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戦線貴族家三男は最弱最強の兵器 ー 兄二人が可怪しいです!助けて! ー  作者: たきわ優


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第18話 奴隷

 物心付いた時には、自分が“奴隷”である事を生活の節々から嫌でも理解せざる得なかった。


 父は、僕達を()()()()()お貴族様の糞尿係。

 母は、僕達が飼われている奴隷の住む隔離場での家事仕事をしていた。奴隷でも()()()()()()衣食住は必要だからだ。

 兄弟はいない。

 だから、同じ年頃の子供達と共に、将来、いや……将来()奴隷として飼われるために育てられていた。

 将来は、父と同じ糞尿係になるのだろうと漠然と思っていた。


 糞尿係とは、お貴族様が排泄をされた後に、その糞尿の処理や排泄の世話をする係だ。特に、外出で近くに便所がない場合は、排泄用の足のない馬のような形で、背の部分に穴の空いた陶器――出門(しゅつもん)便器と言う大層な名の便器を荷として積み移動する。

 お貴族様は、それに跨り排泄を行う。

 排泄後は、少し湿らせた布で奴隷が丁寧にお貴族様の尻を拭き、糞尿で汚れた出門便器を丁寧に洗浄……と言っても、水があれば水で洗い流すが、そうでない場合は、古布(ふるぎれ)で拭うのだ。

 不潔で、匂いも染み付く不浄な仕事であり、奴隷らしい仕事とも言える。


 だが、そんな僕達奴隷にも、お貴族様に隠し、代々忘れずに受け継いだ誇りがある。

 南に我ら奴隷……いや、南の民が住まう安住の地があり、我々は奴隷ではなく、歴とした南の民だ、と言うものだ。


 そもそも、我らの先祖は、女神様の教えを改ざんした北の不信心共に攫われた南の民。

 南の地に住まう同胞達は、先祖を救うべく進軍してくれたそうだ。

 だが、全てを救うことは叶わず、取り残された者達が、我らの先祖なのだ。


 もう何世代にも渡り、南とは隔離され、それだけ時が経てば、南の同胞達は、我らを忘れ、諦めたのかも知れないと思うが、そうではないことを我々は知っている。

 各地のお貴族様に飼われている奴隷達は、番わされ、数を増やしたが、全く繋がりがないわけではない。

 父のような糞尿係など、お貴族様に付いて、各地を移動する者も多いのだ。


 例えば、お貴族様が、王都に夜会や会議などの用事で集まることがある。

 そうすると、各地のお貴族様は、各家で飼っている糞尿係などの奴隷を数人同行させることになる。

 そうした奴隷達は、各地に用意された隔離場で寝泊まりをする。

 隔離場とは、北の各地に用意されている馬よりも粗末な掘っ立て小屋のような名ばかりの施設だ。

 この隔離場で、各地に散る奴隷となっている同胞同士で様々な情報交換が行われるのだ。

 そこで、我々が南の地にいる同胞から、三百年も経つのに、忘れられず、未だに我らの解放の為に体を張って戦っている事が伝えられているのだ。戦場となっている要塞で働くお貴族様に同行する奴隷は多い。

 その事実は、我らの誇りと希望を代々受け継ぐには十分で、歯を食いしばり生きていく糧となっていた。


 十歳になりしばらくした時の事、僕の同い年の幼馴染が、三ヶ月も隔離場から一人離され、お貴族様のお屋敷へ連れて行かれた。

 幼馴染は、特殊な事情があり、隔離場でも少し忌避(きひ)された存在だった。

 まだ子供であったし、表立って忌避された訳では無いが、その特殊な事情から、本能と言うか……言葉には出さずとも、隠しきれない態度がどうしても皆から出てしまっていたのだろう。

 だが、幼馴染の母親と僕の母親が元々姉妹のように育った事もあり、兄弟のいない僕は、幼馴染を双子の兄弟のように思っていた。

 その特殊な事情から、控えめで口数の少ない幼馴染は、僕だけを慕ってくれていたし、頼られる事も嬉しく、元々の僕の気質的に、世話好きであった為、僕等は常に二人で幼少期を過ごしてきた。

 だから、ある日突然、お貴族様に連れられ三ヶ月もの間会えなかった幼馴染が、元気な姿で隔離場へ戻ってきた時は、僕は自分の事以上に喜び、無事な姿に涙を流したのだ。


「アイク! 本当に良かった! 無事でいてくれて僕はっ……僕は……」


 声を詰まらせ安心から泣き出した僕を、アイクはギュッと抱きしめる。

 久しぶりの幼馴染の温かい体温を感じて少し落ち着くが、今まで嗅いだことのないような柔らかで甘い香りをアイクに感じ、僕は少しの戸惑いを覚えた。


「心配をかけたよね。僕は無事だよ、イーサン」


 涙を拭いながらアイクを良く見れば、痩けて薄汚れていた肌は、ふっくらと一皮剥けたように明るくなっていた。それに、着ている衣服も、僕等が支給されている物と形は同じ物だが、新品なのか、汚れ一つない清潔なものだった。


「イーサン、僕はね、使命を与えられたんだ」


 間近で見るアイクは、今までの自信なさげな表情は一切なく、とても自信と活力に溢れた明るい表情をしていた。


「もう僕等の不遇の時代は変わるんだ」

「え?」


 いきなり、柄でもないことを笑顔で語るアイクに戸惑い、僕はただただ戸惑う。


「僕等の主、ムカディエ家のルキウス様の崇高なお考えをみんなに伝えなきゃ」


 主……? 何をアイクは言ってるんだ?


「ルキウス様はね、僕等を奴隷なんて思っていらっしゃらないんだよ。僕等に“人権”を与えて下さる。()()()()()()()僕等に()()を下さるんだ。三百年も助けに来れなかった南の()()の事はもう忘れるべきなんだ。だって、三百年だよ? それだけの間、北に踏み入れることも出来ずにいる。所詮、その程度の力しかないんだよ。そんな奴らを信じてまた何百年も待ち続けるの? それよりも、優秀なルキウス様達、()()()が、南を攻め滅ぼすことの方が先だろうね。 だから、僕等は、北に住まう一つの種族として……尊い()()()に仕える唯一の種族として、お認め頂けるように尽力しなくてはならないんだよ」


 何の邪気もない笑顔で語る幼馴染。


「だからね、イーサン。君をこの崇高な使命を与えられた()()()の補佐に任命するよ」


 そう言い微笑むアイクは、僕達と同じ黒髪に、僕達と違う()()()を輝かせていた。

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