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辺境貴族家三男は最弱最強の兵器  作者: たきわ優


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第三話

 この大陸は、縦に長い。


 他にも大陸が探せばあるのかも知れないが、海の向こうへ探検に出た船が戻ってきたことは皆無であるし、陸から離れれば離れるほど、海洋生物――海の魔物が、大型化し、凶暴になる事だけは知れ渡っているので、頭の可怪しい命知らずでなければ、探そうとも思わない。

 なので、この大陸に生きる者達は、他に大陸を知らない。

 自分達の足で立つこの大陸が唯一であり、他に大陸があるとは思わない――否、思うことすらないので、存在するかどうか不確かな他の大陸と区別するような固有の呼称はなく、単に『大陸』と呼ばれている。


 そんな縦に長い大陸で、丁度その中央を大陸の南部と北部を真っ二つに横断しているのが、フジー大山脈。

 標高は高いところで九千メートル、低いところでも五千メートルほどあり、壁のように高く高く(そび)え立っている。

 標高二千メートル程までは森林が広がるが、それ以上先は人の世界と隔絶した世界が広がっている。

 標高が高くなる程、岩肌が直物を拒み、風が吹き荒れ、気温が下がり、頂き付近は、夏でも雪が降り積もる極寒の世界だ。

 だが、そんな世界でも生き物はいる。

 魔物だ。

 特に、大型のドラゴンは魔物の世界の頂点として君臨しており、伝説では、この世界が女神様に創られた時から生きているドラゴンもいると言われている。


 そんな魔物の世界とは違い、地上を生息域としているのが人間だ。

 だが、人の世界でも、フジー大山脈を挟んで、南部と北部では別世界のように様々な事柄が違ってくる。


 南部は、温暖な気候で、冬でも雪が降ることはない。

 緑生い茂る豊かな土地が広がっている。

 水源も豊富で、大きな河川に小さな川まで、特に暑い地域でも、干上がる事なく隅々まで行き渡っている。

 その豊富な水量で、南部の主食は、水田と呼ばれる水を張った畑で育てる『稲』だ。

 水と共に茹で、粥として食したり、水と共に炊き上げ、米として食したり、細かく挽いて粉にして水で練り上げ茹でたり焼いたり。国毎に様々な方法の食べ方がある。

 燦々(さんさん)と降り注ぐ陽の力強さで、健康的な肌色をしており、南に行くほど少し肌色が濃くなる。

 髪の毛は、殆どの人々が黒色もしくは焦茶色。それに合わせるように目の色も、黒色もしくは焦茶色だ。


 北部では、夏は涼しく冬は極寒となり雪が降り積もる。

 春から夏の終わりまでの短い間しか多くの作物は育たず、南部には自生しない寒さに強い種類の作物が育てられている。

 南部の主食たる稲は育たず、北部で主食となっているのは『麦』だ。

 発酵させ焼き上げパンとしたものが主で、その他には、様々な形状に練られたパスタ。特に、パスタは乾燥させ保存が効くので冬の主食は基本こちらだ。その他にも、国毎に食べ方の特色はあるが、概ねパンとパスタである。

 日照時間が少ないからだろう。北部の人々は、透き通るほど肌が白い。北になればなる程に肌が白い。

 髪の毛は、肌と同じように薄く、主な髪色は金色だ。北に行く程に白っぽい金色の髪色となる。

 目の色は、南部のように髪の毛に近いことはなく、皆一様(いちよう)に青い。

 個人により、水色だったり、濃い藍色だったり濃淡が違う程度の差だ。


 とにかく、南部と北部では別世界のように様々な事柄が違っている。


 だが、共通点もある。

 見た目の色は、南部と北部で異なるが、同じ人と言う種族であるし、何より言語が共通しているのだ。

 同じ言葉を話す、と言う事は、意思の疎通が出来る、と言う事。


 現在の南部エドゥ王国と北部ウッシ王国の紛争地帯である、大山脈の中央を、まるで真っ二つに割ったように山脈の途切れる山間の荒野。

 ここは、フジー大街道と呼ばれ、地続きで人が南部と北部を行き来できる大陸唯一の交易路だった。

 このフジー大街道を行き来し、それなりに交流は古くからあったのだが、同じ言語を介していても、互いの見た目の違いから、利を求める商人や、表情を取り繕うのが当たり前の貴族や王族以外は、積極的にあまり関わりを持つ事がなかった。

