第六話 王立魔法術大学
あれからまた数年が立ち、俺は勉学に武術にと割と忙しく
毎日を過ごしている。
ちなみにまだ当然だが童貞だ。
7歳にして魔力回路が開いた偉大なる俺様。
すいませんちょっと調子乗ってみましたえへへ。
まあ開いちゃったので、気術の使い手でもあるガイル先生に武術と共に気術を習っている。
所謂魔術といわれる火を出したり氷を出したりというのを覚えたい物だが、
まずはこの気術で体の防御が出来ていないと危険という事と、
開いた後はしばらく魔力の扱いに慣れるため、そして魔力量の底上げの為に、
気術の習得から初める物なのだとか。
「じゃあクロエ君、今日も禅から入ろうか~」
「はい、先生」
禅←new!
さて、気術というのは普段体に循環している魔力の回転を早め、それを体中に巡らせて包み込むイメージで身体の強化をする術なのだが、禅というのは逆に魔力の循環をできるだけ弱め、外に魔力がもれないようにする技だ。
回路が開いた後、何も考えずに過ごしていると、魔力というのは勝手に循環して、ちょっとずつ外に漏れ出してしまう。
なので、そのままだと常に魔力が減っている状態になるのだ。
常にMPドレインされてるって感じかな?
それを抑え、魔力を常に満タン近く保っておくためにするのが、禅という訳だ。
まずはこれを無意識に出来るようにならなきゃだめって事で、授業の最初はいつもこれ。
禅状態のままランニングや50m走、素振り等をこなしていく。禅が乱れたらやり直しだ。
割とスパルタなんだよなあこの先生。ふだんゆるいのに。
「うーんもう意識すれば完全にできるとこまでは来たね。いいよいいよ~」
それが終わったら気術を発動して、型と打ち込み、の後、組み手をして終了。
ちなみに俺は剣術と拳術をメインに鍛えている。通背拳は諦めてないぜ?
気術を発動させれるようになるまでに最初は半年くらいかかった。
それでも早い方だと誉めては貰ったけどね!
武術と魔法術の進捗はそんな感じだ。早く炎の魔術で、焚き火に火を付けたりいてみたい。
学問の方は、四則演算や読み書き等はさすがにあっというまに及第点まで行ったので、いまは礼儀作法や歴史の勉強なんかが中心だ。
サネラ先生はさすがというか、教え方もうまく、意欲的に取り組めている。最初の頃、
「時々クロエさんが6歳とは信じられなくなります。とても教えがいがあるわ。」
なんていわれたので、年にしては優秀、くらいに思われるようちょっと注意している。
前世では、なんで転生とかトリッパーってのは隠したがるんだ、ガンガン行こうぜ!
と、思っていたのだが、いざなってみるとやっぱ怖いんだよね...!
まあもっと大人になって、言い訳がつくようになるまでは知識のひけらかしは自重する方向だ。
それよりも魔法術の方を今のうちにがんばりたいしね。
目指せ大魔法使い!エターナルフォースブリザードで相手はしぬぜ。
そして10歳をすぎたある日、父に書斎へと呼ばれた。
「クロエ、今日はお前の通う学校についての話しだ」
「あ、10歳を越えたらでしたっけ、そういえば。メイナー学園ですよね」
「いや、お前には王立魔法術大学へ入ってもらおうかと思っている。どうだ?」
10歳で大学とな... そのアメリカナイズ、嫌いじゃないぜ。
「お前の魔法術の才能は、親の贔屓目抜きで素晴らしい物だと思っている。
魔法術大学なら、その才能を十分に伸ばせるだろう。
それに、あそこには王国中の人が集まるからな。そういう意味でもよい経験になるだろう。」
「...分かりました。頑張って、期待に答えて見せます。父上、僕が居ないからって泣かないで下さいね?」
「はっはっは、うん、期待してるぞ。...ティーアがちと怖いがな」
「今のうちにしっかり甘えておきます。まあシロエもいますし、淋しくはならないでしょう」
「普通は逆なのだがな...。まあまずは試験に通らねばならんが、お前の気術のレベルであれば何も問題は無かろう。試験日はまた追って伝える」
「分かりました。」
その夜、俺は一通の手紙を書いた。
ソラナ宛てだ。
結局あの砦の事件後、王都に行く機会は得られず、大学は全寮制らしいので、この先も行く事は無さそうだしな。もうあっちは忘れているかもしれないが、一応約束したし断りの手紙くらいは出して置くのが筋だろう。万一機嫌を損ねてもアレだしね。
ちょっとはおしとやかになってるだろうか...
