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3、また、遊ぼうね
女は生え始めたばかりの草を踏んでいる。 赤レンガの屋根に、クリーム色の外壁の小さな家が目の前にはあった。
「ありがとうございます」
女は控えめに微笑んだ。穏やかそうな眼鏡をかけた男性と話し込んでいるらしい。
「いえいえ、これぐらいおやすいごようですよ」
男と女は家先で、互いに挨拶を交わす。
今にも日が暮れてしまいそうだ。
一陣の風が、黄金色の稲穂たちを揺らす。
温かくて、いつでも優しかったなぁ、と女は思った。
泥だらけになりながら、一生懸命に墓を作り、花を供える。
女はぽろぽろと、涙をこぼした。
可愛がっていた猫が、亡くなってしまったから。
『さようなら、また、遊ぼうね』
1匹の愛らしい白い猫が、女の目の前を通り過ぎていく。
「・・・・・・あっ!」
女は、何かに気が付いたようだった。
――残す記憶はあと一つ。
もうほとんどない記憶に、女はしがみついていた。