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戦線貴族家三男は最弱最強の兵器 ー 兄二人が可怪しいです!助けて! ー  作者: たきわ優


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第15話 ルキウス・ムカディエ

 突如現れた、たった一人の黒い蛮族に大敗を期したウッシ王国の王城の長い廊下を大人数の部下を引き連れ歩く男がいた。

 縁が丸い眼鏡を掛けた男だ。年齢は、まだ成人したばかりに見える。

 薄い金髪を丁寧に撫で付けており、几帳面さが伺え、筋の通った細い鼻筋と薄い唇が彼の印象を堅いものにしていた。


(無能共めっ! 我ら“黄金人”の歴史に黒い汚点を残すなど許されるわけないだろう!)


 黄金人とは、北部の人間が自分達を指す時に使う言葉だ。

 女神様と同じ黄金の色の髪を持つ自分達に相応しい呼称であり、穢れた黒い蛮族と比較できる映えある呼称でもある。


 ルキウス・ムカディエは、先程までウッシ王国の軍幹部から今回の大敗の顛末の報告を受けていた。

 ネッコ王国でも高い地位のある貴族家の次男であり、子供の頃から神童と言われたそのずば抜けた頭脳を以って、ネッコ王国軍の要職に就いている。

 その仕事の一つが、黒い蛮族との国境であるフジー大街道の南北線戦の監督である。


 前回と大敗を期した今回、蛮族の司令官がかなり若い青年に変わったらしいと報告を受けていた。

 それまでは、一度戦線が開けば三ヶ月はかかるが、その蛮族の司令官に変わる前から、蛮族の動きが変わり、一月経たずに戦端を閉じなければならない状況に陥られてた。

 状況を鑑みると、その若い蛮族の司令官が関わっているのだろう。

 相当に頭の切れる軍師の可能性があるが、あの蛮族に自分以上の頭脳を持つ者がいる可能性に腹が立ち、警戒はしていたが、対策を進んで取らずにいた。

 それに、今回は新たな一手を投じさせていたから油断していたのだ。


(褒美の魔法剣を与えたにも関わらず、活かす事も出来ず……更には折られただとっ……!)


 若干十五歳の若き英雄ラファエル・ヘービ。

 ネッコ王国の血を引くウッシ王国の王女を救った褒美として授けた魔法剣。

 ウッシ王国の下位の貴族家の長男だが、その功績と、その威力が唯一の雷の攻撃魔法に期待して授けるように進言した。

 ネッコ王国では、もっと魔力を増幅させる魔法剣の開発に成功しており、今回授けた五倍に増幅させる魔法剣は、二年前に開発に成功した試作品をそれなりの装飾を施し整えたものだ。

 最新の魔法剣をいくら功績があるとは言え、ウッシ王国の下位の貴族如きに与える事はない。型落ちの魔法剣で十分であり、黒い蛮族共など、五倍の増幅で屈服させられると思っていたのだ。


 ――だが、結果はどうだ。


 今まで見たことのないような防御魔法の障壁のような物が設置され初撃で防がれた。

 次の日には、金属の棒のような魔道具で、ラファエル・ヘービの全ての攻撃を無効化されたと言う。


(細かく問い詰めれば、事前に届いた報告書より状況が悪いじゃないかっ! 無能共め、まともに報告も出来ないとはっ……)


 ルキウス・ムカディエ宛に上がってきたウッシ王国軍からの報告書には、被害状況だけは正確なものであったが、戦況の詳細については、失態を隠すかの如く、省かれた事柄が多くあった。

 この要職に着いた当初から、間者を数名忍ばせていたので、ウッシ王国への道中である程度は詳細も把握していた。

 だが、ここまでだとは聞いていない。


 魔法剣を素手で折られた可能性が高い……だと?

 しかも、要塞を倒壊させた一撃を放った黒い蛮族が、声変わりも終えていない少年の可能性……?

 それに、ラファエル・ヘービの雷の攻撃魔法を模倣した……更に、増幅の魔法剣を使うこともなく放った一撃だった……と。


 忍ばせていた間者の中には、今回の死傷者もいる。

 被害を免れ、戦況を見守っていた間者も、砂煙の中で遠目での確認しか叶わず、三分にも満たない間の出来事でここまでの詳細は把握出来ていなかった。

 なので、しつこく問い詰め、明らかとなった詳細に……報告すらまともに出来ない軍幹部(無能)に憤慨した。


「ムカディエ様、こちらのお部屋に御座います」

「ああ。茶を用意したらしばらく下がってくれ。一人で考えを纏めたい」


 案内された豪華な客間で、長椅子に腰を下ろし、小さく為息を吐く。


(冷静にならねば……)


 ここで憤慨し、状況をどうにかしようと、細かく作戦を立案し、深く関わりすぎると、監督の立場ではなく、もっと責任の伴う現場の責任者にされ兼ねない……。

 若くして、ネッコ王国軍の要職に着いたルキウスには、敵も多い。

 駒を……特に敵対派閥の駒を上手く利用せねば……。

 それより、考えなければならないことがある。


 ――何故、蛮族共はこれに乗じて攻め込んで来ない?


 人的にも、要塞の多大な被害的にも、ここで攻め込めば蛮族共の南への侵攻はかなり高い確立で叶ったはずだ。

 何故攻め込まなかったのか何度考えてもわからない。


 ――何故、蛮族の少年は、一撃だけだったのか?


 先程、一撃を放った少年が「一撃だけって約束なんだ」と言い去って行ったのだと報告を受けた。

 誰との約束なのか? 何故一撃だけだったのか?

 もしも、二撃、三撃と同じ攻撃を受けていたら、壊滅していても可怪しくはないのだ。

 だが、約束だからと一撃に留め、あまりに呆気なく去ったと言う。


 先程とは違う大きく深い溜息を長く吐き、ルキウスは囁くように言葉を吐く。


「少し早いが、例の作戦を進めるか……」


 北に混乱を招くとある作戦は、こうして早まることとなり、南北の均衡を崩す一つの運命の始まりになる。

 それから数カ月後、ある黒髪の少年が、ネッコ王国内にあるルキウスの屋敷に招かれる。


「やあ、待っていたよ」


 黒髪の少年は知らない。

 朗らかに微笑む貴族の表情に、好意などと言う意味がないことを……。

ルキウス・ムカディエ(百足)

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