表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
相神 ~呪殺人、弥勒秤~  作者: K村 Tかし
操神の章
2/6

・神略

 神西暦142年。

 現在、世界の総人口は二十ー億と数百万人で、日本の人口は約三千万人である。

 そして、人類が地下シェルターから出て、地上を取り戻してから百四十二年、文明は第三次世界大戦以前くらいまで復興していた。

 僅か百と数十年でここまで復興しているのは早いと思われるだろうが、これは人々が地下シェルターで暮らした約二百年の間も怠ることなく魔法の研鑽に努めたこと、半神半人となったことで得た神の能力、第三次世界大戦時に利用された軍施設から得た過去の遺産、これら全てが合わさったことが、文明の早期復興を可能としたのだ。

 それでも魔獣化した植物が密林と化し、危険な魔獣が闊歩しているために、街と街を繋ぐ道の整備は少しずつしか進んではおらず、車を始めとした乗り物は使えないため、移動手段は基本的に徒歩である。

 ただ、テレビや携帯電話などの通信網、国と国、街と街の物資の流通網は復興している。

 通信網の方は、軍施設に残されていた無線機等を学院が解析し、工房が今の世界で使える物に開発。

 流通網の方も、軍施設に残されていた(ゲート)という瞬間移動を可能とするものを発見、開発し、地脈(レイライン)に設置することで大規模な物資の流通を可能とした。

 但し、門の方は悪用する者がでる可能性があることから、使用する者は資格を取る必要がある。

 まあ、今はどの国も自国を開拓、発展させるのに手一杯で、他国にいらんちょっかいを出すような余裕はない訳だが、それでも個人的な利のために悪事に手を染める馬鹿という者は存在するものだ。

 そういった犯罪者は治安維持を主な生業とする騎士団に摘発されれば終わりであり、魔獣も稀に強大なカを有したのが存在するが、半神半人となった今の人類にとっては脅威とはならない。

 しかし、犯罪者や魔獣に替わる脅威が今の世界には三つ存在している。

 それが、神獣、神喰(かみぐらい)、来訪神だ。

 これら三つは全て、前に後々語ると言っていた、人の内的宇宙に神を召喚するという方法が招いた脅威なのである。

 地上の魔力濃度に肉体を適応させるため、内的宇宙に神を召喚して宿すわけなのだが、これは人間の肉体という一つの器を人の意識と神の意識の二つが共有することを意味している。

 人の意識と神の意識、この二つのバランスがとれているうちは良いのだが、どちらかの意識が強くなったり弱くなったりして、二つの意識のバランスが崩れることで、人類にとって脅威の存在となる、神獣、神喰が誕生するのだ。

 神獣も神喰も元々は人間。

 宿していた神の位階が低ければ脅威なりえないと思うかもしれないが、それは大きな間違いである。

 位階とは宿した神の能力の高さを示すものだが、それは各組織の評議会の者達が、自らの利のために勝手に定めたものであり、明確な根拠があって作られたものではないのだ。

 神とはあらゆることを可能とする、意志をもった莫大な情報の塊であり、半神半人となった人類が宿した神のカを行使する時は、その情報を引き出すのである。

 しかし、人類の大半は半神半人となっても、宿した神の情報を全て引き出せるわけではなく、その一部の情報を引き出して神のカを行使しているにすぎない。

 宿した神の情報を全て引き出せるような化け物じみた人物は、各組織のトップである始まりの魔人やナンバーズと呼ばれる者達くらいのものだろう。

 当然のことだが、神獣、神喰も全ての情報を引き出せる。故に脅威なのだ。

 神獣は、二つの意識のバランスが崩れた時、神の意識の方が強く人の意識を喰らって誕生する存在で、姿形は様々だが獣じみた外見となり、知性も何もなく神の力を行使する化け物である。

 神喰は神獣の逆で、バランスが崩れた時に、人の意識の方が強く神の意識を喰らって誕生する存在。

 神という莫大な情報を全て喰らう影響で精神に異常をきたしているが、人としての知性が残っているために社会に溶け込むことが可能であるため、神獣よりも厄介な存在とされている。

