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絵に描いたような身内の連続死

序盤はテンプレみたいな進行で内容が進んでいきます。

俺は常に孤独だった。


「だった」と言う前に今現在も孤独なのだが。


幼いときから常に、と言えば判ってもらえるだろうか。


3歳の時、両親と共に祖父母の家に行く途中、高速上で居眠りをしていたトラックが目の前で

横転事故を起こし、父の運転する車は止まりきれずトラックのどてっ腹に突っ込み大破。

両親は即死だったと後に聞かされた。

潰れたのは前席までで、あと30センチ車が潰れていたら俺も死んでいたらしいが、

幸か不幸か俺は生き延びてしまった。

今思えばここで一緒に死んでしまっていたら良かったのかもしれない。

この、まるでテンプレのような事故により、俺は幼くして両親を失った。


3歳と言うこともあり、両親の死が理解できず、葬式の間も俺は泣くこともなく、

両親が居ないことへの不満を祖父母にぶつけていたようだ。

記憶にあるのは、祖父母の真っ赤な目と、困ったような笑顔だけだ。

式を済ませ、火葬場の煙突を見ながら、祖父が俺の手を握り「お父さんとお母さんは、あの煙になって

天国に行ったんだ」と涙ながらに語ってくれたが、俺は手を握られていた祖父の手の力が

強くて、手が痛いと泣いていた。その涙は両親が居なくなったことへのものではなかった。


両親は二人で事業を興していた。

確か、人工臓器だか何かの素材を作るような小さな町工場だったが、当時は人工臓器への期待が

高まりつつある世の中で、その流れに乗って、工場は結構な利益を出し始めていた。

幸い、株式会社と言う形を取っており、両親の保有する株式は過半数を越す55%、残りは祖父母が

保有していた。

が、両親の突然の死により会社はエンジンを失った。

残された従業員達は皆、今後どうなるのかを心配していたようだが、父の大学来の友人であり、

専務として父の右腕として働いてくれていた男、藪沢が社長に収まることで、事態は収束。

会社はその特殊な業態もあり、爆発的な売り上げを上げることもなかったが、堅実に、

緩やかな右肩上がりで成長し続けた。


藪沢の枕詞は常に「亡き社長・副社長の為に」であった。

きっと、最初は本当にそう思っていたのだと思う。事故からしばらくして祖父母の家に来て、

泣きながら俺の頭をわしゃわしゃとやりつつ祖父母に両親の思い出を語っていた。

今思うと当時は藪沢も、両親の弔い合戦のつもりで会社を軌道に乗せることで必死だったのだと思う。


3歳から5歳までの2年間は俺にとって、記憶にある中で一番幸せな時期だったのかもしれない。

祖父母は優しく、両親を失った俺に対するケアは並々ならないものがあった。

悪く言えばワガママ放題なのだが、生来俺は子供には似つかわしくないほど大人しい子であったようで、

祖父母を困らせることもなく、優しい目に見守られながら人格形成されていった。


5歳になった2月のある日、藪沢が祖父母の家を訪ねてきた。

両親が亡くなってから、会社はこの男が実際の切り盛りをしてきたわけだが、株式は両親の死により

俺が55%を相続し、後は祖父母が保有していたため会社の実際の所有者は俺と祖父母だったわけだ。

藪沢は会社の業績が右肩上がりになっていて、今期の決算も黒字収支であることを伝えてきた。

祖父母を始めとして、当然だが俺も会社の業務については素人同然であった。

祖父母は藪沢に感謝し、両親の会社なのに必死で業務に励む藪沢に信頼を寄せていた。

藪沢は、それから言いにくそうにこう切り出した。

「来期は、博之と麻美さんの希望でもあった株式公開を行いたい。ついては、現状の株式保有状況では

独占状態となるため、法に抵触する。お二方と坊主(俺)の保有率を52%とし、残りを公開させて頂きたい。彼らの遺志を私に継がさせて下さい。」

と、平身低頭に頭を下げる。

今思えばこれが最初の罠だったのだが、藪沢に全幅の信頼を置いていた祖父母は、二つ返事で奴の提案に

乗った。

祖父母共に元教師であったため、株式については素人同然。何をどうしていいかが判らないので藪沢さんにお任せする、と、ろくに文章に目を通すこともなく委任状にサインをした。

