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陶人形と片眼鏡

 『喫茶 ピエロ』の看板は裏返され、洒落た飾り文字でclosedと書かれていた。

 しかし、店内には明かりが灯っていて、カウンター席の向こうで仕事をする櫻井さんたちが見える。金本さんはいかにも当然といった調子でドアを押した。

 からん、ころん――。

「いらっしゃい」

 いつも通り出迎えてくれるドアベルの音、櫻井さんの穏やかな声。あまりにいつも通りすぎて、さっきまでの出来事全てが悪い夢だったんじゃないか――なんて、思ってしまう。そう思いたいだけだということは僕が一番分かっているんだけれど。

 金本さんは無言のまま、七つあるカウンター席の一番端に座った。彼の特等席だ。僕も黙って隣に腰を下ろす。

「金本さん」

 金本さんは何で、僕をここに連れてきたんだろう。

「稀子が、話を聞きたいんだとよ」

 僕の疑問を先回りして金本さんが答える。僕は驚いて店内を見回した。

 

 いた。僕らのちょうど真後ろ、テーブル席の一番奥に小さな女の子が座っていた。

 ちょっと心配になるほど細い身体を紺と白のボーダーワンピースに包み、つやつやした黒い髪を背中に流している。日に当たったことがないんじゃないかと思うほど白い肌、人形じみた端正な顔立ち。

 そして、この神様から特別に授けられたような美貌を『完全に』『完璧に』『盛大に』『完膚なきまでに』ぶち壊す、ゴツくてぶ厚い片眼鏡モノクル。まるで顕微鏡を分解して取り出したかのようだ。あまりにもアンバランスすぎて、かえって違和感なく映ってしまう。『喫茶 ピエロ』一番の変わり者の、陶人形のような少女。

 稀子は無表情にパソコンを睨んでいた。

『先程のことを話して欲しい。出来る限り詳しく』

 稀子のパソコン画面に現れた文字。稀子と僕らの会話は、普段こうやって成立する。

「僕は後から駆けつけたから、その瞬間は見ていないんだけど――」

 僕は夏奈の事件のことを、順を追って出来る限り細かく説明していく。細かく、細かく。それこそ、佐々木さんの背格好からベランダの様子、天候、野次馬のメンバーまで。

 話していくうちに、ふつふつと腐敗した泡のような不安がこみ上げてくる。夏奈は無事だろうか……。


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