第26話 アン様の欲しい物
侍女に冗談を言ったアン様は、今度はこちらに向き直り、笑顔のまま言う。
「どれを選んでも良いと言われても困るわよね」
ええと、悩んでいるだけで困っているわけではないのですが……
私の返答を待たずに、アン様はスタスタと歩き出し、小さなクローゼットの前で止まった。
「ここに入っているのが私のお気に入り。良かったら、ここから選んでくれないかしら」
そのクローゼットを開けてみると、リボンやレースのたくさん付いた可愛いデザインのドレスでいっぱいだった。
あれ?
アン様も意外に可愛いのが好きなんだな。
今お召しになっているドレスは薄い青のシンプルなデザインで、アン様のスタイルの良さを際立たせているだけに、こういう可愛いドレスが好きだったとは意外だ。
普段着れないから、かえって憧れるという乙女心なのだろうか……
「手に入らない物ほど欲しくなるのよねえ……」
と、アン様は私の心を見透かしたように、独り言を呟く。
アン様の手に入らない物とは可愛らしさなのだろうか?
だとすると、私もそんなに可愛らしさは持ち合わせていないのだけど……
それでも、アン様からのオススメを断るのは難しいので、これらの可愛いドレスのうち、一番シンプルな物を選んだ。シンプルではあるが、それでも全体的にレースで装飾してあり、可愛らしさ全開だ。おまけに背中に大きなリボンが付いている。
「あら、それなの。まあ良いわ。あなた、着せてあげてくれるかしら?」
アン様は少し残念そうにしながら言う。
さきほど、青くなっていた侍女は慌てて駆け寄り、着替えを手伝ってくれた。
大体着替えが終わって、あとはリボンを付けるだけとなったころ、なんだか部屋の外が騒がしくなった。
「……それでレディの着替えを覗きに来た訳ね……」
と、アン様の声がする。
「違います! 姉上。何を聞いていたのですか!?」
ええと……この声は……アルベルト様だ!
それからなにやら声が聞こえなくなった。着替えが終わったので部屋を出てみると、やっぱり、アルベルト様がいた。
「レイチェル、あなたをダンスに誘いたいそうよ」
「姉上、それは僕から言いますから」
「まあ。それでは、お邪魔虫は消えましょうか。そのドレスよく似合っているわよ」
と、アン様は去っていった。
うわあ、アルベルト様と2人きりだ。どんな話になるんだろう?
アルベルト様の綺麗な2つの深い青色の瞳が私を見据える。
ドキドキしていると、アルベルト様は私に向かって言う。
「踊っていただけますか?」
至ってシンプルだった。第2王子のアルベルト様が、平民の私にダンスを申し込むだけでも凄い話ではあるのだけれど。
「喜んで」
一応、笑顔を作る。
これなら、別にアン様を追い払う必要なかったんでないかなあ、と思いながら、アルベルト様が差し出してくれていた右手に、私の手を置いた。




