第13話 リック
リックを紹介された次の日から、僕の生活には沢山の変化があった。
朝、優しく起こしてくれるのはリック。
「リア様、おはようございます」と、背中をトントンして起こしてくれる。
身支度もリックで、その後は、いつも通り、母上の胸に飛び込んで抱っこして貰って食堂だ。
おにぎりを綺麗に食べて「上手にお食べになりましたね。素晴らしいです」と褒めてくれるのもリック。
お口を優しく拭いてくれるのもリックだ。
今まで、ばぁばがしてくれていた事をリックが代わってしてくれる。
でも、ばぁばの代わりだけじゃない。
お花摘みに、虫探し。
特に、でっかい虫を探すのは僕リアの日課で、見つけたらずっと後を付いて行く。見失ったら庭師を探して、どんな虫だったかを頑張って説明して、庭師に虫について教えて貰う。
ちなみに、虫は見るのは好きだが、触るのは怖くて出来ない。見るだけだ。
そんなお花を積みながらのお庭の大冒険に、リックはいつも付き添ってくれた。
それから、追いかけっこ。
いつも、ルーク兄ちゃんが僕を追いかけたり、追われたりしてくれる。
これをリックが変わりにしてくれるのだ。
それも、今までにない追いかけっこを教えてくれる。
庭の一角にある、マルス兄さんやルーク兄ちゃん、父上も使う、剣の素振りをする土が剥き出しの場所がある。
そこに、グネグネとした波くねった歪な形のそこそこ大きな輪を棒で持って引くのだ。
追いかけられる側は、そのグネグネ輪の中から出てはいけないルール。
ちょっと勢い良く走ればすぐに輪を飛び出してしまいそうで、頑張って体の力を意識しないと方向転換も三歳児には難しい。三歳児の体力の限り庭中を縦横無尽に走り回るよりも刺激的で難解で楽しいのだ。
更に、玉転がし。
リック手作りの草と藁で丸められた僕の頭ほどある大きな玉を転がす。
でも、ただ転がすだけじゃない。
リックがあちこちの地面に引いた玉が二つ入るかな、という大きさの輪の中にピタリと止まるように力を調整して転がすのだ。
三歳児には、とても難しく、何度も挑戦してやっと近距離の輪で成功する。ちょっと距離が離れた輪には玉が届きもしなかったりする。
出来ないと悔しくて、成功すると物凄く嬉しくて誇らしくなる。
リックはそのどれにも、励ましてくれたり、助言をくれたり、大いに褒めてくれた。
兄達の代わりに、遊びに関しては、僕に特に大きな変化を僕に齎してくれた。
僕は、リックを尊敬した。
凄い人だと思った。
教えてくれる遊びのどれも革命の如く僕を新しい世界に導いてくれた。
この頃は気付かなかったが、後になって思えば、兄二人は子供らしくない子供だったことで、こういう“遊び”自体知らなかったのだ。だから、僕を構ってくれる構い方も、僕の希望――走ったり、花を積んだり、虫を追いかけたり――三歳児の思うままな単純な行動――に沿うものだ。
人の頂点のような天才の長男と、人を逸脱した神に近い次男は、子供の頃、下々の遊びには興味を示さなかったのだから。
そう考えると、ちょっと可愛そうに思える。
本人達は、そんな事微塵も思っていないだろうけれど……ね。
「リッキュしゅごい! リッキュだいしゅき!」
興奮して呪い塗れで、ぴょんぴょん飛んではリックが教えてくれる“遊び”と、リックに僕は夢中になった。大絶賛だ。
なので、兄達がいない寂しさで時々泣いてしまったけれど、リックが側に居てくれることで僕は安心することが出来ていた。
ちなみに、兄達二人は、三ヶ月程、要塞で罰を与えられていて帰宅出来なかった。
勿論、マリアに会えないとマルス兄さんは泣き叫び脱走を図ろうとした。それを見越して、マリア姉さんから、大人しく罰を受けねば婚約破棄だと手紙を突き付けられ、事無きを得る。
マルス兄さんは、軍の兵糧を管理する兵糧方と言う部署に回され、一番下っ端として荷運びや倉庫の整理をさせられたらしい。
だが、ここでじっとしている兄さんではなく、あっという間に、兵糧の物流や倉庫の管理方法を改革し、効率良く無駄なく管理できるようにしてしまった……。
連合軍なので、南部の各国で共通した規格を作り、様々な書類の書式も変え、手引書も作成。国毎に国力に見合わない兵糧の負担があり、不満が出ていた分担の比率も過去の数値から調整。各国負担が減少した。数値の分析の仕方、それによる負担配分の計算法を確立。
これは、国が各領地に求める様々な配分にも応用でき、南部各国の内政を変えたと歴史に残ることになった。
ルーク兄ちゃんは、体力が有り余る人なので、地味だが実は一番体力を使う要塞の掃除をする部署。
大人しく掃除をするかと思えば、やはり兄弟……何と、新しい掃除の魔法を生み出したのだ。
埃や雑菌、付着物などを除外する命名“清掃魔法”。それは、誰でも簡単に魔力消費も少なく出来るとんでもない魔法で、掃除の歴史が変わった瞬間だった。
直ぐ様、使用人八門の代表が招集され、清掃魔法を覚え次第、領内で領民達に講習を行う。
後に、この魔法は疫病の減少を齎す歴史的な快挙となる。
そんな二人の息子の功績に、褒めれば良いのか、罰にならなかったことを嘆けば良いのかわからない父ジョージは、日々頭を悩ませるのだった。




