紅魔の狂った幸せな夢
「紅魔のみる夢」を見てからの方がよろしいと思います、はい。
「……君が、好きです」
数瞬の沈黙が、場を満たす。
ユイラ、と掠れた声が懇願するように、私の名前をそっと呟いた。
微かに震える声音は、私の拒絶を恐れているからか。
ゆっくりと顔を上げて、ルイを仰ぎ見る。頭2つ分高い、同い年の青年を。
少し変わった太陽の位置のお陰で、ルイの表情がよく分かった。
期待と、不安。
やっと言えたと言う安堵と、言ってしまったと言う一抹の焦り。
それらが混ざり合って、彼の表情を複雑に彩っている。
炯炯と光る紅の瞳は真っ直ぐに私を射抜き、どんな小さな変化も見逃さないとでも言うように凝視している。
…その大元の原因は、私だ。
私も、覚悟を決めなければならないだろう。
こんなにも真剣に、彼は私に秘めていた想いを告げたのだ。
私もはっきりと拒絶しなければ、きっと私たちはこの燻る想いをずっと抱えていく事になる。
「…ごめんなさい。嬉しいけど、ルイの気持ちには応えられないよ」
「……っ」
沈黙が落ちる。木々がざわざわと音を立て、2人の間に溝が出来た事を示すように風が吹き抜けていく。
「ユイラ……」
「無理ったら無理なの」
彼の懇願のような囁きを遮るように、半ば叫ぶように言った。
彼の柳眉が苦しげに歪み、唇が噛み締められる。
手は固く握り締められ、証書の入った紙筒がぐしゃりと音を立てて潰れ…って、え、あれって握り潰せるの?!結構硬い筈なのに!
あまりの驚きに、一瞬意識がそちらへ向く。
「……本当に、無理なの」
彼の掠れた小さな声が、不意に沈黙を破った。低く、地を這うような、声。
1度も聞いたことのなかった、恐ろしい声音だ。
体が無意識のうちに震え、ざっと体温が下がった気さえした。
「……無理だよ」
ぽつりと、それだけを返す。
他には、何も言わない。…言えない。
”あの人”と、約束してしまったから。
『いいかい。あの子が君を好きだと言っても、受け入れてはいけないよ。
だって、君にその資格は無いんだから。
君とあの子では、身分が違う。彼は上位貴族で、君はただの平民にすぎない。
それに、彼の血筋も……、いや、これは言ってはいけないことだったね。
国に帰った彼には、美しく聡明な婚約者が用意されている。
居るべき場所も、持つべき仲間も。
彼は、僕と一緒に居なくてはならないんだ。
…昔から、そう決まっているから。
だから、君はあの子の言葉に頷いてはいけないよ?
……何があっても』
『約束だからね?』と笑顔で言いながら、容赦なく私の体に呪を刻んだひと。
押さえつけられて、大切なものを奪われて、ぼろぼろになった空っぽの私を見下ろし、笑みを浮かべながら言われた言葉に、私はただ茫然と涙を流すしかなかった。
冷たい指先で涙を掬われても、唇に熱い口づけを落とされても、恐怖しか浮かばなかった。
それくらい、恐ろしかった。
ルイを”あの子”と呼ぶ声に宿っていたのは、異常なほどの執着心。
私を脅しているはずなのに、その顔は不気味なほど優しい笑みを刻んでいて。
私は、何もすることができなかった。
ルイは、”あの事”を知らない。
だから、私に刻まれた呪の存在も、分かるはずがない。
だから、私に彼への気持ちが無いと思ってしまっている。
こんなにも、好き、なのに。
「無理、なの…! ごめん、なさい…っ…」
涙がポロポロと頬を伝っていく。俯いて、小さく謝るしかできない。
