第27話 見本市
「武器の見本市になってきましたな……」
「ええ、全く」
第三要塞の歩廊で戦況を見守りながらそう呟くのは、アシュカ王国の軍司令官達。
南北線戦を預かるのは、南部連合軍だ。
その中心となるのは、南北線戦の地を治めるエドゥ王国のマギュロ家だが、常に戦線で指揮を取っているわけではない。
南部の各国軍上層部が持ち回りで戦線に立っている。
今日指揮を取るのは、南部でも鉱山を多く保有する南で二番目の大国アシュカ王国の軍上層部だ。
二年前、マギュロ家の次男の一撃で瓦解した北側は、どうにか要塞を復興させ、その後は、今まで出し惜しみをしていたかのように、新しい武器を次々と投入している。
それは、主に剣の魔道具で、剣を媒介に攻撃魔法を数倍に威力を増やす物。
火や水に風。様々な攻撃魔法を添わせ、その威力が通常の数倍となる武器は当初脅威であった。
「我が国の鍛冶師達も……こうも短期的に何度も魔道具として改良され続けるとは思ってもなかったでしょうな……」
「ええ。マギュロ家の嫡男の……ですな。最早言葉も出ませんよ。鍛冶師達も最近は泣き言も言わなくなったそうでして……」
「そうであろうな……」
アシュカ王国は、鉱山を多く保有する。なので、製鉄技術も高く、優れた鍛冶師も多い。
強く鍛えられた剣は、兵士達が魔法を沿わし、魔法により強化する事で戦場で耐え得る剣となる。
ただの鉄の塊のままでは、結界の魔法で妨げられれば、逆にぼろぼろになってしまうのだ。
それだけ結界の魔法は強固である。
剣に魔力を沿わし、それを攻撃魔法と合わせて魔法を行使出来る剣の魔道具――魔法剣――は、研究をアシュカ王国でも進めていたが、優秀な者が放つ攻撃魔法と同等以上の威力が発揮できるような便利なものではなかった。
だが二年前、北の敵兵が雷を模した攻撃魔法を五倍の威力で発揮する魔法剣を使ってきた。
マギュロ家の嫡男のマルス・マギュロが、すぐに対策を練り、避雷針を用いてその脅威を抑え込んだが、それは、雷と言う特性に対してであり、それ以外の魔法攻撃となればすぐに対処しかねる状況であった。
もしも、北が魔法剣を量産してきたのなら相当な脅威である。
結界の魔法は、強固で有用。五倍の威力を持つ魔法攻撃でも耐え得る事はわかっていた。
だが、それも何度も耐え得るかと言えば、耐えれないと言える。
結界の魔法が長けた者でも、あれほどの威力を防ぐとなれば、五度程持つかどうかだ。
それ以上は、魔力が足りず、弱い結界では防ぎきれない。
この世界での近接戦は、結界の魔法を行使出来なくさせれるかどうかで勝敗が決まる。
要は、どちらが早く相手の魔力切れまで結界の魔法を使わせるか、だ。
つまり、威力の高い攻撃とは、早く結界の魔法を行使出来なくさせれる事と同義である。
北は、大要塞を復旧後、攻撃魔法を五倍以上の威力で発揮させる魔法剣を多数投入してきた。
だが、こちらも手を拱いていた訳ではない。
特に、南部でも魔法剣の研究を進めていたアシュカ王国の鍛冶師達は奮起していた。
秘匿していた研究成果を持ち寄り、一丸となって北の魔法剣に対抗できる魔法剣を作るべく。
ところが……だ。
マギュロ家の嫡男のマルス・マギュロから、アシュカ王国へ思わぬ要請が届く。
その要請に従い、要望にあった数名の鍛冶師を伴い足を運ぶと……見せられたのは、どんな攻撃魔法でも七倍の威力を発揮できる魔法剣。
「こいつはマリオだ。これだけ時間をやったのに七倍程しか威力を高められぬ愚か者だが……まぁ、しばらくはこの程度でも役に立つだろう。こいつには他にもやらせねばならぬことが多い。アシュカ王国には優秀な鍛冶師が多い。貴殿達だ。一日やるので、このマリオから魔法剣の作り方を共有して貰い、アシュカ王国で量産をして欲しい。予想では、北側が要塞を復旧し再度攻めてくるまで最低でもまだ四ヶ月はある」
マルス・マギュロの隣には、清潔感のないボサボサの長髪を無造作に縛ったやせ細った小柄な男が、にちゃぁと言う擬音が付きそうな何とも言えない笑みを浮かべていた。
その目の下には濃い隈があり、不健康そうではあるが、目だけは爛々とギラついており、そこはかとない異常さを醸し出していた。
「へへっ。実際に作って魔力を共有するんで、覚えてって下さい。へへっ。そんな難しい事じゃないんでっ」
妙にヘラヘラとして気味悪く笑いならが軽く物言うマリオは……だが、天才だった。
この世界で魔道具を作るには、魔力を込める事が出来る鉱物に魔法を込め、魔力の流れを固定させるものだ。
魔道具に魔法を記憶させる、と言った方がわかりやすいだろうか。
魔法を込めるのには、それなりに練度が必要となる。
それを鍛え抜いた者が、魔道具を作ることが出来るようになるのだ。
それからアシュカ王国の鍛冶師達は、一日かけて、マリオが魔道具に魔法を込める際の感覚を共有して貰い、覚えることになった。
一人でも覚える事が出来れば、後はその者から共有していけば、多くの鍛冶師達が同じように魔法を込める事が出来るようになるだろう。
だが、マリオは鍛冶師達の思いもよらぬ程の天才で、到底一日でその感覚を共有できるものではなかった。
複雑な魔力の流れは、数度程度では体が記憶できるものではなく、難解極まりない。
一日では誰一人として覚えれず「へへっ。一日経った。へへっ。帰りますんで」と帰ろうとするマリオにを引き止めるが、さっさと帰ろうとする。
どうやら、マルス・マギュロ以外の頼みを聞くつもりがないようで、アシュカ王国から正式な書簡を以って、どうにかこうにかマルス・マギュロを通じて、マリオを三日貸し出して貰うことを了承して貰い、どうにか一人だけ時間ギリギリに感覚を覚える事が出来たのだ。
そこから量産まではかなり時間を要したが、再びの開戦までにどうにか数を揃えることが出来、北に対抗することが出来た。
そこからは、北側の武器――主に魔法剣――が、戦端を開く毎に出し惜しみしていたものを放出するように威力が増し、その都度、マルス・マギュロに命じられマリオがそれを上回る武器を開発している。
そして、その都度、アシュカ王国の鍛冶師達が悲鳴を上げている。
こうして、南北線戦は、南北の武器の見本市のような状況が生まれていった。
ちなみに、マルスの命により、ルークが新しく作った少魔力で強固な新たな結界の魔法を兵士達は感覚を共有し練度を上げる訓練を課せられていた。
都度威力の上がる魔法攻撃に耐えるには、習得し息を吸うように扱えねば命がない。
戦線は、刻一刻と苛烈さを増していくのだった。
アシュカ王国(飛鳥時代)
ここ数日更新が遅れたので本日二話目の更新です。




