プロローグ 決闘双角 war of jangle
作者は無責任です。思いつきで連載を増やします。
この作品は完結すると限りません
でも頑張っちゃうよ
それでよければどうか読んでやって下さい。
お頼み申す!!
この世の法則をねじ曲げる者、其れを魔術師と呼ぶ――。
「おおおぉぉぉォォォるぅぅうううううぁぁああらぁッッ!!」
―――――――爆雷光ッッッ!!!!
大森林を物理的に震わせる程の凄まじい咆哮と共に、赤い光が木々の間で炸裂する。空から見れば緑色の絨毯が延々と続いているかのような森から、野鳥が一斉に飛び立った。しかしその無数の羽ばたきの音ですら、中央の衝撃音に及ばない。
何者かがぶつかり合った衝撃は木々をなぎ倒し、爆発のようなその衝撃によって生じた烈風が土煙となって、鬱蒼と生い茂る大森林の木々よりも高く立ち昇った。兵器の一撃と伍する俄かには信じがたい攻撃を、拳一つで生み出した怪物が軽い音を立てて着地する。
なにより驚くべきは、その生物がたった一人の人間だったことで間違いないだろう。
両頬を上げ歯をむき出した不敵な表情で、土煙に朧になった相手の姿を睨みつけているのは、いまだ発展途上の余地を残した、十台半ばより少し上といった年頃の少年だった。
鍛え上げられた高さのある体にぼろきれのような腰布だけを巻き付け、ぼさぼさの黒い髪を首の付け根辺りまで伸ばし放題にし、その間からのぞく瞳を爛々と輝かせている姿は野生児の印象そのままだ。が、いたるところに付いた泥と髪の毛に隠れた顔立ちは、実はなかなかに整っていて、気品すら秘めていた。
まあ、実際に今の彼の姿を見て、気品という単語を結び付けられる存在などは稀有もいいところだろうとは思われるが。
「グルルルルルルルゥゥウウゥゥゥオオオオオオォォォッッッ!!!!」
先ほどの咆哮を更に凌ぐ、正真正銘の獣の絶叫が地鳴りと共に響き渡った。もはやそれが本当に獣の声なのかも判別に窮する、大地を割ろうかというような空気の爆発振動。
その主は、巨獣。山のような、いや、小丘のようだと言えばすでに大きさでは比喩と言えなくなるほどの巨体と、後ろ足で立ち上がれば天を突くような凶悪な二本の角、そしてその体を爆発的なスピードで動かすのであろう強靭で莫大な筋肉を持った、獣の覇王だった。
地に伏せるような力を溜める姿勢から、天に向かって雄々しく吠え猛るその雄叫びはまさに怒りの絶叫。大怒号。戦いの火蓋を叩き切ろうという合図。そして森の王者たる山のようなその巨獣にとっては、敵の撃滅を誓う本気の闘争の宣誓だった。
とばっちりを受けたくなければ、俺と目の前の馬鹿の周囲から兎のように逃げ走れと、自然そういう警告にもなっている。その声を聴いて逃げ出さぬ獣など、この森に存在しないのだから。
ただ一人、音による体の振動を、武者震いと信じて疑わぬ少年を除いては。
「はっはー!!どうだ!!……目ぇ覚めたかよ?」
少年は闘争心が微塵も衰えてないことを証明する満面の笑みを浮かべつつ、相対する巨大な敵を睨みつけ、闘志を伝えようとしているように体の前で両手の拳をぶつける。
対して巨獣は前足を地に伏せるようにかがめ、筋肉をバネのように撓めながらその最大の武器である二本の角を獲物へと突きつけた。この態勢は勿論――――!!
恐るべき予備動作を前に、少年は腰を落とし、こちらも筋肉を撓めながら両腕を軽く、力を最も入れやすいように広げた。
なんということだろうッッッ!!
――――――正面から受け止める気だッッ!!!!
