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鯉は恋をした-8-

 翌日。雫は目を覚ますと、あれは夢だったのではと思い、慌てて鏡を見た。

 しかし、それは夢ではなかった。鏡には美しい人間が映っていたからだ。

 本当にこれが自分なのだろうか?と不安になり、鏡に映っている自分にそっと触れる。その姿は決して消えることなく、鏡に映り続けていた。


「夢じゃないのね……」


 湖の中から空を見上げ、太陽の位置を確認する。時刻はもうお昼になっていた。


「きっと、あの子はもう居るわね」


 でも、雫はあの沖には行けなかった。怖かったからだ。

 今まで笑って話しかけていた顔が、恐怖に変わる瞬間を見るのが怖かった。

 やがて遠ざかるように湖から離れ、彼は訪れなくなる……そう思うと、雫の胸は張り裂けそうなぐらい痛かった。

 結局、雫はその日、海渡と会うことは出来なかった。

 それは次の日も、そのまた次の日も続いた。行きたいけど自分の中にある恐怖で中々行けなかった。


「っ……」


 自分の手をギュッ強く握り、唇を噛み締める。


「私の意気地無いくじなし…!これじゃ、願いの意味がないじゃない……」


 雫は己の弱さに苦笑する。会いたいのに会えない。話したいのに話せない。

 "もし"を考えると、その勇気は呆気なく砕け不安だけが心に残る。人魚姫の呪いは、まるで、その不安を広げるように雫の心を徐々に侵し始めていた。

 雫は、もう日が暮れてしまった空を見上げる。


「きっと、あの子はもう来ないわ…」


 ずっと会っていたのが、突然ピタリと止まれば誰しも『もう来ない』と思うだろう。それが、幾日も続くと尚更だ。

 それに人間は気まぐれな生き物。外の世界には、湖よりも輝いている素敵な物が沢山ある。海渡はその中に飛び込んで行くだろう。

 内心諦めようと思う気持ちと諦めたくないという気持ちで、また胸が痛くなった。


 ――想いと不安が心を掻き乱す。


 それはいつしか言葉になり歌となった。

 そして、この儚い歌は夜の空に静かに響いていた。

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