 共通した言語だけでは、意思の疎通は出来ても、心を通わせるのは無意識的に忌避(きひ)してしまうのだ。


 その根源となるのは、女神様の言い伝え。


 太古の昔、この大陸には、南部と北部を隔てるフジー大山脈はなく、人々は同じ地表で暮らしていた。

 だが、姿の色の違いから争いが絶えなく、悲しんだ女神様は、一夜の内に、フジー大山脈を築き上げ、南北を分断してしまったと言う。

 これを女神様の天罰と畏れ、争いはなくなった。

 唯一残された南北を通る道――フジー大街道は、女神様の慈悲であり訓戒だと言われている。


 そう、南部も北部も共通して、同じ女神様を信仰している。

 同じ女神様の言い伝えを信じている。

 だから、ずっと人々は、出来るだけ争わないようにお互いに表面上ではあるが気を使って生きてきた。


 だけれども、ある時期、その均衡が一気に崩れたのだ。


 南部各地で、南部の人間が、行方不明になる事件がある時期から多くなった。

 盗賊の仕業か、魔物に襲われたのか。

 捜索や魔物討伐が頻繁に行われたが、全く行方が掴めなかった。

 そうして時が経ち、事実が判明した。


 女神様の髪色は輝く黄金。

 北部の人間こそが女神様の子である。

 南部の人間は、女神様に見捨てられた存在。

 あの黒髪と黒目がその証拠であり罪の証である。


 北部の神殿が、そのような教えを広めていたと気付いた時は遅かった。

 北部の人間が、南部の人間を攫い、奴隷として酷使していたのだ。


 ちなみに、偶像崇拝は禁忌とされており、女神様の御姿を模した物は神殿にも一切ない。

 なので、女神様の髪色は不明であり、北部の人間の言う、女神様の髪色が黄金である事実はない。


 南部の人間は、奴隷として攫われた南部の人間を助けようとフジー大街道を進軍、北部へ乗り込んだ。

 多くの犠牲を払い、救い出せたのは、行方不明者の数を考えると僅かな人数ばかり。

 一進一退を繰り返しながら、いつしか主戦場は、フジー大街道へ。


 南部のフジー大街道を含む一帯を治めていたマギュロ王国が中心となり、南部連合軍が戦っていたが、その争いは激化するばかり。特にマギュロ王国は、人的にも物資や資金面でも多くの犠牲を払っていた。

 そこで、マギュロ王国は、物資や資金の補給の為に、南部の大国エドゥ王国へ下る事を決め、以降、マギュロ家は、南北戦線の最前線の都市として、三百年に渡り、南部を北部から護っている。


 現在も、海路により、フジー大山脈両端の沿岸沿い、南北どちらにもある四箇所の特区となっている地域――高い塀で囲まれた城塞都市――で、細々とした交易はあるが、互いに間者が行き交い暗躍する情報戦の主戦場となっている。

 そこで得た情報によると、北部では、奴隷となった南部の人々が、子を成し代々奴隷として売買されている事が判明している。


 奴隷となった南部の人々の解放こそ、南部全体の宿願である。




 そんな歴史背景をまだ習っていない三歳児の僕リア。

 今日は、マリア姉さんが、絨毯に平伏すマルス兄さんの頭をグリグリとハイヒールの先で踏みつけている場面から始まるいつも通りの朝食で、好物の三歳児用のコロンとした小さな握り飯に(かぶ)り付いていた。

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