第3話~少女とその理由~
受験って忙しい!
残り考えてる二つが執筆出来ない。
ああもどかしいこの日常。だれか受験生変わってくだ(ry
そんなこんなで第四話。あまり進展はしませんが、よろしくお願いいたします。
いつのまにか私は眠っていたみたいだ。
肌に触れる空気は少し冷たく、閉じたまぶたの奥から感じる光は弱くて、辺りはもう暗くなりはじめているのだろう。
しかし、どこか違和感を感じる。
そして、その理由はすぐにわかった。
ゆさゆさと揺れている私の身体。触れている部分に感じる確かな温かさ。まるで、遠く昔にお母様が疲れて歩けなくなった私をおんぶしてくれたみたいに。
「今日はやたらとめまぐるしい一日だったね」
「そうですね。でも、洗濯物は見つからなかったです」
「また買いにいけばいいよ。うん、大丈夫」
「‥‥‥‥シエルさんが見つけてくれれば済んだ話ですけどね」
不意に二つの声が聞こえた。
一つは必死に駆け込んだ小さな家に住んでいた女の人の声。あまりにも必死でなりふり構わなかったので上手く説明出来なかったけど、すぐに事情を察して、私も追い付けないくらいの速さで飛び出して助けてくれた。
そして、もう一つの声。
なにも関係の無い私を助けてくれた人。
突然現れた私を匿い、傷だらけになって助けてくれた人。
傷だらけの姿を見たときにはなにも言えなくなった。
辛くて、責任を感じて、でも嬉しくって。
生きていてくれたことが嬉しくて、泣きながら抱きついた私を受け止めて、涙を流す私を優しく撫でてくれた優しい人。
二人の声は、私が住んでいた場所には無かった不思議な声だった。
互いが互いを蹴落とし、自らの地位を護り、高めることだけを考えていた回りの人達とは全く違う。
優しくて、互いを想い合っていて、温かい。
そんな優しくて、温かい背中に揺られて、二人の会話を聞きながら、私は今まで感じたことの無い不思議な気持ちのまま、再び眠りについた。
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「‥‥‥‥なんとか峠は越えました。安心なさってください」
「‥‥‥‥うん、真顔でそういう冗談言うのやめようか。だいぶ洒落になってないから」
帰ってきてからまず、とりあえず少女を休ませてあげる事にした。ルルシェが言うには、過度の疲労に加えて緊張感が一気に切れたことによる失神らしい。
今はルルシェの部屋のベッドで寝かせているらしい。
「とりあえず、起きてくるまでゆったり待つしかないね。あ、はいこれ」
シエルは、あらかじめ用意しておいた紅茶(といっても滅多にいれることはないので味に自信はない)を、対面に座っているルルシェに渡した。
「‥‥‥ありがとう‥‥‥ございます」
「‥‥‥‥確かにほとんど入れないけど、そんな警戒されると傷つくね。一応、自分では上手くいったつもりなんだけど」
「シエルさんはなんでもそつなくこなしますから、信用はしていますよ。あの‥‥‥‥」
一拍おいてルルシェはシエルに問いかける。
「‥‥‥‥これから、どうされますか?」
あの少女がまだ眠っている以上、彼らで話し合うことが出来るのはこれくらいの事しかないだろう。
とはいえ、彼らにとってこの問題は、決して軽い問題ではない。何故なら、
「下手をすると、もうここには帰ってこないかも知れないんだよね‥‥‥‥」
そう呟いて、シエルは深くため息をつく。目の前ではルルシェも、同じように物憂げな顔をしてため息をついていた。
あの後、その出来事の詳細をルルシェに細かく話した。
そして、何かに納得した顔でルルシェが、「とりあえずこの人たちを処分して来ますので、ゆっくり休んでいて下さい」と言い、衛兵二人を引きずって森の向こうへ去って行くのを見て、どこにそんな力があるのかと思わずにはいられなかった。
きっとルルシェの言っていた『処分』は、衛兵の言っていた嫌な雰囲気を纏った物とは別物だとシエルは思った。思いたい。
ひっきりなしに泣いている少女の頭を撫でながら、処分ってなにかなー、大丈夫かなー、と頭を巡らせているシエルに、戻って来たルルシェが開口一番にいった台詞が、先程と同じものだった。
もちろん事細かく話した以上、少女が言った一言の事も話している。その時シエルは、とりあえず家に帰ろう、と言ってその場を凌いだが、今家の中にいる以上はその手はもう使えない。
「わからないけど‥‥‥‥とりあえずあの子が起きてくるまでその話は出来ないかな」
「‥‥‥‥国を守る、ですか」
まるで絵空事のようにルルシェは呟いた。
ルルシェ曰く、この場所は三国の内の二つ、『アシュタリア』と『ミネルヴァ』の境目にある中立地帯にあり、特に国の干渉を受けずに生活していたため、シエルには国という概念がよくわからないでいた。
対して、多少なりとも理解しているルルシェは、事の大きさに放心状態になりながら、自身の推論を述べていた。
「咄嗟にそんな言葉が出るなんて‥‥‥‥‥もしかしたら彼女は」
