第11話 言い訳
「言い訳を聞こう」
北との国境をフジー大街道を経て接するマギュロ家当主で三兄弟の父であるジョージは、沸き起こる怒りをどうにかこうにか抑え込みながら、目の前の長男と次男に今まで発したことのない程の低い声で問い掛けた。
膠着状態が続き、長男マルスの司令官としての能力も問題なく、隣領での会議に急遽参加することにした。二日程なら問題ないだろうと思っていた。だがそれは、間違いだった……。
子とは、親の目がない時にしでかすものなのだ……。
飛び込んできた真っ青な伝令の知らせを聞いて、慌てて一晩中馬を駆け、日が変わって今は早朝。
眠気や疲れも吹き飛ぶこの状況に、頭痛だけが一秒毎に増していく。
「マリアに早く会いたかったからですよ」
この騒動の元凶たる長男マルスが、何を当たり前のことを……とでも言いたげに答える。
「リアも寂しがってるし、早く兄さんも父上も帰れるといいですね!」
そして続けて、何の邪気もなく、自分の血を引くとは思えない程の神々しい笑顔の次男ルークが嬉しそうに答える。
長男マルスの言い訳は、思った通りのもので、怒りと呆れが鬩ぎ合い、最早何も考えたくなくなってしまう……。
意外なのは次男のルークだ。
超人と呼ばれるぶっ飛んだ、人の上位存在だが、常識を持ち合わせ、私との「まだ戦場には連れていけない。従軍できる十五歳からだ」と言う約束を故意にするような子ではなかったはずなのだ。
「ルーク、従軍できる十五歳までは駄目だと言ってあったはずだが何故それを破った?」
一瞬、きょとんとして煌めく笑顔でこう答える。
「兄さんが来てって言ったからです!」
少し考えれば、そんな事は、マリアに会いたいが為のマルスの独断であり、当然、父であるジョージの許可を得ていないだろう事は理解りそうなものを……何故かこの子は、兄が言ったから当然だと思っているようだ……。
はああああ……と大きく深い深い溜息を吐き……ジョージは、今回ルークに一番大切な話をせねばと目を瞑り心を落ち着かせる。
「ルーク、お前の攻撃で、敵国とは言え人が大勢死んだ。お前が……敵兵を殺した事はどう思っている?」
普通、まだこの年頃の子供は……いや、年齢など関係なく、初めて人を殺めるという経験は、その後の人生にも影響を与えるような衝撃的な出来事だ。
心を壊すものも多い。
兵ともなれば、慣れるとは言うが……誰しも本当に慣れているわけではない。
いつも通りの明るさの次男の様子に、初陣での興奮もあり、まだ自覚出来ていないのだろう……後から襲う罪悪感に心を痛めないように、ここできちんと話をしなければ……と、軍人として父として、我が子の表情の変化の一欠片も逃さないぞ、と集中する。
「うーん……特に何も。それがあの人達の運命かなって」
絶句である。
この子は、人の死に何も感じていないのだ……。
この時点でジョージは知る由もないのだが、ルークは過度な博愛主義者である。
家族、それから使用人、領民、南部の人々……その繋がりのある全てをルークは愛している。
だが、一般的な人の言う「博愛」とは意味合いが違うのだ。
生きとし生けるもの全てを愛しているし、それは敵軍も対象としている。
ただ、生と死の両方を以って愛しているのだ、
与えるものであり、奪うもの。
隣り合わせの生と死も、どちらも尊く、愛しい――事象。
最早、人程度では理解の及ばぬ……神の視点でのこの世の事象全てを包む「博愛」である。
最早、どう言葉を尽くして良いのかわからないジョージは「少し時間を置いてちゃんと話し合おう」と、ルークに一言伝え、まず元凶の方から対処することにする。
いろいろ質問を繰り返し返ってきたのはこんな馬鹿らしい返答だった。
「まず、あの雷男ですが、既に対処法は避雷針を用いて確立していますから、剣さえ折れば良いと思いルークに破壊を命じました。思った通り、魔力を五倍程に増幅させる魔法剣だったようで、これで今後しばらくは今回のような膠着状態で長引かせられ、マリアとの時間を邪魔される事はないでしょう。それに、北の要塞の破壊もルークに命じたことで、奴らその修復でしばらく手一杯でしょうね。これでかなりのマリアとの時間を邪魔されなくしました。良策だったと思います。雷男を殺さず生かしておいたのは、ここで我軍が勢いづいて、攻め入ろうなどと言い出せば、戦線を北上させる……つまり、マリアとの時間を奪われる事に繋がります。そのまま敵要塞を落として……なんて事になれば、長期の遠征ですよ? 有り得ません。そんな長くマリアと離れるなんて。なので、我軍の脅威となり得そうな雷男を生かすことで、我軍の進軍の歯止めとしたわけです。我ながら本当に良策だったと思いますよ」
ジョージは天を仰ぎ思う……子育て間違ったのかな……と。
その頃、僕リアは素晴らしい至福の時を過ごしていた。
一日中ギャン泣きした僕は「リア、今日は一緒に寝ましょうね」の一言を引き出し、母上とかなり久々の共寝の栄誉を獲得したのだ。
久しぶりに母上の胸に抱かれ眠る幸せの中、兄二人のやらかしなど一切知らず、夢の中でも大好きな母上に甘えて、この上なく幸せな夢も合わせて享受するのだった。
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