第18話 夏の夜
魔王にクリスさんが文字通り消された。
魔王のあの口ぶりから言って、クリスさんの自宅に移動させられているだけだとは思うけれど、心配だ。父に相談しよう。
急いで我が家に戻った私が見た光景は、微笑ましいと言えば微笑ましいものだった。なんと父と母が抱き合っていたのだ。
この夫婦は、誤解されることが多いが、お互いに心の底から愛し合っているのだ。ただ、コミュニケーションが喧嘩になってしまうことが多いというだけで……
わざわざ男爵令嬢が一般人と結婚をしたという一点をとっても、それがどれだけ困難であったか、そして、その障害を乗り越えようと決めた、この夫婦の愛の深さが分かろうというものだ。
ただ、だったら喧嘩しないでよ〜
と思う。私が小さい頃などは、両親が喧嘩をするたびに離婚しないかヒヤヒヤしたものだ。今となっては馬鹿げた心配だったと思えるけれど……
両親の愛し合う姿に辟易した私は、そっと家を出た。なんだか全てが馬鹿らしい。本来であれば宿舎に戻るべきなんだけど、そのまま街中に行くことにした。
まだ空が薄く明るい。夏が来たのだなあと思う。
街中の店を覗き見しながら歩くと、酒屋では夏が来たのを祝うように、大人たちが酒を呑んでいた。みんなひどく楽しそうで、それが無性に羨ましい。
2人だけの世界を作っている男女、美人さんを囲って楽しそうに話をしているおじさんたち、女性だけで盛り上がっているテーブルもあれば、バーテンダーと話し込んでいるおじいさんもいる。
外から覗いていると、それらが何かの絵のように、なんだかキラキラ輝いて見えた。
そうやって、いちいち覗きながら歩いていると、声をかけられた。え! ナンパ?
と思って見ると、
「お前は何をしているんだ?」
あちゃー、ジョン主任だ。
「ええと、散歩です……」
「散歩か……じゃあ暇だな。付き合え」
あれ、なんだか、いつもと違う。酔っているのかな?
ジョン主任は、ドンドン歩いて行って、街中の静かなバーに入って行った。ええと、これは私も入るべきなのかな?
「早く来い」
と、手を引っ張られた。夜のお店に入るなんて、なんだか大人になったみたいだ。
入ったお店は、バーテンダーが1人の静かなバーだった。私たち以外には誰もいない。
ジョン主任の酒は静かな酒で、何も言わずに酒を一定の間隔で口に運ぶ。私は流石にお酒は早いかなあと思って、ノンアルコールのカクテルにしてもらった。けど、このカクテル、少し酸っぱいな。
ジョン主任があまりに話さないので、私は主にバーテンダーの人と話をした。
バーテンダーも苦労は多いらしい。
ジョン主任は、ひとしきり飲み終わると、
「今日はありがとうな」と言って帰って行った。
あれ?
送ってくれないのか。私、一応、かよわい乙女なんだけど……