「国の中心、かもしれないね」
シエルが言葉を引き継ぐ。
今の時点で得ている情報だけでも、十中八九それだけは断言できる。
ただ国の事を心配している人という可能性もなきにしもあらずだが、その可能性はほとんどあり得ないだろう。
その理由は今言及すべきではないから置いておくとして、シエルはこれからの行動を頭のなかで巡らせてから、何度ついたかわからないため息をつこうとする。すると、
「‥‥‥‥‥もうそこまでわかっているんですね」
ドアが開き、少女が顔を出してくる。それは、先程ルルシェが運んだはずの紅い髪をした少女だった。
「もう起きて大丈夫?もう少し休んでいても大丈夫だよ」
「いえ、もう大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」
そう言って、ドアを完全に開きこちらに姿を見せる。
改めてその姿を見ると、その少女はかなり整った顔立ちで、その立ち振舞いは上品かつ綺麗なものだった。
見たことの無い綺麗な紅いロングヘアーに、すらりと伸びた手足。服装はあまり綺麗なものではないし、身体はボロボロになっているが、不思議と気品に満ちた姿をしている。
何より不思議なのはその瞳。
見つめていると、何故かわからないが奥へと引き寄せられる何かがある。その瞳の奥の奥へと、不思議な感覚で意識が引き込まれて‥‥‥‥‥‥
ふと少女は瞳を閉じて、何かを遮るように言葉を重ねた。
「先程は助けていただき、ありがとうございます。感謝の言葉もありません。何かお礼をさせていただきたいのですが‥‥‥‥」
「いいよ。乗り掛かった船だ。さっきは僕も狙われていたんだから、成り行きだよ」
「ですが‥‥‥‥」
「大丈夫です。どうせこの人の事なんですから、なにも考えずに助けたに決まってます。そんなお礼をするほど、たいしたことはしてません」
「ルルシェは僕に厳しいね。図星だけど」
相変わらずのルルシェ(今回は何故拗ねているのかわからないが)に苦笑しつつ、シエルは少女に対して向き直る。そして、少女に目線で続きを促す。少女は一瞬だけ迷いを見せたが、何かを決意して深く深呼吸した。
「私は‥‥‥‥アシュタリア王国第27代王女の娘、フィオネ・フローライトと申します」
王女、という響きにあまり聞き覚えが無いシエルは軽く首を傾げる。
一方ルルシェは、なにかを納得したような、それでいてなにかを疑問に思うような声色で少女─────フィオネに問いかける。
「一国の姫君がどうしてこのような地にいらっしゃったのですか?王都からはかなり離れていると思いますが」
フィオネはルルシェに向き直り、相手の目を見て話しかける。そのような些細な仕草、振る舞いなら、一国の姫ということもなるほど頷ける、と場違い考えをシエルは巡らせていた。
「それは‥‥‥とある事情がありまして、国から逃げてきたのです。先程そちらの‥‥‥‥‥えっと‥‥‥」
フィオネはそこで、困ったようにシエルへと目線を向ける。シエルは疑問に思いつつ、恐らく求めているものはこれだろうと、一つ教えてあげる事にした。
「ん‥‥‥?ああ、僕の名前はシエルだよ」
「ありがとうございます。シエルさんがご覧になったものは、恐らくこの地方の衛兵にも、その事が知れ渡ってしまっているからではないかと」
「なるほど‥‥」
その話にもシエルは納得がいった。
先程、相対した衛兵の気迫は、ただの仕事ではあり得ないほどの物だった。
それほどの気迫を見せるということは、それ相応に大切な仕事であり、また失敗は許されない何かがこの少女にはあるということだ。
先程の一般の人ではないという根拠も、ここから成り立っていた。もっとも、まさか国の頂点までとは思ってもいなかったが。
「遠く遠くへと逃げているうちに、ここにたどり着いていました。そのせいで、お二人には迷惑を掛けてしまいましたが‥‥‥」
そう言ってまた落ち込んでしまうフィオネ。
どうやらこの娘は相当真面目かつ律儀らしい。姫としての教育の賜物かもしれないが、あまりにも恐縮している姿を見るとこちらが申し訳なく感じてくる。
そこでシエルは、彼女の申し訳なさを解消するために、一つの提案をすることにした。
「‥‥‥じゃあ一個、僕からのお願いに答えてもらおうかな」
そう言ってシエルは、一本指をたててフィオネへと向ける。
「一個‥‥‥それだけで、構わないのですか?」
「うん。それ以上は望まないし、これでチャラだよ。その代わり、しっかりと答えて貰いたいんだ」
「‥‥‥‥わかりました」
やはり真面目な彼女はそう答えると思った。
シエルは、初めて会ったときからずっと思っていたことを聞くことにした。
「教えてほしい。君の国のこと、そして‥‥‥‥‥‥君のあの言葉について」
それを聞いたフィオネは、一瞬だけ表情を強張らせた。そして複雑な表情───おそらく不安や恐怖───を見せた後、ゆっくりと話を始めた。
「わかりました。出来る限りお教えします。国のこと‥‥‥そして、私のすべてを」