鯉は恋をした-11-
♡ー♡ー♡―♡ー♡
海渡に姿を見られた雫は慌てて湖に潜り、湖の底で膝を抱え震えていた。
「ど、どうしよう…」
(海渡に見られた…)
雫は顔を伏せ、海渡がこの姿をどう見て捉えたのかを考えるのが怖かった。
すると、雫の後ろから声をかけて来た者がいた。
「お主は誰だ」
「……主様」
「っ!?その声……も、もしや、あの時の鯉か?!」
「はい……」
「……そうか」
主は悲し気な瞳をして雫を見る。まるで、雫のその姿を誰かと合わせるように。
「お主も魔女に願ったのだな」
「はい……」
「お主の歌声はわしらの所まで聞こえておる。懐かしく思ったので来てみたのじゃが……そうか。お主の歌声は姫様そっくりじゃ。優しく、儚げで、愛おしいという想いが溢れておる。して、そんなに怯えてどうした?」
「この姿を見られてしまい……」
「それは、お主の愛しておる人間にか?」
雫は小さく頷く。不安げな目にはジワリと涙が浮かび、やがて湖と混ざり合う。
「きっと気味悪がっているわ。それでも構わないと思って願ったのに私は……」
「会ってしまうと怖くなってしまったか。それでも、お主は愛しておるのだろう?」
「はい……」
「どんな代償があるのか、わしには解らん。しかし、その代償を払ったからには勇気を出してみるのもいいかもしれぬ。鯉の姿をしていた頃みたいにな。それでも無理だと思うのなら、ここにずっといるといい」
「……主様」
「湖は広い。この湖の仲間たちは、お主を好いておる。一人ではないのだから安心しなさい」
その言葉を聞いた雫は心が温かい気持ちになり、自分は仲間に愛されていると実感する。そして、涙を拭い微笑んだのだった。




