第25話 報告の仕方
「で、ここまで人払いして何があったんだ?」
旦那様の問いに思わず萎縮してしまう。
嘗てマギュロ王国であった現マギュロ領の者達は、未だに自分達はマギュロ王国民と言う意識が強い。
旦那様の事はご当主様やご領主様と呼ぶべきところを、民達は他領の者がいない、自領の者達だけの時は「王様」と未だに呼ぶ。そして、いつの日か、祖国の名を取り戻したいと未だに望んでいる。
口には出さないが、私を含む使用人八門の者達もそうで、意識の根底には「旦那様」より「王」だと敬う気持ちが大きい。
なので、リア様唯一の側近と言う立場であっても、一介の使用人が人払いを願い、そして叶えられた現状に加え、座位でも体の大きい旦那様を前に、十二歳の経験も少ない子供も私は、圧倒されてしまう。
だが、リア様の為だ。
強張った体に気合を入れ直す。
「ご無理を聞いて頂き有難うございます。リア様の事で皆様に判断を仰ぎたく思いました。女神様の御意思が関わる事かもしれません」
「「!!」」
今この部屋には、旦那様と奥様、マルス様とルーク様に家令と自分しかいない。
全員が、息を呑むのを感じる。
色々と考えあぐねたが、リ様を守るためには“女神様”のお名前をお借りするのが一番だと思った。
もしこの判断が、女神様のお怒りに触れるのであれば、神罰も覚悟している。
だが、まだまだ未熟な私は、小賢しくもこの方法しか完璧にリア様を守れる方法を思い付かなかったのだ。
授業中含めリア様がお休みになるまでの間、ただの会話の一部になるように、慎重にリア様から聞き出した所、前世の記憶をぼんやり思い出すことがあるのは三歳くらいからな気がするそうだ。
つまり、先日の奉告の儀より以前。
儀式より後、あの儀式の日からであれば、確実に“女神様”に何かしらの影響を受けてと言えるのだが、実際はそうではなかった。
だが、その事実を知るのは私のみ。
この世の常識を疑うような話は、王侯貴族にとって、忌避される対象の一つだ。
ここから旦那様達に、何を話して何を話さないか次第で、リア様を守れるかが決まる。
「結論から先にご報告します。……リア様は“前世の記憶”をお持ちです」
「前世だと……」
「まぁ……」
「はい。しかも、こことは違う世界のご記憶です」
「「!!!」」
相当驚かれたのがわかる。皆様、続く言葉が出ないようだ。
「ですが、完全にその記憶を思い出している様子ではないようです。本日の魔法の授業中、リア様は、次代様が先日お話された“魔素”について、当たり前のようにご存知でした。ですが、それは、こことは異なる世界の一般的な事柄を『そう言えば』と思い出すようなもので……お伝えの仕方が難しいのですが……完全に前世の記憶を常に持ち合わせているわけではなく……前世の人格と申しましょうか……それに支配されていないと言いますか……リア様は、五歳のリア様のままなのです」
ここからは色々な質問をされるだろうと覚悟を更に固める。
「リアがその……違う世界の記憶の話をしだしたのは今日からなのか?」
「はい」
マルス様の質問に短く答える。
嘘は付いていない。
実際に、リア様がお話されたのは今日が初めてだ。
二年前の三歳頃からその記憶を薄っすらとでもお持ちだったとしても。
「兄さん、女神様の祝福で思い出したって事なのかな?」
「かもしれんな、ルーク」
お二人の会話に口を挟まず、時期についての質問をこれ以上掘り下げられませんようにと祈る。
「そのせいで光の柱が聳え、倒れたと言う事かなのか?」
「リア様のお話では、生まれ変わる『転生者』では、通常と違う優れたお力を持つ事などは良くある事なのだそうです。それに伴い、通常とは違う現象……光の柱なども良くある事なのだそうです」
