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戦線貴族家三男は最弱最強の兵器 ー 兄二人が可怪しいです!助けて! ー  作者: たきわ優


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第20話 奴隷

「女神…さ……ま」


 嗚呼、なんてことだ。女神様が僕達を救おうと地上に舞い降りて下さった。

 嗚呼、なんてことだ。女神様の御髪は黒いではないか。


 そんな事を夢現(ゆめうつつ)に、思わず手を組み頭を垂れようとする僕に、女神様の美声が軽やかに耳を伝う。


「あはは。何それ。俺は、女神様じゃないし、男だし、人間だし」


 え?! と思い、顔を上げると、見惚れるほどの美貌のその人は言う。


「俺はルーク。兄さんの命で来た。この魔法使えるの俺しかいなくてさ。文字は読める? 読めるのか、よかった! はいこれ。今読んで。読み終わったら持って帰れって言われてるんだ。その間に魔法を掛けるね。大丈夫! 痛くないしすぐ済むからね」


 月明かりの元で読むその手紙の冒頭の一節は、僕の心を喜びに震わすものだった。

『必ず全ての同胞を解放する』と。








「マルコお兄様……。そろそろこの前、私に書かせた手紙の意味を教えてくださっても良いのではなくて? ここ最近ずっと、何かを期待した様子のマルスが鬱陶しいくらい機嫌を伺ってくるのよ」


 不機嫌に目を細め、怪訝な視線を兄である私に注ぐのは、妹のマリア・キュジラ。


「あはは。そうだろうね。でも、ごめんよ、マリア。軍の機密に関わるから詳細は話せない。そうだな、マリアの手紙のお陰で、マルス君が期待以上の働きをしてくれたとだけ言っておこう。それと、何をマルス君が期待しているかは手に取るようにわかるよ。褒めてほしいのさ。大きな手柄を立てたからね」


「そうですか……。機密ならば仕方のないこと。これ以上は聞きません。手柄ですか……。どうせ、これも私の役割でしょう。褒めておきます。それにしても、お兄様は妹使いが荒いことっ」

「ははは。そう言わないでおくれよ。これでも、マリアには感謝しているのだから」

「まぁ! 感謝ですって? 毎回私を餌にしているくせに」

「ごめんって、マリア。ほら、機嫌を直して」


 拗ねた妹の頭をこれでもかと優しく撫でると、そっぽを向く割に、嫌がることなく撫でられてくれる。

 主に、いや、殆どマリアの婚約者のマルス君のせいなのだが……、気の強い……気の強くなってしまった妹は、人に素直に甘えられなくなっていた。

 だから、こうしてたまに軽口を交えて、昔のように頭を撫でると、そっぽを向きつつも、少し耳を赤くして嬉しそうにしてくれるのだ。


 妹のマリアは、とんでもない男に惚れられてしまった。

 婚約するまでも、婚約後も……色々とやらかすマルス君には、我が家も相当振り回されたが、狂人以上に、類稀(たぐいまれ)なる鬼才とも言えるその頭脳は、認めざる得ない才能で、とんでもなく優秀な青年だ。

 それに、マルス君の弟であるルーク君は、神が遣わせた時代を変えるだろう超人。

 長い歴史の中でも、ここまで稀有(けう)な存在が、同じ時代に、それも兄弟として現れたのだ。


 ――女神様の御意思だとしか思えない。


 そう考えるのは、私、マルコ・キュジラだけではない。

 特に、軍関係者の誰しもが、この三百年間膠着した北との関係を変え、宿願である囚われの同胞を救う救世主と成り得ると考えている。


 今回の一計は、驚くほどの成果を上げた。


 マリアに、マルス君宛の手紙を書かせた。

『お兄様が、最近お仕事で悩んでおられるようで、あまり眠れていないみたい。心配だわ』

 いつも、マルス君を要塞に留め置くために手紙を書かせているが、その中に紛れ込ませた一文。

 見事に、その日の深夜――マリアの事になるとこちらの都合は考えないマルス君は、要塞内の自室で寝入っている私を何の遠慮もなく起こし『お義兄さん、何か悩みがおありでは? ありますよね? ですよね? ええ、お任せ下さい! すぐに未来のあなたの義弟になるこの私が解決してみせましょう』と、声高々に、ギラつく目を爛々とさせ、私に迫ってきた。

