第五話 お泊まりしてない後編
前世の経験?が生きたのか、すぐに行動へ移せた。
ソラナを突き飛ばし、同時に俺も横へ飛ぶ。
そしてペンダントの結界を発動し、叫んだ。
「何のまねですか!ダズさん!」
ゆらりとこちらへ向き直るダズ。目ぢから半端ないっす。
「よく気づいたな坊主。済まないが姫共々死んでくれ。」
そういい放つと、突き飛ばされた姫の方へ向き直った。くそが!
アルナスを抜き、ソラナとダズの間に割り込む。
「邪魔だ!」
くお、早すぎて剣での防御が間に合わん!
ガギッ!! パリイィィン
振り下ろされた剣は見えない何かに阻まれ、斬られずにすんだ。
これが結界か!ありがとう愛してますお母様!
でも一撃でだめになったらしく、ガラスの割れたような音と共に、ペンダント共々砕け散ってしまった。
驚いて一瞬固まったダズに剣を突き入れるが、まだ大して上達もしていない俺のヘナチョコ斬撃は、掠る事無く避けられた。
「結界の魔具か。さすが貴族の坊ちゃんだな。だがさっきので終わりか」
「クロエ、こっちへ!」
突き飛ばされたソラナ姫が起き上がり、事態に気付いたのか、何かをしようとしている。
「私の持ってる結界魔具は特別製よ!あんたなんかじゃ壊せ無いんだから! ...あれ、何よこれ...!」
「あのペンダントは偽物と取り替えさせて頂きました。ソラナ様、観念して、国のために死んで下され」
顔に似合わず用意周到なおっさんです事!
しかしやばい!やばいやばい!逃げたってすぐ追いつかれそうだし、俺じゃ足止めにもなりそうにねえ!
いっそソラナを置いて逃げるか...?
でもなあ、ソラナってどっか似てるんだよな、未羽に...
ったく、来世までお兄ちゃんを苦しめるとはさすがだぜくそ!
もうダメもとでしがみついてみるか。砦の人が気付いてくれれば、もしかしたらソラナだけでも助かるかもしれん。
「ソラナ!砦に向かって走れ!」
そう叫び、ガクつく足を雄叫びをあげ奮い立たせ、無理やりダズに飛び込みしがみついた。
「早く行け!!」
しがみついた俺を振りほどこうともがかれるが、簡単にゃ離れてやらねえぜ!
だが、振りほどくのを諦めたのか一瞬動きが止まり、首を上に向けると、剣を逆手に持ち、突き刺そうとするのがみえた。
はぁ、死んだなこれは...
前世は20年、今世はぎりぎり7年か、みじけえ人生だったなどっちも。
足しても魔法使いにもなれりゃしねえ。
死にたくねえなあ... 死にたくねえ、死にたくねえよくそが!!!
その時、俺の中でナニかが、開いた。
...魔力回路か!ここで開くとか神様マジありがとう!
でも使い方分からねえよっ!こんな事なら基礎くらい勉強しとけばよかった...!
頼む魔力さん!なんでもいいから俺を助けてくれっっ!!
そして振り下ろされる剣。だが、
ガキンッ!
「なんだ!?」
ダズの振り下ろした剣は、俺の願いが通じたのか、俺に突き刺さる事無く
何かに阻まれた。
ダズもだが、俺も唐突な展開に驚き、しがみついた手が緩んでしまった。
その隙に蹴り剥がされて転がされた。くそっ慌てて起きあがる。
そして、ダズの様子を見ようと向き直ろうとした時、視界の端、はるか遠くの
方に父の姿が一瞬移った気がし、慌てて確認する。が、誰もいなかった。
何だったんだ今の... 願望による幻ってやつか?
ドサッ
何かが落ちる音に、我に返ってダズの方をみると、上半身のなくなったダズと、
剣を振り抜いた格好の父が、いた。
え? ...はっ?
「無事か、クロエルド」
「えっっはっはい... お父様、どうしてここが」
それを聞くと、無言でソラナの方へ向かうと跪いた。ってかなんでまだここにいるんだよ...
