第16話
「すごいご馳走ですね」
クリスさんはびっくりしている。我が家は来客が来るときは御馳走を用意することになっている。なにしろ種類と量が尋常ではないので、初めての人は面食らうようだ。
私も久しぶりに、ジルの手の込んだ料理を楽しんだ。今まで当たり前だと思っていたが、料理人として働き出した今になって、ジルの偉大さがよく分かる。なにしろジルは独りきりで、前菜からメイン、果てはデザートまでを一気に作り上げるのだ。有能以外の何者でもない。
この有能なジルは、この家に来て長いのに不平不満を言わずに母に仕えてくれている。なんでも母が男爵令嬢だったときから仕えてくれているとのことだ。更に言うと、給金の一部を男爵家から貰っている。
この辺の話になると、父の沽券に関わるので、母は人前どころか私の前でもしないが、ジルの給金で夫婦喧嘩をしていたことがあって、なんとなく知っているのだ。
「宮廷魔術師と言うと普段はどういうお仕事をなさっているのですか?」
一応、母がクリスさんに話を振る。
「ええ、まあ雑用が多いですけれど……」
と、クリスさんが話を始めようとしたときに母がすかさず割り込む。
「私も雑用が多くて大変ですの。全くどこも同じですわね」
「ええ、まあ……」
家で主婦をしている母と宮廷魔術師のクリスさんの雑用が同じ訳はないのに……
流石のクリスさんも苦笑いだ。
こんな風に、クリスさんも母に圧倒されて完全に聞き役になってしまった。母の青い瞳がランランと輝く。こういうとき、やっぱり母はお嬢さんなんだなあ、としみじみ思う。
それにしても、クリスさんの食べ方は綺麗だ。フォークやナイフの使い方が上手なのは当たり前として、母の話に笑顔で応えながら、話すときはしっかりと口に入れた物を食べ終えてからにしている。こういうところに育ちが出るんだろうなあ。
結局、母が自分の話をし続けたこともあり、魔王の話や父の就職の話などは全く出なかった。
その後、母はクリスさんと父を別室に移動させた。母が言うには、一人前の男性は、食後に男性だけの空間でウィスキーと葉巻を楽しむものだと言うのだけれど、父はお酒は飲んでも葉巻は吸わないのに……
それでも、うるさい母抜きで、クリスさんと父が話ができるのはいいことかなあ、と思った。
その間、母とジルと私はハーブティーを楽しんだ。このハーブには心を落ち着ける効果があるということだけど、母を見る限りほとんど効能は無いようだ。お茶を飲みながら、母から、お城での仕事の話を聞かれたので、ところどころ省略しながら話をしておいた。
母に下手に失敗した話でもした日には、お説教が始まってしまうのだ。情報は絞らざるを得ない。
「アルベルト様とは、ほとんど接点が無いのね」
「はい。第ニ王子様と、そうそう接点が持てる訳はないではありませんか」
とだけ、答える。母は少し残念そうだ。
母は続けて、
「それで、クリスさんとは上手くやっているの?」
聞いて来た。
上手く?
まあ、クリスさんは大人なので、喧嘩したりはしないが……
上手くやっていると言うよりは、クリスさんに上手く扱ってもらっているという感じかなあ……