「ッッ来おぉぉォォいッッ――――!!!!!!!」
短いながらも、音量と、込められた気の量では獣王の咆哮にもけして負けない気迫で少年は敵を呼んだ。
同時に引き鉄は引き絞られ、爆音とともに撃鉄が跳ね上がる。
――――――突ッ、進!!!!!!!!
大地から発射された超巨大砲弾が、災害のような地響きを伴に一人の少年へ迫っていく。
……それはおそらく、文明に慣れた平和な人々に説明するのなら、鉄道が迫ってくるというイメージが一番わかりやすいのではないだろうか?
巨大な列車が、全力のスピードで自分に迫ってくる。
風を切り裂く音が唸りをあげながら、地響きと共に目の前に迫る。
近寄ると正面から全体もつかめないそれを、逃げずに受け止めるのだ。
そういう圧力である。
生きた心地がしないとはこのことだろう。
実際もし衝突すれば、…アー、……挽き肉、と呼んでいいのかもわからない、ところどころ果肉混じりの液体になるのではなかろうか?
かっこよくそれっぽい雰囲気で言うと、血を纏った風になる。うん。多分。
だがしかし――――、そうはならなかったのである。
巨大な戦車同士がぶつかり合ったような、心筋が無理矢理停止するような轟音が響き渡った。
落雷現場のような二頭の衝突点から、凄まじい量の赤い火花がのたうちまわるように飛び回った。四方八方に暴れまわるその赤い雷光が、まるで二頭の獣の沸騰する闘争心と苦悶を表しているように。
「んっ、――――ぎっぃぃぃぃっぃィィィィィィィィィぃぃぃぃぃィ!!!!!!!!」
砕けそうなぐらい奥歯を噛み締めたまま、なんと少年は本当に突進を両手で受け止めていた。
信じがたい。実に実に信じがたい光景だ。
とはいえ重量差と突進力は到底止めきれるものではない。
獣も自分の角に標的が触れようが気にしていない。そのまま突進を続け、森を横断するように立ち上る砂煙と共に、少年の体を彼方まで連れ去っていく。
標的の抵抗を囁かなもの、と、意にも介さず、すぐに擦り切れ消えて失せよと走り続けるその突進は、王者の自負とプライドがありありと込められている。
その絶対の攻撃を、歯を食いしばり遥かに小さな体で確かに止めようとしている少年も、玉座を倒し踏みにじるに足る恐るべき挑戦者であった。
――――――――土煙が進む先、もはやけして遠くない数百メートルほどの位置に、固い岩盤がむき出しになった断崖絶壁が見え始めた。
もし突進の勢いそのままに、巨獣に挟まれ絶壁に叩きつけられれば、いかにこの少年といえど恐らくはひとたまりもないはずだ。
野生の感覚か、本能か、見えてはいないはずの彼にもそれがわかるらしく、決死の形相で抵抗を試みる。その証拠に彼の体から迸る赤い雷光が激しさを増していた。
腕を伝わった雷光は、獣の全身までを覆い、内と外の両方からその身を焼いていた。
全身を叩きつけられる衝撃にも似た感覚に、筋肉が痙攣を始めている。
「ああああぁぁぁアアアアアアアアアアアアッッッらぁああああッッ!!!!!!!!!!!!」
「ggggウウrrrrrrrるるるるるるるるrrrアアアアアアaaaaahhhhhhhhhh!!!!!!!!!!」
双方、目を血走らせ最後に残る気力の限りを引きずり出せば、それは咆哮の形を成していた。
勝つ。それだけの意志で頭を満たした、恐怖すら混ぜ込んだスパイスに過ぎぬ純粋な世界。
その向こう、土煙が描く軌跡の果てには、あまりに堅牢で大きな現実が待ち構える。
勝利に向けて手繰り寄せる力の、余白の限りを埋め尽くすつもりなら、もはや闘争に酔う暇も有りはしないだろう。
殺るか、殺られるか。
決着の刻、迫る――――。