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相神 ~呪殺人、弥勒秤~  作者: K村 Tかし
操神の章
6/6

・決着

 昼下がりの公園で優菜が一人で遊んでいると、一人の老人が近づいてその肩に触れる。

 すると優菜の姿は、紙人形に転じてしまい、ヒラヒラと地面に舞い落ちてしまった。


 「何だと?!」


 「何だも何も見たままじゃよ。その優嬢は、妾が作り出した紙人形で、本人は今ごろ学園で授業を受けておるじゃろう」


 老人の反応に白書が答え、秤と鉄もともに公園に入る。


 「ご丁寧に人払いの結界まで張って・・・。そんなに力を欲して何をするつもりだ?なあ、御門晃一(みかどこういち)君よ」


 「なっ、その名を知ってるってことは、あんた達は騎士団の者か!?」


 秤が御門晃一と口にした瞬間、老人はうろたえる。何故ならその名は、一年前に静応の学園で神獣化した日下部祐一による、最初の犠牲となった少年の名と一致するからだ。


 「元だけどな」


 「元だと?団員でなくなった者が、僕の邪魔をすると言うのか!」


 「ああ、依頼を受けたしな。それに、俺の身内に手を出そうとすることが、何よりも気に入らないからな」


 「ふん・・・。元A級の者が神獣化して成長した僕の下僕に、たった三人で勝てるとでも?」


 晃一がそう口にすると、彼の両隣に竜と悪魔が降り立つ。


 「余裕だな。白書、鉄、あの二匹の処分は任せる」


 「「御意」」


 秤の命により、白書は悪魔へ、鉄は竜へと接近し戦いを挑み、秤と晃一から離れていった。


 「ヘー、女性に戦わせるんだ?彼女達の宿す神の位階がどれくらいか知らないけど、成長した僕の神獣に勝てるのかい?」


 「勝てるさ。あの二人は神そのものだからな」


 「神そのものだと?まさか、あんたは僕と同じ・・・」


 「バ~カ、違うね。俺を、お前のような未熟者と一緒にするなよ。俺は神そのものと言ったんだ。彼女らは神獣でも神喰でもない、俺の相神だ」


 「相神?そんな・・・、人型の相神なんて・・・」


 「有り得ないとでも?今、お前の目に見えていることが全てだ。白書達のあの姿は、俺のために彼女らが望んで得た姿だ。位階でいえばF級だが、宿主とともに成長すれば位階など何の関係もない。お前ご自慢の神獣なんぞ直ぐに滅するさ」