 しかし、神獣、神喰の誕生を食い止める方法が何もないわけではない。

 解決策として、人類は神器というものを開発した。

 神獣、神喰の誕生は、肉体という一つの器に二つの意識が存在していることが原因であるため、肉体が地上の魔力濃度に適応できるように変質した後、宿した神の意識を神器という別の器に移すのだ。

 神の意識を別の器に移しても、(ライン)によって繋がっているため力の行使は可能であり、別々の器に収まっているためにバランスが崩れても意識の食い合いをすることはない。

 但し、肉体か神器が破壊されれば、神獣、神喰が誕生する可能性はあるが、そうなればそれはもう仕方ないことなので、運命と思って諦めるしかないのである。

 神器の開発により、神獣、神喰の誕生する可能性が減少したことは間違いない。

 そして、来訪神は三つの脅威の中で最も厄介な存在。

 来訪神とは、その名の通り異界より世界を隔てる境界線を越えて訪れる神のことである。

 元来、世界と世界を隔てる境界線は強固なものであり、神であっても簡単に突破できるようなものではない。

 では、何故それが可能となっているかといえば、それは内的宇宙に神を宿すための召喚魔法が原因となっている。

 異界の神を召喚するというのは、世界を隔てる境界線に穴をあけるのと同義であり、全人類二十一億人ぶんもの穴をあけたために、世界を隔てる境界線が非常に脆くなり、異界の神が訪れやすくなってしまったのだ。

 来訪神が脅威とされる理由は、極稀に友好的な神も存在するが、来訪した神のほぼ全てが地球人類に対して明確な敵意を持っているからである。

 神にとって人間は矮小な存在であり、その矮小な存在である人間が、いかなる理由があろうとも自分らと同じ存在である神を宿すことが許せないのだ。

 それ故に、来訪した神は地球という世界を侵略する。

 この神による侵略行為を各組織は神略と名付けた・・・


 「やれやれ、人の通り道にこんな世界(もの)を作るのは勘弁してもらいたいものだねぇ」


 身長180㎝ほどの長身で、黒髪、黒目、黒縁眼鏡をかけた青年は、赤く染まった空間に紛れ込んでしまっていた。

 この赤く染まった空間は来訪神によって作られた空間である。

 何故、来訪神がこのような空間を作っているのかと言えば、これが神による侵略行為だからである。

 たとえ神といえども世界を侵略するのは容易なことではなく、先に説明したように神とは意志を持った莫大な情報の塊であるため、このような空間を作り、少しずつ世界の情報を書き換えて自分の世界を構築していくのだ。

 そして、地球全土の情報を書き換えられた時、地球は情報の書き換えを行った来訪神のものとなる。

 来訪神の最も厄介なところは、情報を書き換えた空間の広さに応じて力が増してゆき、書き換えられた空間内においては無敵をほこるうえに、その空間内には来訪神に招かれるか、それ相応の実力がないと入れないところにある。


 「ん?招かざれる者が紛れ込んだか・・・」


 青年の進む先から声が聞こえ、そちらに目を向ければ、人ならざる美しさを持った一人の女が立っていた。


 「あんたがここを作り出した来訪神か?今なら見逃してあげるから、地球から出て行ってくれないかねぇ?」


 「ふん、我らが同胞をその身に宿すとはいえ、矮小な人間ごときが神である我を見逃すから出てゆけと言うのか?」


 「うん、迷惑だから出て行ってくれないかい?」


 「不敬だな・・・」


 女は・・・いや、来訪神はおもむろに手を青年に向けると、その手から衝撃波を解き放つ。

 その衝撃波は、たとえその身に神を宿していても、喰らえば体が粉々になってしまうほどの威力を秘めていた。 

 なのに、青年は避けようともせずに、その身に衝撃波をまともに喰らってしまった・・・


 「何っ!」


 来訪神から放たれた衝撃波により巻き上げられた砂煙が晴れると、そこからは_無傷の青年が姿を現した。


 「何を驚いているんだい?」


 「今、貴様は我のカをまともに喰らったはずだ!なのに何故、無事なのだ!」


 「なんだそんなことか・・・」


 「そんなことだと!」


 「そんなことさ。あんたら来訪神は、世界の情報を書き換えて支配した分だけ力が増し、その空間内においては無敵をほこる、だろ?」


 「そうだ、だからこの空間内において、我の思うようにならないわけがない!」


 「その考えは誤りだよ」


 「誤りだと?」


 「そう、誤り。俺達人間は、神をその身に宿して半神半人となったけど、世界の情報を書き換えて支配するようなことはできない。でも、だからといって来訪神であるあんたらに、対抗する術が全くないわけではないのさ。来訪神と同じように世界の情報を書き換えて支配し、力を増幅することができないというのなら、己の身に宿る神の力にて自らの情報を書き換えて情報密度を増やし、来訪神の持つカに近づき超えてゆけば良いんだ」


