第23話
風穴から帰った私たちに料理人の仲間が心配そうに集まってきた。
「遅かったなあ。何をしていたんだ?」
「あれ? アタシたちはスープを置いてすぐ帰ってきたはずだぜ?」
スージーが、とぼけてくれた。私のワガママで時間がかかっちゃったから、遅くなったんだけど、それを言ったら私が叱られると思って誤魔化してくれているのだろう。良い友達を持ったものだ。
「みんな、何を言っているんだろうな?」
スージーはまだ不思議がっている。私に対しては、とぼけなくても良いのに。念のためというやつかな?
それからは、スージーの予想通り、雑用がたくさんあったので、それらをこなしていった。まあ、いつも通りと言った感じだ。そして、風穴に置いてきたスープも回収する。スージーが言っていた通り、キンキンに冷えていた。
風穴から戻ってくると、大広間の方で、ラッパの音がした。
「始まったのかな?」
「ああ、多分な……」
ドラフォレス城で夏至祭が始まったのだ。ああ、行きたいなあ。
雑用をこなしながらも、大広間の方から聞こえてくる音が気になってしょうがない。ときどき聞こえてくる大歓声が特に気になる。
そうやって雑用に身が入らないでいると、ジョン主任が見かねたように言う。
「夏至祭の様子を見てきてくれ……」
「あれ? 良いんですか?」
まだまだ、雑用はたくさんあるのに……
「俺たちの料理が喜ばれているかを見てくるのも大事だからな。様子を見てこい」
「はい!」
スージーと私は、踊りださんばかりに喜び、大広間に向かった。自然に笑顔になる。
いつもは王族貴族で近寄り難い雰囲気の華やかな大広間も、今日は一般市民でいっぱいだった。と言っても、みんな着飾って来ているので、華やかなのは変わらない。私たちは料理人の作業着なので、ちょっと場違いかな?
私たちが大広間に入ったとき、ドラフォレス王が笑顔で片手を上げて大歓声に応えていた。王のスピーチが終わったところだったらしい。ドラフォレス王のスピーチは国民に人気があり、いつも大歓声に包まれて終わるのだ。聞きたかったなあ。
料理の方を見れば、早速、冷製スープは大人気のようだ。良かった良かった。今まで知らなかったけど、風穴で冷やしているから冷たいし、なにしろ珍しいし、人気が出るのも頷ける。
一通り、様子を見終わったところで、スージーが言う。
「なあ、着替えてくるか?」
「そうだね」
私も、この華やかな場で、料理人の作業着なのが耐えられなくなってきたところだった。
一応、私には、お城に来るときに新調したドレスがある。あれを今着ずして、いつ着ると言うのだ。ということで、大急ぎで宿舎に戻りドレスに着替える。スージーも意外と可愛いドレスを持っていた。
「あれえ?」
「べ、別に、アタシが可愛い服持っていてもいいだろ!」
「スゴく可愛いよ」
スージーは、真っ赤になって抗議しているけど、本当に可愛いクリーム色の膝丈のドレスだった。襟部分のレースの意匠がスージーの綺麗な赤毛をよく引き立てている。でも明らかにサマードレスといった感じなので、もしかしたらスージーは複数枚ドレスを持っているのかも?
スージーは意外と乙女だったんだなあ。
お城の大広間に戻ると、そこには魔王がいた。
「エスコートが必要だろう?」
と、話しかけてくる。
あれ? なんで騒ぎにならないんだろう?
魔王の格好は、どう見ても目立つはずなのに……
「このお兄さんはレイチェルの知り合いかい?」
スージーも、そんなに驚いたふうではない。
「なに、汝以外の者には、普通の人間に見えるように魔法をかけてあるのだ」
と私の耳元でささやくと、魔王はニヤリと笑った。