あ、でもアルセルの前とかだと割としっかりしてたか。
というか命狙われたんだよな。死んだとは聞かないが、大丈夫なのかね...
ーーー
試験日の7日前、魔法術大学のある、リンガイアに向けて出発する日がやってきた。
魔法大学は、王都ではなく、アーセナル王国の中心にあるリガリア領にある。
ちなみに王都は王国の南東に位置する。
王都に在ってくれればソラナに会いに行く機会もあったかもしれないがしょうがない。
メイナー領から大学までは馬車で5日ほど掛かるため、余裕を持って7日前に出発する事にしたという訳だ。
因みにこの世界は一週間が10日である。一ヶ月が40日、一年が10ヶ月。
慣れると分かり安くていいよ!
王道ならここで盗賊が出たりするもんだが、街道周りは特に治安が良く、何事も
なく、大学のあるリガリア領の領都、マクベスに到着した。
ここマクベスは、先代の王兄、マクベスが拝領した後、急速に発展した街だ。
第一王子であったマクベスだが、彼は学問や魔法、芸術をこよなく愛した。
そして王位にはまるで興味が無く、さっさと廃嫡、変わりに自分の理想の街を
創るべく、リンガイア領を拝領し、当時別の場所にあった領都を移転。
自分の名前である、マクベスの名を街の名に冠し、街を美しく作り替え、
さらに当時の有力貴族や魔法術師、豪商等に呼び掛け、
現在の大学や、美術館、大図書館等を次々と建て、現在は王国の文化の中心地となっている。
そして、王族や貴族の介入を嫌ったマクベスは、それぞれに独自の組合を作らせ、
王立としながらも、国に介入を許さない形を作り上げていく。
特に魔法術大学出身者によって創られた魔法術協会は、今やかなりの権力を持っているのだ。
まあ、国の魔法術師が国にそっぽを向かれたら、国が潰れちゃうかもだしな。
マクベスさんマジやりたい放題だな...
ただ、おかげで他国からの移民も増え、なおかつ有能な人材を多く輩出する街となり、
王国としても恩恵は計り知れないだろう。
「わああぁ、素敵な街ですね!坊ちゃま」
今回は父は忙しく、母はシロエの世話があるため、
護衛としてガイル先生、後お世話係としてオルナが同行した。
といっても半分旅行みたいなもんだけどね。
「今日はもう遅いけど、試験は明後日だし明日は色々観光しよっか」
「はい!うふふー楽しみだわー」
「やはは、じゃあオルナさん、夜はしっぽり大人の遊びでも...」
ドゴッ!
おお、腰の入ったいい正拳突きですオルナさん。
「先生は坊ちゃまの護衛ではないのですか?唯一の存在意義を無くされては、ゴミしか残りませんよ」
おお、腰の入ったいい罵倒ですオルナさん。
「やっはっは、オルナさんの突っ込みは年々鋭くなっていきますな!」
全く持って懲りないおっさんである。
そして、次の日、観光と、母や他のみんなに頼まれたお土産を買うためだったりのショッピングに明け暮れ、夜は有名なレストランでディナーを堪能し、明日に備えたのだった。
あ、ディナーはめちゃくちゃ美味しかったです。御馳走様。
そして試験当日、大学に入った俺は受付に向かったのだが、
なんか...試験日という割には人が少ないような?
