始まりの終わり
『今こそ、古より紡ぎし我等が有るべき制約。彼の名の下、今此処に解き放ち終わりを迎えることを告げん』
何が起きているかはわからなかった。
目の前に広がるのは白銀に輝く紋様。
完璧としかいえない淀みのない空間。
何を示しているかは見当もつかないが、その世界は人がそれを見るにはあまりにも神々しく、人としてそれを見るにはあまりにも眩しすぎた。
『我、心を司る。我等、世にあらず、暗にして森羅万象を司り、傍観する者也』
あまりの眩しさに目を逸らし、顔を傾けた先には腕の無い左腕。
血を流す事もなく、痛みに狂う事もなく、ただそこに有ることが許されない左腕。
『彼の者より承りし言霊、律するべき誓い、今此処に寄りし魂に交わし、その運命、共に歩む者と刻む』
幼い僕には事の凄まじさが理解出来ず、ただただ美しい光景に見とれていただけだった。
目を閉じ、ただ言葉を紡いでいく目の前の少女。 整えられた顔立ち、 だらりと下がった美しい白髪、そして、対照的な深紅の瞳は、ある種の彫刻を思わせるほど綺麗で、美しかった。
『―――――――――――』
もう声は聞こえない。
目の前の光景に心を奪われ、漠然とその世界に見入っていた。
『―――此処に、契約は完了した』
ふと、白銀の世界が崩れる。
隙間から曇天が垣間見え、先程までの光景が嘘のように、淀んだ世界が姿を現す。
目の前には泣きそうな笑顔の少女。
精一杯の笑顔はどこか儚く消えてしまいそうで。
笑顔を造った少女は消え入りそうな声で。
―――これから、よろしくお願いしますね
そうだ、僕はあの日から。
彼女に出会ってしまったあの日から。
―――――なにかが、普通とは変わってしまっていたんだ。