「なんと……」
「そんな……」
「おお、凄いなリアは」
「ですね、兄さん!」
旦那様は驚かれはしたがどこか興奮されている様子で、奥様は何故か悲壮な御様子で言葉を漏らす。
リア様との会話を思い出す。
『んっとねー、転生者はねぇ、だいたい凄い力があってねぇ、強いの! 光が兄ちゃん達と違うのも定番だねー』
『では、リア様もお強くなりますね』
『えへへ。あ! そうしたら、土竜やっつけれるね!』
実は今朝、リア様がお育ての七の花の根を土竜に何箇所か掘り返される事件があったのだ。
リア様は、強くなったら土竜を遠くへ追い出すと息巻いていた。
強くなってどうしたいかの発想が、私から見ると無欲でささやかなもので、胸が温かくなったものだ。
きっと、旦那様は、戦力としてお力を思い浮かべているのだろう。
南北線戦の最前線を持つ領地であるし、マギュロ家は、完全な武家と見做されている。その当主としては当然なのだが、いつの日かリア様が戦線にそのお力を求められるのだと思うと胸が締め付けられてしまう。
こう言う報告をしてしまっている自分を棚に上げ、何を言っているのだと自嘲するが、貴族家の“利”であると思って頂かないとまだ幼いリア様を守り切れない。
「明日時間を作ろう。リアから話を聞かねば」
旦那様の言葉に「とうとう来たか」と思った。
「それについては、お待ち頂けないでしょうか?」
つかさず、言葉を挟む私に家令のジーク様が冷たい視線を向けてくるが、無視をして続ける。
「改めてそういった場を作り、リア様を質問攻めされますと、リア様はお話されなくなってしまう可能性があります」
「何故だ?」
「リア様はまだ五歳です。なんとなく思い出す内容を矢継ぎ早に質問されますと、焦られてしまいなかなか思うように言葉を発せなくなり、責められているようにお感じになるでしょう。そうしますと、リア様の性格上、悪い事をしているように認識されかねないのです」
「いや、責めるように質問をする気はないのだが……。それに大袈裟ではないか?」
「いえ、リア様は……」
嗚呼……、どうお伝えすれば角が立たないのだろうと頭を働かせるが、一瞬言葉に詰まる。
「あなた、リアは普通の子なのです」
奥様が助け舟を出して下さった!
キッと鋭い目線で旦那様を射抜いた奥様は、その後、数秒の無言を得て私の方に視線を向ける。
「リック。無理に聞き出さず、何かこれに関して新しい情報があれば都度報告なさい。リアの負担のないようにね」
「はっ、畏まりました」
やはり奥様はリア様の事をわかっていらっしゃる。
女神様と奥様に感謝をしつつ、いつもよりより深く頭を下げる。
「ちょっと母上。その言い方では私とルークが異物のように聞こえますが?」
「お黙りなさい、マルス。あなた達二人は、優秀で素晴らしく特別な子よ。でも、客観的に見ても、普通の子供よりあなた達は優秀すぎたのよ。リアはそうではないでしょう?」
「まぁ、私もルークも優秀なのは認めますが……」
「普通の五歳の子供。その中でもリアは繊細な子なのよ」
「そうだね、リアは繊細な所もあるよね。それに凄く可愛い! さっきの夕食でなかなか肉がナイフで切れなくて一生懸命なとこ可愛かったよね」
「ふふ、そうよ、ルーク。リアは可愛いわよね」
和やかな会話がしばらく続き、最終的に奥様の方針で話が纏った。
どうにか、奥様の助けで思った方向に進めることが出来、胸を撫で下ろす。
今後は、リア様の言動の全てに注意が必要だ。
それに、いつ来るかわからないが大神殿の報告次第で話がひっくり返る可能性も捨てきれない。
何があってもリア様を必ずお守りしなければ。
リックは、その為に出来る事をこの日から模索しだしたのだった。




