表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/40

再生の街

 昔、マイケル・J・フォックスが主演していた映画のタイトル。

 

 以前に原作本も読んでいた。

 地味な映画だ。コメディ要素もないし、鬱展開なことおびただしい。

 でも私は、この話が嫌いじゃない。むしろ好きな方だと思う。

 原作では、ごく普通に生きている人の気持ちが丁寧に描かれていた。私自身も、映画レンタルしたのだが初見の頃とは、かなり時間が経ってしまった。

 

 なんだか気がつかないうちに、歳ばっかり取ってしまったなあという感じ。

 このまま自分はどこに行きたいのかも定まっていない。

 行き先なんて決める必要なんか、ないのかもしれないけれど。やはり振り返ると後悔ばかりだ。少しでも他人に優しくしたくても、ほんのちょっとのことで傷ついたり悩んだり。

 

 ついさっき、NHKで「東日本大震災から一年」云々という企画番組を放送していた。

 視聴者にアンケートを取り、取材していく番組の構成だった。一人の女性の壮絶な体験の書かれた文章が映し出された。

 

「母は、私の娘が助かったのを見届けて津波に飲まれて行った。「あんたがたが助かってよかった。生きなきゃだめだよ! バンザイ! バンザイ!」と言いながら波の中に流されて行った」

 彼女の母親は自分の命と引き換えに、孫を助けて逝ってしまったのだ。

 

 この女性のお嬢さんは、ダウン症で全盲だ。まだまだ小さいお嬢さんと彼女を護るべき存在の「夫」は、震災前に撮った家族写真の中には写っていない。


 他にもたくさんのアンケート用紙に「どうして自分だけが助かってしまったのか」などと、自責の念が滲み出るような文字がテレビ画面の中にあった。


 生と死は紙一重。だけど。

 

「残された私が、亡くなった人の分まで生きる」なんて、生きてる者は考えなくていいと思う。そんな考えを持っているから辛くなる。捨てちまえ、そんなの。とさえ思う。

 いや、それを支えに生きたい人は生きればいい。だが、その言葉を他者に対してかけるのは間違いだ。

 がん患者に「がんばって」と言うのと変わりがないくらい、残酷な言葉だと私は思う。

 

 どうして自分が助かったのか、と言う問いに、こう答える人もいることを私は知っている。

「それはあなたに使命があるからよ!」

 そんな言葉を聞くたびに、私の心は冷えて固まる。そんな上っ面の微笑みなんか要らない。使命があるから、なんだってんだ。そういう人は概して「がんばれ」と軽々しく言う。ちっともわかっていないんだ。喪失感や絶望、という言葉の意味を。わからない人に合わせる必要はない。合わせなくていい。そんなことを言う人からは離れていい。

 

「言霊」という言葉が日本にはある。私は思う。生きているだけで凄いことだと。日々を普通に暮らせることが、どれだけありがたいか。当たり前のことが当たり前じゃないと気がつくために、どれだけのものを手放せばわかるのか。

 

 わかる人だけで寄り集まってもいいじゃないの。命の瀬戸際に立ったことのある者同士で固まって、難しいことを手から放して。つつましく過ごすことで十分だ。必ずそこには、暖かい陽射しがさしてくるはずだから。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