第23話 異常
「リアが異常だと?! どういう事だ?」
私もマルス様の言葉に旦那様同様に困惑する。
リア様が異常とはどういう事なのだろう?
「順を追って説明しましょう。まず、魔力量についてですが……父上、魔力量とはどう言う物と言う認識ですか?」
「ん? 自分の体にある魔力の量だろう?」
私も旦那様と同じ認識だ。次代様は何を確認されているのだろうか?
「でしょうね。特に普段の生活でも支障がなかったので指摘しませんでしたが、そもそも魔力量とは、父上が認識している物とは実際認識が異なります」
「は? どういう事だ?」
「この世界には、空気と同じく魔力となる原料と言うか、素……便宜的に“魔素”と名付けましょうか。魔素が空気のように溢れています。な、ルーク」
「うん! 見ればわかるよね」
「だな」
「は?! 見ればわかる?! ちょっと待て。魔力の常識が覆るような話なのだが……」
私も、他の者も目を丸くする。
「感覚を上げれば見えますよ。普通に。まぁ、話が進まないのでそれは後で説明します。で、魔力量ですが、魔素を一度に取り込める能力の値……取り込める魔素の限界値の事です。女神様の祝福で、女神様がそれを一般人でも目視出来るように可視化して下さっている感じです。体内で魔力を生成するわけではありません」
「なんと……」
「まぁ、一般人とは違いマリアの未来の夫となる特別な私と、自慢の弟は自力で見れますが」
「一般人……。馬鹿な一言を付けねば褒め称えたものを……」
「息子を馬鹿とは何ですか?!」
「ああ、煩いっ! 先に話を進めろ」
あまりに常識を覆される話に、お二人への畏怖と言い知れぬ興奮で知らずに鼓動が早くなり、頬が高揚するのを遅れて感じた。
「ふんっ。わかりましたよ、進めます。空間中にある魔素は一度体に取り込まれ魔力となり、それを体外に放出したものが魔法となります。息を吸って吐くみたいなものです。女神様の祝福で、取り込んだ魔力がそのまま体外に放出される様を可視化したわけですから、自分を中心として全方向にある程度一定に放出されます。つまり、自分を中心に球状に魔力が広がります。ですが、リアは違った。長い時を掛けて鍛錬すれば、魔法としてではなく、意識的に体外に放出される魔力の方向性を変えることは可能でしょうが、魔法もまだ使えないリアが意識的にそうしたとは考え難いですし、女神様が意図的にそうされたと考えるのが自然でしょう。普通は、球状となる物が柱のような形状。通常は有り得ません。ですから――リアは異常です」
「「……」」
うんうんと頷いているルーク様以外は、全員絶句だ。
次代様が仰った「異常」と言う言葉になんとも言えない気持ちになる。
私のお仕えし敬愛するリア様は、至って普通の五歳のお子様のはずなのだ。
ご長男であるマルス様は、幼少の頃から天才だった。だが、キュジラ家のご令嬢であるマリ様に出会われてからご乱心が激しい。
御婚約前、次代様の付き纏いに激怒されたマリア様が、お持ちになっていた扇子で次代様を払い除けられた時に、扇子の先端が当たり、マルス様の手の甲に擦り傷が出来たそうだ。
マリア様は、青くなりかなり動揺されたようだが、次代様は事もあろうに泣いて喜んだそうだ。「嗚呼っ! マリアの私への愛の印だ!」と。その後、魔法で治癒させようとしたが断固拒否。だが、自然治癒で傷跡すら無くなり綺麗に治ると……次代様は我々の予想を超えた行動を起こされる……。
寧ろ、もっと消えない傷を! マリア様の次代様への愛の印をご自身の体に刻みたい! と言い出された。そうして取られた行動が……短剣をマリア様に渡して「私を刺して欲しい」と猛然と迫ると言う常軌を逸した行為……。まだ修行中だった私も聞いた時は耳を疑った。
どう考えても、次代様は普通じゃない……。
ご次男のルーク様は、人を超えた神に近い存在だと感じている。
若様と私は同い年だが、生まれた瞬間から、人の常識をいくつも翻し、最早同い年だからと比べるのも烏滸がましい。
今や伝説となっている齢八歳での中型ドラゴンの討伐。
マギュロ領に隣接する西の特区があるコフーン王国との国境沿い。長雨が明け、フジー大山脈沿いの辺境の村で災害報告が上がった。フジー大山脈から巨大な岩が数座転がり落ちて来たらしく、畑と牧場に甚大な被害があったと。
旦那様は、次代様と若様を連れ、すぐに視察に向かわれた。
現場は、巨大な岩だけでなく、大中の岩や一部土砂も一面に撒き散らされており、被害は想定より大きく皆様かなり心を傷められたそうだ。
ただでさえフジー大山脈沿いは、魔物の被害も多い上に今回の災害。復興の予算について思案に暮れる。
その時、遥か上空で、中型のドラゴンの群れがフジー大山脈の中腹で飛び交っていた。
これは、良く見られる光景で、余程のことがない限り、ドラゴンは地上へは降りてこない。大山脈中腹以上の領域は魔物が多く生息しているので、態々地上で餌を探さずとも腹を満たすことが出来るからだ。
それを見た次代様は「父上、ドラゴンの素材って高く売れますよね?」と旦那様に聞き「ああ、希少な素材だからな」と、旦那様がお答えになった瞬間「やれ、ルーク」と一言。「うん!」と返事をした若様は、誰も見たことのないような威力の魔法を放たれた。
誰もが呆気に取られる中、落下してくる中型ドラゴン。
地響きと砂煙に巻かれ、しばらくして視界が戻ったその先には、絶命したドラゴン。中型と言っても、その大きさは、長さだけで馬車三台分程。
若様は「これで復興資金どうにかなるね!」と次代様と共にニコニコされていたそうだ。
そもそも通常は、遠距離攻撃魔法でも、そんな離れた距離では、魔法が離散してしまい届くことはない。
神業と言うか……その人間離れした偉業に、当時の私はこれについても耳を疑った。
どう考えても、若様も普通じゃない……。
それに比べ、リア様は本当に普通の平均的な子供らしい御方。
そのリア様の事を、次代様は「異常」だと言う。
毎日、七の花の様子を朝一番に確認され、笑顔が眩しく真っ直ぐで素直でお優しいリア様。
ここまで聞いたお話だと、きっとリア様は、膨大な魔素の限界値をお持ちなのだろう。
女神様は何を持って、リア様に祝福をこのような形でお与えになったのか……。
リア様のこれからの未来に何が待っているのかはわからない。
だけれども、一番近くで、リア様をお支え続けることは変わらない。
決意を新たにし、どんな些細な事も見逃すまいまいと、旦那様に断りを入れ、私はリア様の寝室に急ぐのだった。