ごめんなさい。
私は、ルイに相応しくない。
他に、好きな人がいるの。
あなたのことなんて、好きじゃないの。
嘘も織り混ぜて、嗚咽交じりに繰り返す。
ごめんなさいと。許してと。
顔を何度も強く袖で拭いながら、みっともなく泣き続ける。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
貴方に、応えられない。
かけられた呪のせいで、彼への好意だけが、告げられない。
態度だって、僅かな動きも許されない。
(……こんなにも、好きなのに)
彼からの言葉が無いことが、悲しい。
もう、会えなくなってしまうのに。
声を掛けられないで良かったと思う。
本当の言葉を、告げてしまいそうになるから。
言葉にできないまま、ただ泣きじゃくる。
彼は、何も言わない。
もう、居なくなってしまったのだろうか。
それでもいい。こんなみっともない姿を、ずっと晒してなんていたくない。
このまま、気の済むまで泣いてしまおう。
そう思っていた私は、近づく気配に気がつかなかった。
足音の立たない、滑るような足運び。
足元に生える草さえ、その歩みには沈黙を保つ。
やがて、私の上に黒い影が差した。
いつの間にか、彼が目の前にいた。
「ねえ、ユイラ」
びくっ、と肩が跳ねる。
「それは、本心なの?」
「……え」
妙に落ち着いた声。
むしろ、抑揚のない声音だ。
「そう、だよ」
整わない呼吸で、小さく返す。
「ふうん」
温度のない声。体が無意識に震えた。
「じゃあ、ユイラは」
唐突に。
「僕の事、嫌い?」
思い切り、首を振る。
「じゃあ、好き?」
また、首を振る。
頭上から、小さくため息が聞こえた。
「なら、仕方ないね」
……何が、だろう。
首を傾げた私は、やっと少し落ち着いた視界で、ルイを見上げた。
「………っ!」
「いけない子だね、君は」
冷たい。暖色のはずなのに体が芯まで凍るような、昏い瞳。仄暗い光をちらつかせ、私を、私だけを見ている。
「僕を見てくれないなんて…」
見ているではないか。目を合わせているではないか。
そんな声は出てこない。
「好きだよ」
目を細め、彼の指先が私の頬を撫でる。
ーー『忘れないで』
「っ!」
その冷たい指先が”あの人”の記憶と重なって、体が凍りついた。
優しげな笑みが脳裏をちらつき、追い出すように首を振る。
「ユイラ」
不意に、咎めるような口調で呼ばれた。
ハッとして目を開けると、彼が訝しげな表情で私を見ていた。
「あ、え………」
その瞳に灯るのは、怒り。拒絶するような態度への、咎める視線。
言葉が喉に張り付いたように、何も出てこなくなった。
『なんでもないよ』
そう言えば良かったのかもしれない。
言い訳をして、赦しを請えば良かったのかもしれない。
だけど私は、何も言えなかった。
何も言わず、身を固くしただけだった。
それが、彼の”怒り”に油を注いだ。
「……そう」
彼は、憂いげに溜息を落とす。
その吐息がかかり、落ち着かない気持ちになる。目線を彷徨わせると、不意に息も出来ないほど強く、硬い何かに包まれた。
視界が暗い。何も見えない。
抱きしめられたのだと、その熱い体から発される熱で分かった。
「ル、イ……?」
「ごめんね」
何に対しての、謝罪だろうか。
その瞬間に、トン、と音がした。
首の後ろ。
うなじ。
冷たい、彼の手。
なに、が。
……ルイ、?
