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赤いランプと恐怖症少年

 救急車の赤いランプが物々しくあたりを照らす中、夏奈は病院へ搬送されていった。

 騒然とした空気。騒ぎを聞きつけた野次馬が、しきりに何か囁きあっては顔をしかめている。先ほどまで救急車の止まっていた駐車場には誰も足を踏み入れない。まるで、見えない結界でも張ってあるかのようだ。

 夏奈を送り出すまでが限界だった。付き添いで同乗した佐々木さんが行ってしまうと、僕は膝から崩れ落ちて、濡れた駐車場に座り込んだ。

 頭が割れるような頭痛に耐え切れず、頭を抱え込んで歯を食いしばる。生ぬるい雨水が膝に滲みていく。

 周囲の音が遠い。妙に明るく浮き上がった視界。頭蓋骨の内側で、奇妙な音が反響している。酷く現実感を欠いた世界。

 ああ、『あの日』と同じだ。

 喉が締め上げられる。痛い! 肺が、頭が、心臓こころが痛い!


「雅喜さん――許して――!」


 親しい人は皆、僕を置いて遠くへいってしまう。

 僕の目の前で、僕のこの手が一人の人間の命を散らせたときから。

 僕は亡くすことが、奪うことが――何より置いていかれることが、どうしようもなく怖くなった。

 こんな恐怖に、僕は耐えられない!


 そのまま意識を手放しそうになった時、大きな手が僕の肩をポンと叩いた。

「……金本さん」

「おう。大丈夫か? 情けなく座り込んじまって」

 僕は頷いて、ゆっくり立ち上がる。徐々に、世界の色が、音が、現実が戻ってくる。

 締め上げられていた喉が急激に楽になり、反動で咳き込んでしまう。

「夏奈が、マンションの三階ベランダから、植え込みの一角へ転落しました」

 それでも、絞り出した声は自分の声だとは思えないほど掠れきっていた。手足の震えはまだ治まらない。


 僕はよっぽど酷い顔をしていたのだろう。金本さんは無言であごをしゃくり、ついてくるように合図した。僕は黙ってそれに従い、闇に沈む迷路道を歩き出した。



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