この瞬間、藪沢は内心高笑いをしていたに違いない。

なぜならこの委任状は、俺たち3人の株式の「譲渡」に関する委任状であったのだから。


程なく両親の会社は株式を公開し、初日にはストップ高を付けるという好調な滑り出しであった。

祖父母はそのニュースを見て、大喜びだった。

しかしその直後、祖父母は信じられないものを目にすることになる。


株式保有者のトップの欄には、俺や祖父母の名前ではなく、藪沢の二文字があった。


またこの日、俺の法的な後見人である祖父母の銀行口座には、公開前の評価額に準じた株式の譲渡額である20億円が振り込まれていた。


藪沢は、20億で祖父母と俺から両親との唯一のつながりであるこの会社を取り上げた。


祖父母にしてみたら、金額の問題ではなかったのだろう。

ニュースを見てすぐに藪沢に連絡をしたのだが、秘書という女が電話に出て「社長は今、マスコミの

対応に追われていてすぐに電話には出られない」の一点張り。

翌日も電話で同じことを何度も繰り返すが、やはり藪沢につながることは無かった。


明けた翌日、祖父は直接会社に乗り込み、藪沢に会うことが出来た。

応接室で待っていると、藪沢が傲岸な笑顔をたたえて入ってきた。


「藪沢さん、一体どういうことなのか説明して頂きたい。」


「どういうことも何も、お二方は委任状にサインをされた。そういうことですよ。」


「あの時の説明では、我々の保有株式の比率を52%まで下げると言うことだったが、

 蓋を開けてみたら、保有者が藪沢さんになっていた。これがどういうことなのか説明してもらいたい

 ということだよ!」


「これはおかしなことを。確かに私はあの時、保有比率のお話はしました。ですが、同時にこうも

 申し上げたはずです。『博之と麻美さんの遺志は私が継がせて頂きたい』と。その結果がこれだと

 言うことですよ。それに私は株式に見合うだけの金額を、坊主の分も合わせて貴方の口座に振り込ませて頂いたと思いますが?」


「金の問題じゃない!私らとあの子たちの残された唯一の繋がりをこんな形で奪うのはどういうつもりなんだ!」


「私はね、広田さん。博之は今でもいい友人だったと思っています。でもね、俺はアイツの才能に

 常に嫉妬してた。俺が及びも付かない発想で、アイツはどんどん新しい商品を開発していった。

 俺は、アイツの下に甘んじることで、常に敗北感と戦ってきた。ようやく軌道に乗ってきた矢先

 アイツはうまいこと居なくなってくれた。経営者として、男として、このチャンスを見逃す馬鹿

 はいないでしょう。私は忠実に経営者として、男としてやるべきことをやった。ただそれだけの

 ことなんですよ。」


「藪沢・・・・貴様・・・・」


「恨むなら恨んでいただいて結構。私には法的に何の落ち度も無い。この会社を得られた代償として

 それは甘んじて受けましょう。幸い、坊主が成人するまでの金には困らなくなったでしょう?

 感謝してもらいたいくらいだ。」


「もういい・・・・。それが貴様の答えなんだな・・・。」


「そういうことです。おい、元大株主様がお帰りになられる。丁重にお見送りしろ。」


覚束ない足取りで祖父は両親、いや、「藪沢の」会社を出た。


家に戻り、茫然自失としていた祖父に、祖母が何事かと聞く。

事の真相を知り、愕然とする祖母。

ただ事ではない雰囲気を感じて俺は大人しくしていたが、何が起きたかについては全く理解していなかった。

ただ、祖父が真っ赤な目をして、俺を抱き「駄目なお爺ちゃんで済まない」と何度も謝っていたことだけは憶えている。

当時の俺は「お爺ちゃん痛いよ!離してよ!」を繰り返すばかりのダメな孫であった。


その年の秋、祖父は日課だった朝の散歩中に心筋梗塞の発作を起こし倒れ、そのまま還らぬ人となった。

1ヶ月後、祖母の末期がんが判明し、年が明けた1月の半ばに祖父の後を追うように亡くなった。

祖母は死ぬ少し前に「ごめんね、私たちがもっとしっかりしていたら・・・貴方がこんなことには・・・」と涙ながらに語ったが、5歳の俺には何のことか判らず、ただ、目の前にいる祖母がもうすぐいなくなる事だけが嫌で泣いていた。

祖母はそんな俺を困ったような顔で微笑みながら見るだけであった。


こうして、もうすぐ6歳になろうかという年、俺は本当に孤独になった。








最後まで読んでいただいてありがとうございます。不定期ではありますが、可能な限り早めの更新を心がけて行きたいと思います。

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