「ごめんね」
もう1度、彼が囁いた。
「君が拒んだりするから」
落とされる、苦しげな吐息。
違う。違う。
私は、拒絶したかったんじゃない。
違うの。
言葉にはならず、意識は滑るように落ちていく。
暗闇の水底へ。
光の見えない闇の中へ。
手を伸ばしても戻れない深淵へ。
「堕ちてきてよ」
彼の、元へ。
*
ふっと目が覚めて、瞼を開く。
すっきりした目覚めだ。けれど目を閉じても開いても視界は殆ど変わらない。
ぼんやりと薄暗い。僅かに紫がかった、黒色の暗がり。
ああそうだ。今は、”夜”だ。
起き上がって、ベッド脇に吊り下がる天蓋の布を退ける。重ね掛けされている布を手で掻き分け、体を前へ傾けた。
しゃらり。金属が擦れるような軽い音が聞こえるが、それは気にしない。
そっとベッドを下りれば、ふかふかの絨毯の感触が足裏に触れる。若干冷えているが、冷たくはない。
一歩踏み出す。二歩、三歩。
足取りはゆっくりで、泥の中にいるような動き辛さ。けれど、怠さが少しあるだけで、別に具合が悪いわけじゃない。
正面にある大きな窓へ近付く。
はめ殺しのガラス。透明なそれは、私の視界を妨げない。
暗い昏い、夜の空だ。
紫に透き通った空気が空を彩る。
向こうの方は、薄い青。こちら側に向かって、グラデーションになっている。
やっぱり、この空は綺麗だ。
右上の方にかかった大きな月は青白く、左下の方で微かに頭を覗かせる小さな月は、暖かな橙色だ。
ここは、”常夜の隣界”。
人間が住む世界では”魔界”と呼ばれる場所だ。
私が気絶した後、ルイが此処へ連れてきたらしい。
目を覚ました私の頬を撫でながら、彼がそう言った。
ベッドに身を横たえる私を優しく見つめながら、この世界のことを説明してくれた。
曰く。この世界では、人は長く生きられないらしい。何故かと言うと、紫色をした空気、”瘴気”が人間にとって良くない成分を含むから。
その空気を吸った人は内臓が腐っていき、数年後には骨も残さずに無くなってしまうらしい。
それに、人を食べる生き物が存在するのだという。
”瘴魔”と呼ばれるソレらは、人の肉を好む。
凶暴で、強欲で、常に飢えている。
故に、1人で外に出たりすればすぐにでも襲われ、喰らい尽くされてしまうそうだ。
「だから、絶対に此処から出ちゃダメだよ?」
出ようとしたら、お仕置きするから。
ルイはそう言って、にっこりと笑った。
ぶんぶんと首を縦に振れば、『いい子』と頭を優しく撫でられた。
その手がそのまま首に嵌められた枷へ伸び、そこから繋がる華奢な鎖を手にとった。
ちゅ、と唇を落とし、彼は満足げに微笑む。
「此処に、いるんだね」
ああ、と溜息を零し、私にそっと口付ける。
目を瞑れば、いい子、と優しい声が囁いた。
蜜の様に甘く、毒の様に全身を侵していく。
「ユイラ」
不意に後ろから腕が伸びて、私の体を包み込んだ。
「また外を見てたの?」
きゅ、と私の体を抱きしめ、顎が頭に乗せられる。
「うん」
小さく頷き、体に回された彼の手に触れた。
滑らかな、陶器のような肌。
所々に傷があるのは、彼が戦う事を得意としていたからだろう。
その傷跡を無意識に撫でる。
ふふ、と擽ったそうな吐息が耳を掠めた。
「どうしたの?」
くすくすと、楽しそうな声。何でもないと首を振れば、彼は「そう?」とだけ言った。
「戻ろうよ」
手を体に回されたまま体を反転させられ、彼と向き合う形になった。
剥き出しの、程よく鍛えられた肌。
仄かに香る、蠱惑的な彼の匂い。
背に回った腕で引き寄せられ、それらが一気に近づいた。
「…………っ」
頬に直に触れる、温かな体。
思わず手をついた腹筋は綺麗に割れていて、一瞬で身体が硬直した。
「かーわいい」
妖しく笑い、彼が私の顔を覗き込む。
細められた血赤の瞳は愉しげで、獲物を狩ろうとする猛禽類のような色をしていた。
「逃がさないよ?」
にこりと口端を引き上げて笑う。
その妖艶さに惚けた瞬間、彼の顔が一気に近づいた。
「…っん」
大きな掌が後頭部を覆い、グッと力が篭る。
優しく唇を奪われ、角度を変えて口内を蹂躙され、やがて呼吸が乱れていく。
「んん、ふっ……」
舐めて吸って、小さく吐息を漏らす私を翻弄していく彼の舌先。
甘い吐息が自然と漏れ出し、段々堪えられなくなっていく。
「ん、あ、ふぅ…っ」