「ソラナ様、救援が遅くなり申し訳ございませんでした。ご無事で何よりです」
「い、いえ、 ...助かりました。礼を言います」
「砦に戻りましょう。」
そして、途中で追いついて来た他の騎士団に囲まれ、釈然としないまま、砦へと戻ったのだった。
ちなみに、安心した途端、二人とも腰が抜けてしまい、おんぶされて帰ったのは内緒だぜ。
ーーー
「ソラナ、クロエルドくん、無事でよかった」
砦に戻ると、中のホールで王子が出迎えてくれた。
「ごめんなさい、お兄様...」
「いや、いいんだ。それより何があったか教えてくれるかい?」
そして、俺も交えて経緯を説明した。
砦内の事に妙に詳しかった事。
泉に精霊像があるといって姫の興味を誘い、誘き出された事。
国の為に死んでくれといっていた事。
魔具をすり替える等、周到であった事。
斬られるかどうかという場面であったため斬り殺した事。
「そうか... まさかダズがあちらに取り込まれていたとは...
ああ、気にしないでくれ、何でもないよ。
しかし、ソラナを助けてくれて本当にありがとう。感謝の言葉もないよ。」
クロエのターン!奥義、チュウギノキシを放った!
「アルセル様、私も王国貴族の端くれ。盾となるのは当然の事。礼など不要で御座います」
今度こそ決まった...!まあ見捨てて逃げようとしかけたのも内緒だぜ。
「...7歳とは思えないね。ふふ、デンゼルはいい後継者に恵まれたね。
でも、今は勲章とかは出せないけど、せめて何かお礼をさせてくれないかな」
「あ、お兄様。実は、クロエの持っていた魔具の結界ペンダントが壊されちゃったの...」
あ!そういえば壊れちゃったんだよな。せっかく気に入ってたんだが
まあ命と引き換えだしな。あのペンダントも本望だろう。
「ふむ、じゃあこれを替わりに使ってくれないかな」
そういって、首に下げていたペンダントを外し、首に掛けられた。
「そのペンダントも結界を封じていてね。かなり強力な特別製だよ。」
めちゃめちゃ高そうな意匠を施されていて、裏には王家の紋章まで刻まれている。
ほんとに貰っちゃっていいのこれ...
どうしていいか分からず、父をちら見すると、軽く頷いた。
よーしもう返さないぜ!
その後、改めて何かお礼を、というのを遠慮しその場は収まり、
王子と父は再び仕事に向かい、俺とソラナは、一応用心の為、砦内にある一室に厳重に護衛を付けられ過ごすことになった。
「...巻き込んじゃってごめんなさい。本当に助かったわ、改めてありがとう」
おお、さすがに襲われたせいか大分しおらしくなったな。
うんうん、そのままおしとやかに成長するのだぞ。
「いや、気にしないでよ。まあ大した事はできなかったし、父が来てくれたから助かっただけだしね。 ...そういえばなんであそこに僕たちが居たのが分かったんだろうよく考えたら襲われてるのだって来て見なきゃ分からなかった事なのに...」
「ああ、あれはね、私がもう一つの魔具で救援信号を出したのよ」
なんと!
「この腕輪がそうなの。こっちは口外してない物だから大丈夫だったみたいね。
あ、今いっちゃった。 内緒ね!」
つまり、本来なら結界で身を守りつつ、腕輪で救援を呼ぶのか。さすが王族、セコム完備とはうらやましい。
「でも、ラズに突っ込んでいった時の、へぎょわあああ?だったっけ なんなのあの掛け声!
今思い出したら... ふふ、ごめんなさい。 でも、ふふ、あはははははは!」
なんだと、、、俺の脳内ではカッコ良くオラアアッって感じだったんだが、んなあほ声出してたのか...
