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鯉は恋をした-21-
◇ft.水地茂
茂は湖に続く林を抜けるとポケットから黒い携帯を取り出した。
――プルルル…プルルル…。
「はい」
「私だ。今、確かめて来たところだ。あそこには確かに人魚がいる」
「そうですか。それで、その根拠はなんでしょう?」
「根拠?……ただの勘だよ。ふふっ」
電話の男は溜め息を吐くとやれやれ…と言った風に話しを続ける。
「勘、ですか…貴方の勘は酷く当たりますからね。…わかりました。迎えは寄越しますか?」
「いや、大丈夫だ。俺も直ぐそっちに向かう。それと、捕獲の準備を進めておけ。楽しい狩の始まりだ」
茂は電話を切り、夜空に浮かぶ月を見上げる。月は、恐れなど知らないように煌々と夜の闇に光を灯していた。
「さぁ、君はどう立ち向かうのかな?人魚姫の愛しい王子様……」
ニヤリと笑った茂は眼鏡を上げ、車に乗り込みむとエンジンを吹かし車を走らせる。後に残ったのは、走る音の余韻と車から出る煙だけだった。