 秤の言うように、白書と鉄は彼の相神である。

 白書は書神、鉄は物神であり、秤の前世からついて来た書物と道具の付喪神だ。

 彼女達は、ある時に秤のために人型となった。そして、来訪神を軽く滅する秤とともに成長してきたゆえに、そのカは各組織の評議会が定めた位階などものともしないのである。

 その証拠に・・・


 「どうしました?前のように、私と戦えることを喜んだらどうです?」


 「グルゥゥゥ・・・」


 鉄と戦う竜は防戦を強いられていた。

 最初こそ鉄と本気で戦えることを喜んでいた竜であったが、秤が近くにいることで本気モードとなった鉄の動きにはついて行くことができなかった。

 本気モードとなった鉄は、着ている衣服が、いつものウェイター服から漆黒のコートとズボンに変わり、手にしている刀にも、前にはなかった赤黒い文字が浮かんでいた。

 鉄、彼女が宿った神器は、ある軍施設に放棄されたオートマタである。

 彼女はその軍施設にあった全ての武器、防具、道具をその身に取り込み今の姿となった。

 その能力は、取り込んだ道具達の元の使用者の動きを正確にトレースし、自分の技として扱うことと、場面に応じて取り込んだものを取り出すことである。

 さらに、白書より様々な武術書、文字術の情報をダウンロードしてもらったことにより、接近戦においては達人級であったりする。

 そんな彼女が今回刀に書いた文字は、竜殺しを意味するものであり、その前では硬い鱗も意味を成さなくなってしまっていたのだ。


 「これで、トドメです!」


 「グルゥゥゥオオオォォォ!」


 鉄の刀が竜の体を縦横無尽に切り裂き、竜殺しの文字の効果により体中の情報を書き替えられた竜は、断末魔の声を上げてこの世から消え去った。


 「ふむ、あちらは片が付いたようじゃの。どれ、妾もそろそろ片を付けようか」


 白書は悪魔の放つ魔法を、魔力壁を展開して防ぎながら呟く。

 そして、右手に何も書かれていない本の頁を持つと、その頁に魔力を流す。

 すると何も書かれていなかった頁に、意味のある文字の羅列が浮かび上がり、それを悪魔へ向って投げつける。

 投げつけられた頁は空中で形を変え、立派な鬣を持つ白い狼となって悪魔に喰らいついた。

 白書、彼女の宿った神器は、ある軍施設の書庫にあった無限白書という一冊の魔導書である。

 無限白書という魔導書は、契約者の得た知識を全て記すものであり、その頁数は無限。契約者が死んだ時に、その全ての頁に記されたものは白紙に戻るという魔導書だ。

 彼女はその軍施設にあった全ての書物を取り込み今の姿となった。

 その能力は、取り込んだ書物の知識を全て再現し、またその知識を他者にダウンロードすることで与えること、そして・・・


 「ふん、淫欲の魔か・・・。つまらんのう、その知識は既にあるゆえ、破棄せよ」


 攻撃した対象である神獣などの情報を解析し、自分の知識として取り込むことである。

 破棄を命じられた狼は悪魔を喰らい尽くし、再び一枚の頁に姿を戻すと燃えて消えてしまった。

 こうして、男の神獣は二匹ともあえなく消滅したこととなる。


 「そんな・・・、僕の神獣が・・・」


 「安易な方法で手にしたカなんて、所詮はこんなもんだ」


 「こんなもんだと・・・、あんたに僕の何がわかる!」


 「何もわからんし、自分自身で制御しきれないカなんぞ欲しくもないな」


 「何を・・・」


 「気づいていないのか?いや、気づかない振りをしているのか。お前は神獣の力を御しきれなかったから、自分の若さと他者の命を奴らに捧げなければならなかったのさ」


 そう、御門晃一は本来は15歳の少年である。なのに、その姿が老人となってしまっているのは、神獣という制御しきれないカを無理やり制御しようと反動で若さを奪われた結果なのだ。

 さらに、その制御できない神獣を成長なんてさせたがために、加速的にその若さは奪われていった。

 もしも、神獣を完全に制御できていたのなら、若さを奪われることもなかったし、他者の命を喰らわせずとも魔獣の血肉を与えるだけで十分だったはずである。


 「そんな・・・、僕はただ、周囲を見返したかっただけなのに・・・」


 「誰かに認められたい、見返したいという気持ちは間違ったものではないさ。けれど、お前のその気持ちに他人を巻き込むんじゃねぇよ」


 「それは・・・僕の神獣が強くなって、いずれ英雄と呼ばれるようになれば、死んだ命も報われたはずなんだ!」


 「ならそのセリフを、この子達の前でもう一度言ってみろ!」


 そう言うと秤は、右手に一本の紅い釘を生みだして投擲し、晃一の胸に突き刺した。


 「くっ・・・あれ?痛くない」


 「痛みはねぇよ。お前に刺したのは咎人(とがびと)の釘。それで今まで見えなかったものが見えるはずだ。その上で、さっきのセリフを言ってみろよ」


 「何を・・・ヒッ!」


 咎人の釘を打ち込まれた晃一の目には、今まで神獣に喰らわせてきた多数の子供と女の霊が見え、その皆が晃一に対して怒りの眼差しを向けていた。

 その多数の霊の中には、この公園で優菜と遊んでいた少年も、秤を公園に連れて来た少女も他の霊と同様に肩を並べていたのだった。


 「あ、あ、あ・・・」


 「どうだ、何も言えねぇだろうが?たとえ英雄となったとしても、理不尽に命を奪われた者がお前を許すことなどありはしない。今、お前は報いを受ける時が来たんだ」


 秤がその言葉を口にした瞬間、晃一を見つめていた多数の霊から黒い力が吹き出して、秤のもとに集う。

 そして、そのカは秤によって無数のロへとその姿を変えた。


 「さあ、裁きの時間だ。御門晃一、お前は呪の闇の中で朽ちることなく永遠に喰われ続けろ!」


 「やだ・・・やだ・・・嫌だあああぁぁぁ!」


 その言葉により秤の紅い瞳が輝きを増し、無数に生まれた黒い口は容赦なく晃一にかじりつく。

 そして、悲鳴を上げる晃一を呪の闇に取り込んで秤の中へと吸い込まれていった。


 「さて、お前らの怒りや怨み、憎しみは全て俺が奪った。だから、輪廻の環に行って再び帰ってくるといい。汝らの魂に幸多からんことを・・・」


 秤がそう言うと、数多の霊達は一礼してその姿を消していき、その場には男女一組の霊だけが残った。

 その男女の霊というのは御門晃一の両親である。

 彼らは、晃一が神獣を手に入れてから、かなり早い段階で喰い殺されていたのだ。

 そんな彼らは、他の霊のように輪廻の環に行けなかったことに慌てふためき、秤の方を見る。


 「御門晃一があんな風になったのは、あんたらの歪んだ育て方のせいだ。だから、あんたらは罰として、未来永劫この世を成仏することなくさまよい続けるがいい」


 秤にそう言われて救いを求めるように手を伸ばすが、彼はそれを無視して白書と鉄とともに公園を出て行った。

 そして、その日の夕方。

 秤が買い出しのために公園の近くを通ると、公園内で優菜が同年代の少年少女と遊んでいるのが見えた。

 今回は幽霊でなく、本物の少年少女である。


 「どれだけ大人達が騒ごうと、友人を決めるのは子供達当人と言うことだねぇ」


 秤は優菜達が楽しげに遊ぶ光景を優しげに見つめた後、商店街の方へと歩いて行くのだった・・・

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