 確かに青年の言うように、それが来訪神と戦うために人類が出した答えではある。

 しかし、この方法は言うほど簡単なものではない。

 何故ならば、来訪神の力に近づき超えるともなれば、その身に宿した神のカを極限まで引き出す必要があるからだ。

 

 「なるほどな・・・。しかし、我が支配する空間内においては、お前達お得意の魔法も宿した神のカを行使することもできはしない。結局は悪戯に寿命を延ばすだけだろう?」


 そう来訪神が言うように、情報を書き換えられ支配された空間内においては魔法も宿した神のカを行使することもできはしない。

 これは魔法も宿した神のカの行使も、一時的に世界の情報が書き換えられることで起こされる現象だからである。

 故に、来訪神の支配する空間内での戦いにおいては肉弾戦が主流となり、ゼロ距離で殴り合うことで互いの情報を書き換え合って、削っていくことになる。

 

 「うるせえよ・・・。警告を無視したお前は、俺の糧となって消えろよ」


 来訪神の言葉に青年は眼鏡を外して答える。

 眼鏡を外すと、まるでスイッチが切り替わったかのように口調が変わり、黒かった瞳も血のような真紅になって来訪神を睨んだ。


 「ふん、口調が変わったとて・・・ガッ!」


 来訪神がロを開こうとした瞬間、その胸を青年の漆黒に染まった右腕が貫いていた。

 いつの間に距離を縮められてしまったのか、来訪神の目には青年の動きを捕らえることができていなかった。


 「グッ!離せ!・・・離せ!」


 来訪神は青年を殴りつけて離れようとするが、青年の方は来訪神に殴られても意に介さない。

 それどころか・・・


 「支配領域は、半径500mといったところか・・・」


 と、来訪神の支配領域を冷静に識別するくらいの余裕を持っていた。


 「ガハッ!・・・何なんだ!・・・何なのだ・・・貴様は!」


 「何なのだと言われても困るが。俺は弥勒秤(みろくはかり)、しがない喫茶店のマスターだ。俺と戦うのなら、半径100Kmは支配領域に治めてからにするんだったな」


 「貴様が・・・勝手に紛れ込んで・・・来たんだろうが!」


 「そうだ、だから見逃してやるから出て行けと言っただろ?」


 「グッ!・・・分かった・・・出て行くから・・・我を・・・助けてくれ・・・」


 「駄目だ。警告を無視したお前は、おとなしく喰われて俺の糧となりやがれ!」


 「嫌だあああぁぁぁ!」


 その叫びは赤い空間の中で虚しく響く。

 そして、胸を貫いた秤の右腕から黒い染みのようなものが、少しずつ来訪神の体を侵食してゆき、侵食した先からメキメキと音をたてて漆黒の右腕に取り込まれて、来訪神の体は小さくなっていく。

 それはまさに喰われるといった表現がピッタリと当てはまるような光景であった。

 その後、来訪神はものの数分で秤の右腕に喰われて消えてしまい、主を失った赤い空間は硝子を割るような音をたてながら崩れていった。

 そして、街には何事もなかったかのように、普段の喧騒が戻ってきたのだった。


 「ありゃ、やっぱり荷物は駄目になったか・・・」


 眼鏡をかけ直した秤は、またスイッチが切り替わって、口調と瞳の色が元に戻る。

 来訪神が放った衝撃波で本人は無傷ですんだが、買ったものまでは無事でいられなかったようだ。


 「帰りが遅くなると白書(はくしょ)黒鉄(くろがね)がうるさいんだけどねぇ・・・。まあ、それも仕方ないことかな」


 そう言いながら、秤は来た道を引き返し、再び買い出しのために街中に向って歩いて行くのだった・・・


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