第26話 魔法
魔法の座学を三日間受け、今日は実際に魔法を習う日だ。
女神様の祝福で、自信の中の魔力を感じる事が出来れば、殆どの例外なくこの世界では魔法を行使する最初の下準備が整ったと言えるようになるらしい。
マルス兄さんとルーク兄ちゃんは特殊で、ルーク兄ちゃんは生まれて間もなく、マルス兄さんは二歳から三歳頃には魔法を使っていたのだと教えて貰った。
そんな凄い兄達の弟である僕リア。
当然、僕もこれから凄い魔法をいっぱい使う予定だ。
「リア様、奉告の儀で女神様の祝福を頂いた時に、体が温かくなる感じがしたのは覚えていらっしゃいますか?」
「うん、覚えてるよ! その後、母上にぎゅってして貰ったみたいに嬉しかったもの!」
「ふふふ。そうですね。実は、あの体が温かくなると感じたものがリア様が魔力を感じた、と言う事なのです。これから私がリア様と手をお繋ぎして、私の手からリア様の手に魔力を流します。きっと同じように温かく感じられますよ。その感覚がわかれば魔法をすぐにお使いになれるでしょう」
「凄いっ! やってやって!」
手を繋ぐと、すぐに手の先からぽかぽかとした温もりに包まれていく。
心も温かくなるようで、僕は「わぁ!」と、その居心地の良さにしばし身を委ねた。
「問題なく感じ取れたようで良かったです」
優しくにこりと笑顔を向けてくれるリックに、僕も「えへへ」満面の笑みを返す。
「さて、昨日の座学の復習にもなりますが、魔法は、魔力の流れの感覚を繰り返し共有して、その流れを体が覚えれば誰でも同じように魔法を使うことが出来るようになります。簡単な基礎的な魔法は、その魔法の流れも簡単で早く覚えることが出来ますが、複雑で難しい魔法は、一度で覚えられる感覚でないので時間が掛るものです。今日は、南部で一番最初に覚える魔法の感覚を共有して覚えていきましょう。さて、リア様。、南部で一番最初に覚える魔法は何でしたか?」
この世界の魔法は、異世界物によくあるような、呪文を唱えるとか、魔法陣が格好良く宙に浮かび上がるようなものではない。
既に魔法を使える者が、魔法を使えない者の体に魔力を通して魔法を行使して、感覚を共有して覚えさせるのだ。
なので、人伝に脈々と受け継がれる一つの魔法における感覚は、この世界共通の感覚だと言える。誰が行使しても、同じ魔法は必ず同じ感覚で行使されるのだ。
「んーっと……結界の魔法?」
「はい、正解です。流石リア様ですね」
「えへへ」
リックに褒められて照れ照れしてしまう。
「三百年以上昔は、水の魔法を覚えていたそうです。ですが、北との争いが原因で、身を守る結界の魔法を一番最初に覚えるようになったそうですよ」
「争い?」
「はい。歴史の授業をしていないのでリア様はまだご存知ありませんが、私達の住む南部側と、フジー大山脈の向こう側にある北部とは、ずっと争っているのです」
「ふーん。そうなんだ」
正直、僕は初めて聞く話であったのだが「そうなんだ」程度の感想で、僕には関係のない遠い地の出来事でしかなく、特に何も思う事はなかった。
それよりも、早く魔法が使いたくってそっちに思考は割かれている。
「結界の魔法は、自分の前面……前ですね。そこに結界を作るのが一番最初の段階になります。そこから少しずつ、自分の体の周り、範囲を広げる、結界の強度を高めるといった具合に難しくなっていきます。今日は、前面に結界を張る感覚を共有していきましょう」
「はい! 先生!」
リックが僕の背面に回り、僕が掌を突き出すと、それを包むようにリックも僕の手の甲に手を添わせる。
慣れれば、肩とかどこか体の一部に触れていれば良いそうだが、慣れないうちはこうした方が感覚の直接性と呼ばれる感覚が近くなりやすいそうだ。
「では、今から結界の魔法を行使します。感覚としては、魔力を広げて掌に薄い板を作るような感じですよ。それでは始めます」
「はい!」
リックの温かい魔力が掌に集まる感覚を覚える。
薄く掌に板が張り付いたような感覚は、リックが説明してくれた通りのものだ。
僕の前面に丸く、範囲は僕の体より小さいくらいの透明なような、少し白く色付いているような、僅かに煌めく“結界”が出現した。
「わぁ……!」
これが、魔法と言う感覚。
言葉で表現がなかなか難しいけれど、僕の中に結界の魔法の魔力の形のようなものが記録されたような感覚を覚えた。
「如何でしたか?」
「凄いっ! なんかね、えっとね……わかったって言うか、覚えたって言うか……」
言葉でわかったと説明が上手く出来ない。
この感覚をリックにどうにか伝えようと言葉を紡ぐが、五歳児の語彙が足りないのか、どう表現したら上手く言えるのか……それを出来ないことが悔しく、もどかしく……やきもきして言葉に詰まる。
「大丈夫ですよ、リア様。わかっています」
そう言って、リックは優しく言葉を掛けてくれて、僕を落ち着かせてくれた。
「それでは、忘れない内に、もう何度か同じように結界の魔法の感覚を共有してみましょう」
「うん!」
そうして十回程、結界の魔法をリックを通じて行使して貰う。
そして、とうとう一人で魔法を行使する許可を得て、僕はドキドキしながら魔力を結界の魔法にすべく、覚えたばかりの感覚を頼りに力を込めたのだ……が……。
「出来ない……」
確かに覚えた感覚で魔力を使い、魔法を行使しようとするのだが、僕は魔法を使えなかった。
リックが言うには、確かに僕の魔力は問題なく覚えた感覚の通りの流れをしているらしい。
だけれども、僕は一向に魔法を行使できない。
何日頑張っても無理で、マルス兄さんやルーク兄ちゃんなど、色々な人に手を尽くして貰ったが、結界の魔法どころか、水の魔法も火の魔法も、どんな簡単な誰しもが出来る基礎的な魔法ですら、僕はちっとも行使できなかった。
まだ五歳だからね。
これから出来るようになるよ。
――そうだろうか?
今わかっていることは……僕は魔法が使えない。
その事実だけだった。
更新遅くなってすみませんでした!!!