それに煽られるように彼の行為も性急さを増していき、動きが荒々しくなりだした。
「ユイラ……っ!」
ぱっと唇が離れると痛いほどに背をキツく抱きしめられ、一瞬呼吸を忘れた。
「好きだ、愛してる…」
掠れた声。再び降り注ぐキスの合間に紡がれる、彼の想い。
必死になって私を振り向かせようと、何度も何度も言葉を重ねる。
「君しかいらない。君だけが、欲しいんだ」
誰にも渡したりしない。
誰も、近づかせない。
僕だけを見ていて。
答えられない。否、応えられない。
呪を刻まれたこの身では、同じ想いだと返せない。
けれど、この優しい腕から逃れることもまた、出来ない。
「ルイ……」
囁くように、名前を呼ぶ。なに?と返った声音は、体を蕩かすような甘さ。
雪のように降り積もり、消えないまま私のものになっていく。
「苦しい、よ」
その声を聞いていたくて、でも胸が苦しくて。
どうしようも、ない。
「ごめん」
彼は謝り、少し腕の力を緩めた。
やっと空気を得た私は、はあっと息も吐きだした。
そっと見上げれば、闇夜に揺らめく紅い瞳。
さらりと揺れた金の髪は、仄かな月明かりを受けてとろりとした光を放つ。
顔立ちは文句の付けようも無いほど整っている。とても綺麗な、まるで彫刻のような端正さだ。
瞳は真っ直ぐに私だけを見つめている。
それに浮かぶのは、愛しさと情欲。
誰よりも愛しい人。
けれど、私の気持ちを知る事はない。
体に刻み付けられた呪は、私が死ぬ時にしか表へ出てこないから。
彼が”あの人”以上の魔力の持ち主でなければ一生この呪には気づけない。
だから彼は、狂ってしまった。
私への愛と、返されない想いへの苦しさで。
私を手に入れた彼は全てを捨てた。
地位も、名誉も、居場所さえも。
けれど彼は、それでいいと笑う。
”私”がいればそれでいいのだと。
…彼の母方の祖先は、この”魔界”に生を受けた魔人だったそうだ。
その血を隔世遺伝によって色濃く継いだ彼は、この魔界の瘴気の中でも平然と生きられるそうだ。
誰も追って来られない、異界の地。
それなりの広さの家に固定結界を張り、瘴気も外敵も通れないよう作り上げた。
その中の1部屋に私と幾つかの家具。
首には華奢な銀の鎖を繋ぎ、部屋の中だけ行き来出来るようにされている。
彼は魔人の血を引くため、寿命が人間より長い。彼の契約印を体に刻み付け、彼と同じ年月だけ生きられるようになった。
定期的に彼と体液を交わらせ、それでなくとも彼は私の側を離れない。
私は、完全な”籠の鳥”だった。
だが、それでいい。
愛を囁かれ、体を重ねる時は至福。
けれど彼が側にいなければ、気が狂いそうになる程の不安に襲われる。
彼を拒絶し、彼を受け入れた結果。
彼を愛した結末。
想いを伝えれば、たちまち呪は”反抗”とみなし、私の命を刈り取るだろう。
だから私は、何も言わない。
側にいたいから。愛して欲しいから。
狂っているのは、彼だけじゃない。
私も彼と同じだけ、狂っている。
逃げることの叶わない優しい檻の中で、苦しくて、でも幸せな夢を見続ける。
紫色に染まった空が、”朝”を迎えるまで。
*
ベッドに横たわる自分の隣で、すやすやと眠る1人の少女。
長い髪を無造作に撒き散らし、猫のように丸まったままシーツをかぶっている。
その部分だけが盛り上がって、小山のようだ。そっと頭を撫でれば、微かにううんと唸りながら胸へ擦り寄ってくる。
その可愛らしさに、何度身悶えた事か。
片手でシーツごと彼女の背を引き寄せ、優しく抱き寄せる。
華奢な肢体は、腕に逆らうことなく身を委ねてきた。シーツから出た小さな肩を撫で下ろし、髪を一房手に取る。
ふわりと香る、彼女の優しい香り。絹のような髪の感触に、思わず口付けた。
「んん、むぅ……」
彼女がむずがるように手を動かす。その手がかり、と肌を掠めて、思わず息を詰めた。
誤魔化すように無理やり意識を変える。
彼女の手を見た。自分の掌ですっぽり覆えるくらいに小さい手。
珊瑚色の爪は、精巧な作り物のよう。
シーツの下には、自分を快楽の底へ突き落とす為に用意された、真っ白で魅惑的な肢体が隠れている。
手に入れたいと望んだ、彼女の全て。
心を手に入れられないならば、体だけでも手に入れてしまえばいい。
そう思ったのに、彼女は純潔ではなかった。
誰だ?誰が彼女の”初めて”を奪った?
