第19話
翌朝、厨房に入ると、クリスさんと私の話で盛り上がっていた。第2王子を手玉に取った女料理人が、今度は宮廷魔術師にも手を出した、とか、なんとか……
完全に、ゴシップネタになってしまっている。
アットホームな職場だけに、こういう噂はすぐに広まる。というか、スージーというスピーカーみたいなのがいるせいなんだけど……
「スージー」
怖い顔を作ってスージーに詰め寄る。
「なんだよ。遅刻を誤魔化してやったし、怒ることないだろ」
まあ、そうなんだけどねえ。
「明日は夏至祭だし、今夜は腕が上がらなくなるまで、ジャガイモの裏ごしだぜ。仲良くやろう!」
スージーは、親指を立ててウィンクをする。
そんなので誤魔化されるかああ、とは思うけれど、今更怒ってもしょうがないか。下手に突っ込んでジョン主任とバーに行ったことまでバレたら、更にみんなに弄られてしまうしね。
ディナーの片付けで済んでから、スージーと私はジャガイモを取り出しに倉庫に来ていた。普段なら1人で十分なんだけど、なにしろ量が尋常ではないので2人掛かりだ。
「それにしても、こんなに作って残ったらどうするんだろうね?」
と素朴な疑問をぶつけると、
「ところが、この冷製スープは大人気で、毎年売り切れるそうだ」
とのこと。
へ〜。レシピが良いのかな?
まあ、冷製スープはドラフォレスでは滅多に見かけないし、珍しさもあって、みんな喜んで飲むのかもしれないね。
「という訳で、今年も同じ分量を作ることになっているんだけどな。もし、これで残るようなら……」
スージーが勿体つける。
「残るようなら?」
「私たちの料理の腕が歴代の中でも最低ということになるんだ」
ひょええ。まあ、そうなるのか……
うわー、もっと練習しておくんだったなあ。
「夏至祭に向けた準備ですか?」
ちょうど通りかかったのか、クリスさんが、にこやかに声を掛けてきた。
あれ?
昨夜の魔王が現れた件については、気にしていないのかな……
クリスさんに会うまで忘れていた私も私だけど……
「昨日は本当にご馳走様でした。ご両親には、宜しくお伝えください」
「こちらこそ、わざわざ、我が家においでくださり、ありがとうございます」
あまりに普通のやりとり過ぎて、かえって違和感があるな。
それにしても普段と変わらず落ち着いた雰囲気のクリスさんではあったが、なんだか、クリスさんの赤い目がいつもよりも赤くなっているような気がした。