まあ、めちゃめちゃびびってたしな。逆によく動けたよあの時は。うん。
「あはは... 勘弁して下さい姫。必死だったんですよあの時は」
「あはははっえほっ!げほげほ! ご、ごめんなさい...」
むせるまで笑っていただきコウエイデゴザイマス
「...姫に戻ったわね。あの時はソラナっていってたのに」
「あ、あの時はつい... 失礼しました」
「喋り方も戻ってる!いいわ。特別に、ソラナって呼ぶのを許してあげる。後喋り方も普通にして。 ...と、友達でしょ!」
なんかえらい気に入られたっぽいな。父の評価も上がったみたいだし、結果としては万々歳かね。
「うん、じゃあソラナ、これからも宜しくね。といっても次は何時会えるかだけど」
「王都に遊びに来れば良いじゃない!特別に案内してあげるわよ」
「うーん、機会があればね」
「絶対よ!」
その後、お互いの事を色々話して過ごした。
話してて思ったが、ソラナは俺と同じ7歳らしいが、かなりしっかり
していて、口調さえ直せばかなり立派な王女様になりそうな感じだ。
容姿も将来は美人になりそうな整った顔立ちをしている。
まあ、口調は勝手に直っていくだろう。
「そうだ、マーサ、あのお菓子持ってきて!ここにくる前に寄った、ターフス領の人気の
お菓子屋さんで買ってきたのがあるの。特別に食べさせてあげる!」
そういって出されたのは、カステラっぽい薄い生地に、生クリームと...これアンコか?
を挟んだ物だった。 生クリームどら焼きだなまるで。
「どう?」
「うまい!」
「でっしょー!」
ふーむ、こっちになさそうな料理のレシピなんかも、いい儲けになりそうだな。
しかし、アンコがあるとは、侮れないぜ異世界も。
そしてほどなくして夕食の時間になり、俺も特別に同席を許され、またもや
へぎょわあで笑われたりもしたが、王子の貴重なお話しも聞け、有意義な物となった。
そして次の日の朝、急遽王都に戻ることになった一行は、砦からも人員を割き、護衛を
増やして、お騒がせ軍団は無事、帰路についたのだった。
「お疲れ様でしたお父様」
「クロエ、今回は見事な働きだった。よく頑張ったな」
「ありがとうございます。そういえばお父様、あの時、遠くにお父様が見えたと思ったら、次の瞬間にはあの狼藉者が斬られた後だったのですが、あれはどうやったのですか?」
「おお、あれはな、私の武技の一つで、神速剣というものだ。気術で脚力を爆発的に高め
その速度と共に相手を斬り伏せる。単純だが強力だぞ」
ほほおお、気術ぱねーっす!ほとんど瞬間移動に近かったぞあれ。すげーぜパパン!
「すごいですね!あ、そういえば、私もあの時、魔力回路が開いたんですよ。そのおかげでどうやったか自分でも分からないんですが、斬撃を跳ね返す事ができて死なずに済みました。」
「...なに?もう開いたのか。それはすごい事だぞクロエ!将来はすごい魔法術師になれるかもしれんな。ふむ、なるほど、であれば..」
なんだかぶつぶつ独り言をいいだしたパパン 期待してくれるのは嬉しいが、割と親バカっぽいのよねえこっそり
まあ早くて8歳からって聞いてたし、一年早いのがどれほどかは分からないが今から頑張って延ばしていこう。
今回の事で、おれはやっと生まれ変わった事に実感が湧いたように思う。
前世とは違い、おおっぴらに隣の国で戦争が行われ、王宮には陰謀が渦巻き、
人の命は安い。
あのラズ襲撃事件の時、俺が腰を抜かしたのは、安心したからもあるが、目の前で
人があっけなく死に、そして無残な死体が転がっている様が恐ろしくて仕方なかったのだ。
よく吐かなかったと思うくらいだ。下手すればトラウマになりそうだが...
だが、父は何でもないように対応し、ソラナでさえも、死体には何も反応していなかった。
ここは、そういう世界なのだ。 日本の感覚を引きずっていれば、
あっさりと死んでしまいそうな。
せっかくの二度目の人生だ。周りの人くらいは守れるように、がんばっていくかな。
せめて今世では童貞は卒業したいしね!
ご意見ご感想お待ちしております。