それを尋ねても、彼女は性急な行為に泣きじゃくるばかりで答えなかった。
だが、答えは自ずと分かる。
彼女の拒絶の理由。それが、彼女の心を奪った相手なのだろう。
その男への怒りに、我を忘れた。
怒りのままに責め立て、無理やりにでも身を開かせ、物言わぬ唇を塞いで。
彼女に自分への愛は無いのだとしても、いつかは、と望まずにはいられなかった。
だが、子供はいらない。
彼女との時間を邪魔するだろう存在など、必要性を感じない。
だから、彼女以外の全てを捨てた。
家族も、友人も、地位も、居場所も。
己を煩わせるものは、全て。
視線を彼女に向ける。
そっとシーツを退かすと、淡い月明かりの中に彼女の裸体が浮かび上がった。
日の光が当たらない故に白い、ミルクの様に滑らかな絹の如き肌。
愛らしい作りの顔は、今は瞼を下ろして深い眠りについている。
桜色の唇は閉ざされ、何者をも阻むだろう。
片手だけでも力を入れれば折れてしまいそうな細い首に、窪んだ鎖骨。肌寒いのか小さな肩を竦ませて、拳をきゅっと握りしめていた。
腕の隙間から覗く柔らかな胸は、自分の掌に丁度よく収まることを知っている。
艶美な曲線を描く腰から、形の良い臀部。
付け根からスラリと伸びる細い脚は、出会ったあの日に小鹿の様相で地を駆けていた。
思わず口付けたくなる小さな足の甲に、触れれば壊れてしまいそうな珊瑚の爪。
全身から誘うような甘い香りを漂わせている彼女は、自分を何処まで突き落とす心算なのか。
はあっ、と溜息を落とし、彼女の肌に顔を埋める。彼女が起きていたら、真っ赤になって逃げようとするだろう行動。
だが今は、穏やかな眠りの中。
邪な欲を抱いた男の考えなど、気付くはずもないのだ。
「離さない」
すべらかな肌に唇で触れ、跡を残しながら全身へ口付けていく。
所有印をつけたいと思うのは、愛する女をその手に抱く男の真っ当な感情だろう。
濡れた音を夜闇に響かせながら、何度も絹の肌へ唇を落とす。
「僕だけを見て。君はもう、僕のものだから。逃げようなんて許さない。ずっと僕の傍にいてね?」
自分でも分かるほどの歪んだ笑みを浮かべて、聞く者のない言葉を紡ぐ。
彼女はきっと、気付いている。
僕がどれだけ彼女を愛しているか、僕がどれだけ愛されたいか。
叶わないと分かっている夢を見ながら、微かな希望の残滓に必死でしがみつこうとする僕の醜さを。
だが、それでいい。
愛されなくても、愛せばいい。
見てくれなくても、見させればいい。
此処には、僕と彼女以外誰も居ないのだから。
「ずうっと、一緒だよ?」
クスリと嗤い彼女の柔らかな唇へ噛み付く。
その身に刻んだのは、魂を同調させる術。この身と共に生きてくれるよう強制する、魔人の作りだした禁忌の術。その術の対価として、彼女は髪の”色”を失った。
けれど瞳はそのままで、この世界にはない”青い空”の色を宿している。
懐かしい色。既に手放した世界の色。
後悔はしない。
この狂った夢の中で、籠の鳥である彼女と共に生きていけばいい。
僕は、独りじゃない。
愛を問わずに愛を語る。
ーーこの幸せな、終わらない夢の中で。
うむむむ……。病み感が足りないって!
次こそ頑張ります。あ、次あります。多分。
→次回は、蒼い瞳の心優しい鬼の話(未定)
実はルイより先に絵ができてた。
では、閲覧ありがとうございました!
最近のブームは暴力のないヤンデレです。