「こんにちは。試験の受け付けはこちらで良かったですか?」
「はい。こちらですよ。お名前は?」
「クロエルド・メイナーです。なんだか少ないですね、受験者の人」
「はい、クロエルドさん...こちらの用紙に記入をお願いします。ああ、今回の
受験者は20名ですので。」
詳しく聞いた所、試験というのは常時受け付けており、受かれば、その年の次の年に
入学というシステムらしい。
全国から集まるので、いっぺんにやるのは双方に不都合なんだとか。
「では開始までお待ち下さい。」
試験の内容は筆記と実技で、午前に筆記、午後に実技となる。
筆記は特に問題なく終了。午後からが本番だ。
父にお墨付きは貰ったが、やっぱ緊張しますよね試験って。
こういう時はあれだ。アマリリスを食べるんだ。くそ、そんなの
もってないぞ、どうしよう。
「クロエルド・メイナーさん、どうぞ」
「はい、失礼します」
さて、やってやんぜー!
と意気込み入室したら、なんかしらーっとした空気になった。なんだこれ。
「ええっとメイナーさん、当大学は、魔法術大学なのはご存知ですね?」
「は、はい、魔法を習いたいと思い試験を受けさせて頂きました。」
え、面接試験もあるの?きいてねえよ!
「...まあよろしい。では気術を見せて下さい」
あれ、やっぱ実技なの?なんなのよもう...
まあやれといわれればやるよ!というわけで思い切り気術を展開。
すると、さっきまでしらーっとしてたおっさん達が目を見開いた。
「は、はい!けっこうです。ではこの機械を、気術を使って叩いて見て下さい」
いわれた方を見ると、所謂パンチングマシーンみたいなのが置いてあった。へーこんなのあんだな。
最近習い始めた繰術で、腕周りの気術を少し高め、オルナ流正拳突きでぶったたく。
ピコーン。出ました306ポイント!でも基準がわからん... ドウナノコレ
途端におっさんたちがヒソヒソし始めた。さっきからなんなの?イジメダメゼッタイ!
「メイナーさん、すいませんが一度退室して少し待っていて頂けますか?申し訳ない」
「は、はい...では失礼します」
10分くらい待たされ、再度入室。またもパンチングマシーンを叩かされる。
イライラ効果か、数値は312に上がっていた。
そして、
「まずは、お詫びを申し上げます。先ほどの無礼な振る舞いをお許し下さい」
「い、いえ、ええっとなにか変なところがあったのでしょうか?」
「いえ、実はですね...」
その教官の人から聞かされたのは、こんな話だ。
この魔法術大学には毎年大勢の試験者が訪れる。その中には、ダメもとだったり
試しに、という人も大勢居るのだそうだ。大学の合格基準は高く、そのほとんどが
不合格となる。
試験官も暇ではなく、そういう人が来ると、ああまたか、となってしまうワケだ。
まあ仕方が無いのかも知れないな。
俺の場合、わずか10歳、しかもその年で禅を修得しているとは思わず、つまり
魔力もろくにない子が訳も分からず遊び半分で受けた、って感じに思われたらしい。
「その年で既に禅を使いこなし、さらには少しですが繰術も使われた様子。全く驚きました。
実は、気術測定器の数値も、高すぎたので故障ではないかと点検したくらいでして。
魔力量も素晴らしく、申し分ありません。
いや、こういう事もあるのかと反省いたしました。来年は是非とも我が校へ入学下さい!
最高の環境をお約束致します。」
ふっふっふ。聞いたかね諸君!クロエの魔力は世界一イイィィ!!
また調子に乗ってみました。すいまてん。
まあでも最初はいらっとしたが、あれだけいってもらえばまあ悪い気はしないよね!
どっしよっかなークラスでビビられちゃったりするのかなーこまっちゃうなーふへへ
まあ、そんな訳で、来年から魔法術大学への入学が正式に決まった。
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