさんが唱える呪文とは全く違う、言葉自体が意思を持つかのような詠唱だった。


驚いたことに私はその言葉を一言一句間違えず、というかむしろ自分の言葉のように唱えられた。唱えるたびに、胸が締め付けられるような悲しさが、それらを跳ね除けんとする強い意志が、そしてそれら1つ1つを愛おしく思う気持ちが、生まれては消えていった。


気が付けば、クリスさんの周りを覆っていた黒い霧はすっかり晴れていた。


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