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第2話 お城へのドレス

ドラフォレス国の第2王子アルベルト様に、駄目だろうかと見つめられて、私の顔は熱くなる。おそらく真っ赤になっているだろう。確かに国の行事に参加されているアルベルト様をお見かけしたことはあったけれど、縁のない雲の上の人だと思っていたし……

まさか、こんな風に出会えるなんて思ってもいなかった……

我が国の王子様をツンツンしてしまったし……


色々なことが頭の中を駆け巡り、訳が分からなくなって、私は駆け出した……



どこをどうやって帰って来たのかイマイチ記憶が確かではないが、今は家で落ち着いている。両親ともにこういうときは私をそっとしておいてくれる。


考えてみれば、愛の告白をされた訳でもないし、雇用条件を聞いておいて保留にしておけば良かったなあ……と悔やまれる。


なにしろ、私は勉強があまり得意ではない。そのせいで中等科から高等科には進めなかったので、現在、就職活動中なのだ。しかも、良い就職先を見つけて来ても、母が難癖つけて全部断ってしまうので、なかなか決まらない。


これが、王家の料理人ということであれば、母も納得してくれるだろうし、きっと条件も悪くはなかっただろう……


「はあ、失敗したなあ……」



「レイチェル、お客さんだよ」

父が言う。


私にお客さん?

仲の良かった友達はみんな高等科に進んでいて今は授業中のはずだ……


「は〜い」

と、声を出しながら、玄関の方を見ると、明らかに王家に仕えています、というような執事風の男性が立っていた。


「レイチェル様ですね?」

「ええ、そうですけれど……」

「アルベルト様より2点ほど伝言です。この膝掛けを返し忘れたので、とのことです。また、ドラフォレス家の料理人になる件は考えてくれただろうか?、とも」


あっけにとられている私に、その男性は膝掛けを渡して来た。確かにアルベルト様から返してもらってはいなかったけれど、どうやって、この家が分かったのだろう。ただ、返してもらった膝掛けは、なんだか優しい香りがした。


「お受けします」と母が出て来た。

「ちょっと、お母様。答えるのは私ですよ」

「いいじゃないの。アルベルト様から直々に誘ってくださるなんて、光栄なことだわ」


「……それでは、料理人となる件は、受けてくださるということでよろしいのでしょうか?」

「はい。喜んでお受けいたしますと、お伝えください」

と母が答える。こういうときは私は黙ることにしている。何を言っても無駄だから。

それから暫く母の世間話が続いた。


その後、母は料理よりも、娘が王族に仕えるということに頭がいっぱいになっているようで、ドレスを準備したり、アクセサリーを新調したり、暴走気味であった。ただ私も、ドレスやアクセサリーを準備してもらえるのは嬉しくて、私からも色々と要望を出させてもらった。


出発の日にも母は言う。

「料理人とは言え、王族の方々にお会いするのです。絶対に失礼があってはなりませんよ」

「大丈夫です。昔からお母様に礼儀作法を習っているではありませんか」


これは少々控えめな表現だ。私は幼少の頃から母から礼儀作法を文字通り叩き込まれるように教えられてきた。母が言うには、いざというときに礼儀作法も知らないのでは馬鹿にされると。平民の子にいざというときもなにも無いだろうと思っていたが、何でも役に立つことはあるのだなあ、と思う。


それにしても、新しく準備したドレスに身を包むと、心まで華やいでくる。今回のドレスの基調は白で、襟や袖口などのポイントとなる部分は紫色になっている。そして、前の部分を右から左に包み込むような非対称のデザインになっていて、左で合わせる縁部分も紫色になっている。そこをアメジストをあしらったピンで留めるのだ。このアメジストのピンのデザインは私発案の物で、かなり気に入っている。留め方を変えることで毎回イメージを変えられるからね。これでアルベルト様にお仕えするのだ。これで心が浮き立たない訳がない。


お城に着き、直接厨房にドレスのまま案内される。アルベルト様に会えるかな、と思っていたが、そうそう会えないようだ。


厨房に入ると、そこは戦場のようだった。料理人たちがたくさんいて、何枚もの皿に美しく料理が盛り付けられていく。あれは前菜だろうか……


案内してくれた人がなにやら1人の料理人に話していた。

「この忙しいときに新人か……サブメインでいいだろ。スージー面倒見てやれ」


「へーい」

三角巾をした女の子がこっちに小走りに来て、


「うわ、なんだい。その格好」


え?

何ってドレスだけど……


「まあ、しょうがない。今は一番忙しいときだから。もう1、2時間したら落ち着くからね。それまでちょっとその辺で見ていてね」

「は、はい」


場違いな服装で来てしまった私は、この職場でやっていけるのか、ものすごい不安になった。

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