お似合いの二人
今日は武人君とのデートの日……もとい、一緒にお祭りに行く日。
今日こそ、佐藤あやは、武人君に告白する!
シチュエーションは考えてあるの。
おニューの浴衣を着て、遅刻しないように待ち合わせの30分前から待って、射的をして指導してもらって、最後は人気のないところ行って、二人きりで、どかんどかんとあがってる花火見ながら告白!
見よ、このあたしの、完璧な計画を!
なのに最初の段階から、躓いて、どうするのよ!?
「お母さん、あたしの浴衣、どこ~!?」
「変ねぇ……ここにしまっておいたはずなのに……」
「時間が、時間が、時間が!? 早く見つけてよー!?」
「もういいじゃない? いつもの浴衣、着ていけば?」
えーっ、折角、ミニ丈の浴衣が流行ってるからって、それ、あたし、買ったのに、今更普通の浴衣でいくのー?
でも、時間ないし……パパっとあたし、服を脱いで、もう、いつもの浴衣に着替えた。
「おかあさん、行ってくる!」
「はいはい、急ぎすぎて、転んだりしないようにね?」
お母さんの言葉など聞いてなくて、あたしは下駄で、ダーッシュ!
時間からかなり遅れちゃった!
「武人くーん!」
あたしは手をぶんぶん振りながら、武人君に近づく。
「おいおい、そんな、慌てるなよ、大丈夫だから、ねっ?」
武人君はあたしの顔を覗き込みながらにっこり笑ってくれた。
あたしは思わず武人君に抱きついた。
「武人君、待たせて、ごめんね! だーいすき!」
ぎゅぎゅぎゅむ。
しかし武人君はあたしをあやすように、頭をぽんぽん、と撫でた。
「はいはい。あやちゃん、今日はどこ行く?」
「うーんと、射的から! あたしに射的教えて!」
浴衣姿で射的して見せるのはギャップ萌えで男の子メロメロだって、本に書いてあった!
あたしの色気で、武人君をメロメロにしちゃうんだ。
浴衣とか、ちょっと肌蹴てみせたり、しつつ。
「射的かあ、じゃあ、こっちかな、おいで」
しかし、射的屋さんの前には長い行列ができてた。
な、何で!? みんな、あの本、読んだの!?
良く良くみたら、みんな、カップルばっかりだし……。
「こんなに待つのは、大変すぎるよね……」
あたしはしゅんとしてしまう。でも、武人君は言ってくれた。
「いいよ、そんなに楽しみにしてたなら、時間かかるけど、待とう」
「でも、いいの? 武人君は他に見たいところないの?」
「僕もやってみたかったんだ、射的。だから、一緒に待とう、あやちゃん」
「うん!」
あたし達は二人で長い行列の最後尾に並んだ。
それから時間かかったけど、射的は無事できた。景品こそは取れなかったけどね。
武人君から買ってもらったアイスを食べながら、祭りの屋台を見ていると、いよいよ、花火の時間近くに迫ってきた。
「武人君、こっち、こっち! こっちから、花火、綺麗に見えるスポットあるんだよ」
あたしは武人君の腕を引っ張る。
あたし達は丘の上に上った。
そこには、あたし達二人きりだった。
そこに丁度、花火があがり始める。
綺麗な花火があがり始めた。
「綺麗……」
「花火に見とれてるあやちゃんの方が綺麗だよ」
武人君は微笑んでくれる。その声にあたしはハッと息を止めて、武人君の目を直視する。しばらく二人で見詰め合った。
「あたし……武人君が好き! 武人君のお嫁さんになりたい!」
「僕もあやちゃんが好きだよ。世界で一番愛してる」
「本当に……?」
あたしは武人君の言葉を聞いて、あまりの幸せさにこれが、夢かと思った。
「あたし……まだ小学4年生なのに、武人君大学生なのに、それでもあたしのこと、好きだと思っていてくれたの?」
「ああ、あやでなきゃ、駄目なんだ。周りの女なんてみんな、おばさんばっかりで、あやみたいに可愛い子じゃないと、僕には恋することはできないんだ」
武人君は半ば自分につぶやくように、あたしに言う。本当に会話の後半は自分ではつぶやいただけのつもりで、あたしには聞こえてないつもりだったのかもしれない。
でも、それを聞いてあたしは、今だけは自分の年齢に感謝だよ。武人君はずっと同い年の子がいいんだと思ってたけど、小学生のあたしでも……小学生のあたしだからこそ、好きでいてくれるんだ。
「武人君、大好き! 永遠に大好きだよ!」
「僕もあや、お前が好きだ!」
あたしと武人君は口付けした。それがあたしのファーストキス。じゃないんだけどね、実はファーストキスはその前に付き合ってた担任の先生と体験済みだったけど……でも、いいよね。