 少しの恐怖と、あまりのチョロさに若干呆れながら、特区での話を、私の()()として聞かせたのだ。

 これが解決または何かしらの情報を得ることが出来れば、私も助かるし、マリアもマルス君に感謝するだろうね……と何気なく呟きながら。


『お義兄さん、メッダカ殿に、一人分で構いません。私の手の者が特区に入る許可証をすぐに発行するように依頼して下さい』


 数秒思案したマルス君は、そう言って、いつも側に置いている側近のマーク君を伴いスタスタと挨拶もなく部屋から出て行った。

 普通なら、無作法なその態度も、いつもマリア()を使って上手く利用している若干の罪悪感で気になることはない。


 そんな狂人気味のマルス君を頭から信用しても大丈夫なのか? と、散々目上から茶々が入るが、私は確信している。

 これ以上の策はないのだと。

 そして、講じた一計は、見事に成果を上げた。


『お義兄さん、悩みは解決しましたよ。こちらへお越しください』


 またまた深夜に無遠慮にやって来たマルス君は、まだ眠気の残る私を起こし、第一要塞へ私を案内した。

 最前線を護る第三要塞とは違い、第一要塞は、軍の各部門の部署が集まる情報の集約施設の役割を担っている。

 長い年月の間に、増築され続けた第一要塞は、要塞の中でも群を抜いて大きく、部屋数も圧倒的に多い。私も長い事、軍に身を置くが、未だに案内がないと迷ってしまう程だ。

 増築されたばかりの新しい区画の一室に案内された私は、入った瞬間に驚愕した。


『は?! これは、どうなっているんだ? これは……ルーク君…だよな……』


 そこには、壁一面にルーク君の顔が拡大されたかのように大きく映し出され、誰かと会話をしている様が流れていた。


『ええ、ルークです。今、ちょうど仰っていた側付きでやって来た例の北の同胞の部屋に潜入しています。その様子が、今映っているこれですね。映像と音声を、急遽作らせた魔道具でここに繋げているのですよ。使用者の魔力で稼働するので、この北の同胞が死なない限り稼働します。ちなみに、省魔力設計です。魔力不足になることはないので安全です。それに、殆どの者が気付いていませんが、特殊な方法で魔力を定義付ければ、二つの魔力は同じふるまいをします。わかりやすく言うと、共鳴のような。まぁ、ちょっと専門的なことなので説明は省きますが、それを利用すれば、距離は問題ではなくなります。つまり、大山脈の向こう側、北の最果てだろうが、この魔道具を介して時間差なく情報を映し出すことが出来るのです。ふふふ。ですから、彼には、我々の目と耳になって頂きまましょう。これで、向こうの情報はこちらに筒抜けですね。どうです? これでお悩みは解決でしょう? お義兄さん。未来の義弟はお役に立つでしょう? マリアもこれで私の事を更に好きになりますよね? ですよね? ね? お義兄さん』


 正直、意味がわからなかった。

 近距離で、音声を届ける魔道具は、軍で実用化されてはいるが……映像までもを、ここから相当な距離の有るメージ王国の特区から届けるとは……。しかも、特区から北へ帰って以降も情報を時間差なくだと……。本当にわけがわからない……。


『す……凄いな……。ああ、解決し……って、ちょっと待て。魔道具は……角度から見て、首飾りのような物か?』

『ええ、その通りです』

『どの程度の大きさかわからないが、首飾りだとすぐにバレるのではないか?』

『ご安心を。そのためのルークですよ。魔道具を不可視化する魔法を作らせましてね。ただ、対象者が装着してから不可視化の魔法を掛けないといけないのと、今の所、ルークにしか使えないみたいで……その為に、面倒ですが、父上の目を掻い潜り、どうにかルークを向かわせました。まだ父上にはバレてないので大丈夫でしょう』

『そ……そうか……。それより、こんな短時間でよくこんな魔道具を開発できたな』

『ええ。マリオに五日も時間をやったのです。当然でしょう。まぁ、不可視化までは魔道具では出来ませんでしたが……ルークがいますしね。不可視化程度再現できないとは呆れちゃいますよね。次はないと言ってあるので、マリオも反省するでしょう』

『……』


 (い……五日……。呆れちゃいますよねって何?! いやいや、反省なんてとんでもない! 報奨モノでしょこれ……)


 マリオ君とは、マーク君同様に、マルス君にただならぬ忠誠を誓う技術者の名だ。

 マギュロ家の当主のジョージ殿から以前聞いたのだが、ある日、マルス君がマリオ君を拾ってきたらしい……。

 ちなみに、何でマリオ君がマルス君に忠誠を誓っているかは不明。

 マリオ君も、とんでもなく優秀な技術者で、魔道具から兵器まで、マルス君の命で、ここ数年で時代を変えるような発明を次々としている。

 その殆どが、元を辿れば、マルス君が一日も遅れる事なくマリアに会えるように南北線戦の戦況を意図的に操作するための物だ。

 あの二年前の北の大敗以降、北は、様々な最新の兵器や武器を投入し、こちらを攻撃してくる。だが、それを更に上回る勢いで、マルス君が、対抗する最新鋭の魔道具や兵器をマリオ君に発明させて即時投入している。

 それで敵が引けば良し。引かない場合は、ジョージ殿(父親)の目を掻い潜って、ルーク君()を投入し撤退させる。


 今回は、たった五日でとんでもない魔道具をマリオ君に作らせ……弟に不可視化の魔法を作らせた、と……。

 もうわけがわからない……。

 私は、眉間を少し揉み、気合を入れ直した。


『流石、未来の義弟だね。私は今からここで監視体制を整える。それが終わり、良い成果が得られたら、マリアにマルス君に助けられたと伝えよう』

『有難うございます! お義兄さん!』


 改めて、自分の妹の価値の高さに戦慄しつつ、その日から寝る間もなく監視体制の構築や、各国との連携を進め、マギュロ家の当主ジョージ殿へ、未成年のルーク君を巻き込んだ謝罪にと、奔走したのだった。

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