第33話 荒療治
登場人物のおさらい
リア・マギュロ
主人公。エドゥ王国 マギュロ家の三男。五歳。転生者。
リック
リアの初めての側近。十二歳。マギュロ家使用人八門、八門の出。
マルス・マギュロ
エドゥ王国 マギュロ家の長男。十七歳。軍の司令官。婚約者のマリア命の狂人。
ルーク・マギュロ
エドゥ王国 マギュロ家の次男。十二歳。人より神に近い超人。
ジョージ・マギュロ
エドゥ王国 マギュロ家当主。リアの父。長男と次男のやらかしに悩んでいる。
ジーク
マギュロ家家令。使用人八門、五門の出。
「言い訳を聞こう」
旦那様が目を吊り上げて、マルス様とルーク様の前に仁王立ちしている。
証言の為に呼ばれた私は、そんな御二人を冷めた目をしながら眺め、昼間の事を思い出していた。
「兄ちゃんっすっごぉーーーい!!!」
何を言ってるんだ? と次代様を見ている中、リア様の元気な声が聞こえた。
ハッとして、急ぎリア様の下に向かう。
リア様は、若様を見ながらぴょんぴょんと飛び跳ねながら興奮状態だ。
「兄ちゃんかっこいー! チートすぎー! 凄い! 凄い!」
「リア様っ!! ご無事ですか?!」
「リックっ! 見た? 凄かったよね! 兄ちゃんがね――」
「身体の何処かが痛いとか、気分が優れないなど御座いませんか? お熱は? 手足の痺れは?」
私は、興奮するリア様の言葉を遮り、必死に体調確認をする。
リア様の額に手を当てたり、指先一つ一つを確かめたり……あの規模の魔法の感覚の共有など、幼子には害でしかなく、気が気でない。
「リック? 大丈夫だよ? どぉしたの?」
そうリア様に言われ、リア様の顔を見、目が合い私はハッとした。
心配し過ぎて不安が先行し、リア様を無視して必死になり過ぎていたのだ。
いつものリア様だ。
顔色も良く、きょとんとしており、確かにリア様が仰る通り、身体に異常は無さそう……だが、だが――だ。
「流石私の弟だな、リア。 よし、魔法を試してみよう」
いつもの間にか近付いていた次代様が、呑気にもそんな台詞を発された。
「次代様っ!! 何なのですか、これは! リア様に何かあったら私はっ……私はっ……」
余りの怒りで、私は次代様に詰め寄り叫ぶ。
一気に茹で上がった頭は痛みがあるし、防げなかった不甲斐なさと悔しさで、涙が出る。
もっと気持ちを言葉にして責め立てたいのに、何故か言葉が続かなくて、それも悔しくて息が荒んでいると、すっと私と次代様の間に誰かが割って入った。
「マルス様っ! リックの言う通りです! 何か仕出かすと思っていましたが、あんた何を考えてんですか!!」
「そうですよ! 毎度毎度人様に迷惑をかけて! リア様に何かあったらどうするんです!!」
「また若様まで巻き込んで! 五歳の坊ちゃままで!! 旦那様に報告します。罰を与えて貰わねば。よし、連行だ。皆、行くぞ!」
それは、次代様の側近の三人で、私が呆気に取られてる間に、次代様の両腕をがっしり掴み、今にも引き摺って行こうとしている。
「リック」
側近の一人、マーカスが振り返りながら声を掛けてきた。
「マルス様のやらかしを止められずすまん。とにかく今日は引き上げよう。ほら、しゃきっとして着いて来い。おい! みんな引き上げるぞ! 御者に知らせに誰か走れ!」
私は「……はい」と小さく声を吐き、少し勢いの削がれた怒りをクっと息を止めて一旦飲み込む。
すると、左手に何かが触れ、目線を向けると、不安そうな顔のリア様がいた。
「リック、悲しいの? 大丈夫?」
嗚呼、リア様にこんな姿を……涙を見せてしまった……。
「リア様、もう私は大丈夫です。心配して下さり有難うございます。ところで、さっきのお話の続きを教えて下さい」
うん! と、言うと、リア様は嬉しそうに先程の魔法の感覚の共有のお話を一生懸命して下さった。
楽しそうに、いかに若様が凄かったかを一生懸命に。
次代様が次代様の側近達に怒られ引き摺られるのはいつもの光景なので、リア様はそこには特に思うこともないようで、とにかく先程の凄さを離したくて堪らない、といった感じだ。
でも、この方はお優しい。
きっと、私を慰めようとこうして一生懸命楽しい話をしようとして下さっているのだろう。
次代様も若様も、いつもむちゃをされ、旦那様を始めとした方々に怒られているのは知ってはいたが、まさか、五歳のリア様にこうして無茶苦茶な事をされるとは思いもしなかった。
あの御二方に対しての認識を改めねば。
どんな危険――次代様と若様――からもリア様を守り抜こうと改めて誓った。
「言い訳って……言い方が酷いですね。私はリアの為を思ってしたんですよ」
不貞腐れたように次代様が答えると、旦那様が「弟を何だと思ってる?!」と怒鳴りつける。
「いいですか、父上。リアは私以上、もしかしたらルーク以上の魔力量――つまり、魔素を一度に取り込む力を持っているのかも知れないのです。その証拠に、ルークにあれ程の魔法を共有されても大丈夫だったでしょう?」
「それが危険を犯した事の言い訳になると思っているのか?」
「もう……わかっていないですね。一般的な小さな魔法程度の感覚の共有では、器の大きいリアには水面を波立たせる事も難しいってことですよ。だからこその荒療治です。大きな衝撃を与えることで、リアの器に合った感覚を感じさせれば、魔法が使えると思ったのですよ」
「仮にそれが正しいとしても……だ。何故事前に言わない? 普通はな……普通は、幼い子供に大きな魔法の感覚の共有は危険でしかないとお前だって知っていただろう?!」
「そりゃ、父上が怒るからですよ」
「わかっていてこいつはっ!! ルークもそうだ。知っているだろう?」
「リアなら大丈夫だってわかってましたから!」
「そういう問題じゃない!!!」
こうして、御二方が旦那様にこうして説教されている場は初めて見たが、マーカス達が言っていた通りのようだ。
次代様も若様も全く――反省していない。
とにかく、リア様にとって、次代様も若様も危険だと言う事がよくわかったし、この様子では、またリア様を危険に巻き込む可能性が高いのだとわかった。
進まない説教などこのまま聞くよりも、早くリア様のお側に侍りたく、家令のジークに目配せし、了解を貰い部屋を出る。
次の日、嬉しそうに「魔法使えるかもー!」と、にこにこと励まれたリア様だったが、魔法を行使することは出来なかった。
その次の日も、そのまた次の日もずっと――リア様は、魔法が使えないままだった。




