自分勝手に婚約破棄してきた彼の最期は意外なものでした……。
「悪いな、ガーベラ、急に呼び出して」
「いえ……」
婚約者である彼ラウロスに突如呼び出されたのは、ある平凡な夏の日だった。
「今日は君に言わなくてはならないことがあるんだ」
「そうですか」
「なので言わせてもらう」
「はい、何でしょう」
暫し沈黙があり、その果てで。
「君との婚約だが破棄とすることにした」
告げられたのはそんな言葉だった。
「破棄……ですか」
「ああそうだ」
「失礼ですが、その、何か事情が?」
すると彼はふっと呆れたような笑みをこぼして。
「もっと素敵な女性に出会ったんだ」
躊躇いなくそんなことを言った。
申し訳ない、とか。
悪いことをしているな、とか。
そういった思いはどうやら彼の中には欠片ほどもないようだ。
「君より素敵な女性に出会った。だから俺は彼女と生きるよ。俺だって最善の道を歩みたい、だから、そのためにできることがあるならすべてする」
「それで婚約破棄を……ということなのですね」
「その通り。俺から見れば君なんて大したことのない女だから。俺ならもっと上質な女を選べる」
……何を言っているのだろう、この人は。
今日の彼は聞いているだけで呆れてくるような言葉ばかり並べてくる。
しかし自覚はないのだろう、恐らく。
自分が呆れられるほどに失礼なことばかり言ってしまっているなんて夢にも思っていないのだろう。
「ではな、ガーベラ。俺たち、ここまでだ。さよなら」
彼はそう別れを宣言して。
「あ、執着してくるとかはやめろよ」
さらにそんなことまで付け加えてくる。
特別なことなどない夏の中、私たちの関係は終わりを迎えた。
◆
あの後ラウロスは思わぬ展開に巻き込まれていったようだ。
というのも、豆にされてしまったのである。
ラウロスは婚約破棄後すぐに『素敵な女性』と言っていたあの女性のところへ行ったそうだ。で、想いを告げて。そこに至るまでの経緯もすべて明かしたらしい。
だが喜んではもらえず。
むしろ身勝手に婚約破棄したことを怒られて。
しかしラウロスはそれでも自身の過ちに気づけず「あんな女、くだらないからどうでもよかったんですよ!」とか「それより貴女が愛おしいです! 大好き! 好き好き大好きです!」とか「元婚約者のことはもうどうでもいいじゃないですか、あんな女!」とか自己中心的な発言ばかりを繰り返したそう。
その結果、怒った女性に豆になる魔法をかけられてしまったのだそうだ。
ラウロスは知らなかったようだが。
その女性は魔法使いだったようで。
人を豆にするくらいどうということはない、ということだったようだ。
どうして豆にすることを選んだのかはよく分からないけれど……でもそんなことはどうでもいいことだ、私には何の関係もない。
自分勝手な振る舞いを貫き続けたラウロスは、結果的に、人間として普通に生きてゆくというそんな普通の幸せすら失うこととなってしまった。
だが彼に同情する者はいないだろう。
彼がやりたい放題生きてきたことを知る者であれば、誰もが「まぁ自業自得かな」くらいにしか思わないはずだ。
◆
あの突然の婚約破棄から十年、私は今日王妃となった。
「ガーベラさま! お美しいです!」
「これからも、いつまでも、この国をお護りください! どうか! お願いいたします!」
「ああ……なんてお美しい……同性でも惚れてしまいそうですわ」
ここまでの道のりは長かった。
けれども楽しいことはたくさんあったし嬉しいことだって多くあった。
だからこの道を選んだことを悔いた日は一日もない。
「ホント良かったよね、ガーベラさまが王妃になってくださって」
「ですねですねー」
「んもぉ、嬉しすぎるぅぅぅぅ」
「ですなですなー」
「ガーベラさま神すぎる」
「いやもう女神かな」
「そうだよ間違いなく神だよほんとうに」
「ですねですねー」
現在の夫――当時は王子であった彼――その人に出会えたこと、それはこの人生において何よりも大きなことだった。
彼と出会わなければ今の私は存在しなかった。
そしてこの幸福に満ちた日々も。
この世界に生まれはしなかっただろう。
……ちなみにラウロスはというと豆のまま生涯を終えたようだ。
通りすがりのおじさんに拾われ、普通の豆だと思われて少しだけかじられ、あまり美味しくなかったため捨てられる――それが彼の最期。
ラウロスに人として生きる未来はなかった。
彼は豆になったままこの世を去った。
◆終わり◆




