第24話 特別な存在
母上やリック達には、僕は奉告の儀で倒れたと言う認識のようで……僕は、眠くなって寝ちゃっただけなのだけれど……それから二日間も静養しなくてはならなかった。
本当は、三日だったけれど、じっとしていられなく、泣き喚き抵抗して二日間で許して貰えた。
本当なら、儀式の次の日から魔法のお勉強が始まる予定だったのにっ!!!
と、大人達の心配の要因も知らずに、僕はプンプンしながら、二日を過ごし、やっと自由を得た三日目。リックからみんなが心配する僕の要因を待ちに待った授業と言う形で知る事になる。
学習室と名付けられた壁面に本棚が並ぶその部屋は、城の探検で何度か入った事のある部屋で、そこが歴代のマギュロ家の子供達の学習の場だとは今まで全く知らなかった。
僕専用の座面の高い椅子にリックに座らせて貰い、ドキドキしながら先生となるリックが僕の正面に来るのを待つ。
今日から、魔法と文字のお勉強がとうとう始まるのだ。
「今日からリア様のお勉強を担当させて頂くリックです。どうぞ宜しくお願い致します」
「はい先生! 宜しくお願いします!」
「ご挨拶が出来て素晴らしいです、リア様。それでは、魔法のお勉強から始めましょう」
「はい先生!」
母上から、勉強を教わる間は、リックのことを「先生」と呼ぶように言われていたので、張り切って呼ぶ。
「まず、魔力についてお話しましょう」
そうして始まった説明は、つい先日、マルス兄さんとルーク兄ちゃんが、魔力の定義を根底から覆したと言う話だった。
マルス兄さんが命名した“魔素”がこの世界には溢れており、それを一度に取り込める能力の事を魔力と言うのだと、リックが言葉を噛み砕いて丁寧に説明してくれた。
「ふーん。そっかぁ。でも、定番だよねぇ」
「リア様、定番と言うのは?」
「んー? 異世界物だと、魔素とかよく出てくるから」
「いせかい……?」
完全に五歳児に意識が引っ張られている僕は、この時、いつものポヤポヤぬるま湯五歳児脳でしかなく、偶にふんわり思い出す前世の記憶と今世の――現実の境目を何の注視もしていなかった。
「うん。前世では、よくある設定だったもん」
「……リア様は……前世の記憶をお持ちなのですか?」
「うん、そうだよー。でも、こことは違う世界だよ! それより、兄さんも兄ちゃんも凄いね! 僕も兄さんや兄ちゃんみたいに凄い人になれるかなぁ? 先生、お話進めて!」
「……そう、ですね……。その魔力の量についてですが――」
そこからは、驚くような話だった。
どうやら、僕の魔力量は、兄さんや兄ちゃんみたいに凄いのかも知れない。
しかも、通常は体を中心に放射状に広がる魔力が、柱となって天へ伸びたのだとか。
「すごーい! それって、僕チートってことかなぁ? 凄いっ! 凄いっ!」
「……リア様、ちーととは?」
「んー? 普通より凄いって事だよ! 転生だとよくある設定なのー」
「……てんせい……。そう、ですか」
「うん!」
僕の頭の中は、兄さんや兄ちゃんみたいに格好良くなれるかもと、将来の自分を思い描うのに夢中で、とにかくご機嫌だった。
なので、自分の為出かした言動を全く気付くことなくリックの表情にも気付かなかった。
授業一日目を無事に終え、興奮しながら今日の成果を奥様に報告されたリア様は、今お昼寝をされている。
そのあどけない寝顔を見ながらリックは一人思い悩んでいた。
――リア様は本当に特別な存在だった……。
今日の魔法の授業で、リア様の言葉の節々に出てきた信じられない言葉の数々。
どう受け止めるべきなのだろうか……。
「前世」「異世界」「転生」それに、聞いたこともないような「ちーと」と言う言葉など。
リア様は、こことは別の世界で生きていた記憶をお持ちのようだ。
子供特有の妄想や言葉遊びにしては、淀みなく……会話にリア様自身が何か違和感を感じている様子もなく……何度考え、授業中の様子を思い出しても、それが事実だとしか思えなかった。
それに、話の内容から、リア様の前世……こことは違う世界では、“魔素”の概念は誰でも知っている事だったようで、特段それ自体にリア様が驚いた様子はなかった。
それよりも、次代様や若様が凄いとか、リア様自身も次代様や若様のようになりたいと、末っ子が兄に憧れる普通の子供の反応で、ご自身の言動がどれほど違和感を持ったものなのかを認識されていなかった。
特に何も考えず言葉に出てしまったのだろう。
いつからリア様は、ご自身がこことは別の世界で生きた記憶をお持ちだったのだろう?
転生と言う事は、お生まれになった頃から?
いや、今まで今日のような言動は一切見受けられなかった。
とすれば……もしかして、儀式の女神様の祝福が影響して思い出されたのか……?
旦那様にすぐに報告すべきなのだろうか……?
こんなとんでもない話、旦那様は信じて下さるだろうか?
こういう時、根掘り葉掘り聞き出そうと問い詰めようとすると、リア様は固まってうまく話せなくなる事がよくある。
リア様も五歳となられて、よく話されるようにはなったが、一つ質問をして一つの返答といった具合でゆっくり会話をしなければ、途端に混乱されてしまうのだ。
それにより、リア様が萎縮され、言葉が出ないことで、妄想だと片付けられてしまう可能性はないだろうか? リア様が嘘つきなどと思われてしまわないだろうか?
皆様方、リア様をとても愛していらっしゃる。
だけれども、そういった可能性が全く無いと言えるだろうか?
リア様の事を考えれば考えるほど、どうすべきか判断が下せない。
リア様は固まってうまく話せなくなる事がある事を、奥様はよくご理解されていらっしゃるが、旦那様はその辺りの見極めが苦手な方だ。
と言うか……次代様と若様が子供らしからぬ方々だったので、子供との接し方の基準が時々ズレてしまわれるのだ。
リア様の側近が私の明確な立場なので、私の主はリア様。
まだリア様が幼い為、こういった重大な報告は、命令系統的に正しくは、直接旦那様にすべきである。
だが、報告をすれば、一大事とばかりに旦那様がリア様を問い詰めてしまわれそうで躊躇してしまう。
全ては、私の報告の仕方次第なのだろう。
悩んだ末、ご家族全員に集まって頂き、一度に報告を上げることにした。
何かあっても、奥様ならリア様を一番にお考え下さるはずだ。
リックは、幸せそうに眠る小さい主の寝顔を見ながら、どのように報告すれば信じて頂けるかをひたすら考えるのだった。




