第10話 ラファエル・ヘービ
(クソクソクソッ! 糞がぁぁぁぁぁぁ!!!)
魔法攻撃力を五倍に高める、今回の作戦の為に特別に誂えられた北の技術の結晶である魔法剣を振るいながら、若干十五歳の若き英雄ラファエル・ヘービは、血管が切れそうなほど……キレていた。
金色の短く整えられた髪に汗が滴り、良く晴れた日の澄み渡った空のような水色の瞳は、その奥が燃えたかのような熱を携えていた。
大陸北部は、最北の「聖地」と呼ばれる大神殿の収める地域以外は、大国が一つと、同じような規模の中小国が乱立している。
唯一の大国であるネッコ王国は、北部中央にあり、北部の七割を占める面積と強大な権力を誇っており、中小国全てが束になっても敵わない程の軍事力も有していた。
下位中央議会と呼ばれるネッコ王国が主導する議会での議席の座を中小国が武力や策略を以って日々争っており、南部は常に何処かが戦争状態。十年に一度は新たな中小国が生まれては滅びを繰り返している状態なのだ。
この議席数をいくつ有するかで、ネッコ王国側からの評価が変わり、優遇されるか不遇の道を辿るかが決まる。寒く、地域によっては極寒の食料調達に厳しい北部では、この議席数で食料や燃料支援の規模が変わることもあり、どの中小国も必死に……争うしかなかった。
中小国も馬鹿じゃない。
それが、国力を日々削り、ネッコ王国に反逆する国力を削ぐ策略だと言う事は百も承知なのだ。
承知しながらもそうせざる得ない工作も常であり、真実に目を背けながら、大義の為などと言う言葉で以って己を騙し……操られている。
安泰なのは、フジー大街道を有する南との国境を護るウッシ王国と、誇大な農地を有する南の食料庫と呼ばれるブッタ王国だけ。この二国は、完全なるネッコ王国の属国で、ネッコ王国の王族の血筋が王となり議席数も多く有している。
ネッコ王国内部のみで構成される上位中央議会から、この二国に対し、侵略も敵対行為も禁止させられているが、禁止されなくとも誰も爪の先程も逆らわないだろう。
ラファエルは、ウッシ王国の中でも貧しい貴族家、ヘービ家の長男だ。
南との国境を護る為、ウッシ王国の貴族家は全て武家であり、その武力で以って与えられる地位も領地も何もかもが変わる。
ヘービ家は、その昔は血筋正しい力のある名家だったらしいのだが……何代か前の嫁いできた女が不義の子を産んだのだろう……。それに気付かずその子供が直系となり、それまで膨大な魔力を血縁で繋いできた名家は、魔力の乏しい子供しか生まれず、坂を転げるように落ちぶれていったのだ。
そんな中、女神様はヘービ家を見捨てはしなかった。
あのネッコ王国を含めても上位となるだろう膨大な魔力を持って生まれただけでなく、魔力を雷として顕現させ、それを攻撃魔法として確立した神童ラファエルが生まれたからだ。
現在、同じ事ができるものは、広い南部でもラファエル以外には一人もいない。
ラファエルの魔法の才は、圧倒的だった。
それだけでなく、武芸にも秀でた才能と、それに見合う身体能力も有していた。
幼い頃から神童と呼ばれ、ヘービ家は、御家の再興の希望の光となる長男ラファエルを崇めまくった。
更に幸運は続き、正式に従軍する半年前、ウッシ王国の王女――つまりはネッコ王国の王族の血を引く姫が移動中に、ネッコ王国の反乱分子である、とある組織に襲われ護衛も全滅の中、たまたま居合わせることとなったラファエルがたった一人で見事に救い出してみせたのだ。
それも、六十二対一。相手は訓練された大人で、その時ラファエルはまだ従軍前の十四才。
これにて、ラファエルは、若き英雄と呼ばれ、ヘービ家の地位は飛躍的に向上したのだ。
そんな、絶好調のラファエルの初陣。
ネッコ王国経由で、褒美として賜った魔法剣のお披露目でもある戦場で……初戦から苦戦を強いられている……。
初撃を何だかの防御魔法の壁で以って防がれ、その後も魔力が尽きるまで破ることが出来なく初日を終え……次の日からは、よくわからない細長い棒のような魔道具が敵陣に並び、そこからはいくら攻撃を打とうが、攻撃そのものを無力化され、描いた戦勲を全く立てられない状況が続いているのだ……。
ラファエルは焦っていた。
ここで手柄を挙げなければ、英雄の称号もせっかくのヘービ家の地位向上もここで絶たれてしまい兼ねないからだ。
それに、もう一つ焦りと怒りの原因がある。
敵国である南の司令官、どうやらここ二戦の間に指揮を取り出したようで、その姿から、かなり若く……下手をしたらラファエルと同じ年頃……十五から十七歳程ではないか、と言うのだ。
(同い年頃の司令官などっ! 私が蹴散らしてくれるっ!!)
怒りと隠しきれない嫉妬のままに、今日何度目かもわからない一撃を放った後、敵陣が妙に騒がしく、何事かと訝しむ。だが、今こそ勝機だと根拠のない直感が「撃て」と言っており、それに従い更に力を込めた直後だった。
敵陣に砂埃が舞い、その砂埃が物凄い速さでザッザッザッとこちらに動いて近付き、たった数秒の間に目前に迫ってきた……と思ったのも束の間、力任せに放った一撃が目の前でパァンと弾けるように、土煙と共に大きな光が辺り一帯を包みこんだのだ。
何が起きたかわからず唖然となり、光と土煙で目が開けられない中、どぉぉんと低く地鳴りのような音が自身の体を這うように響かせた。
その地響きが、更なる混乱の一因となり、視界を奪われたラファエルの不安を煽る。
細く目を開け、ぼやけているが僅かに視界を確保したラファエルの目の前に……何かが居た。
「ふうーん。その剣で増幅させてるのかぁ。五倍ってとこかな?」
高く幼い、だが性別は男だろう事を思わせる美しい声が唐突にその何かから発せられる。
「はい、処分っと」
更に発せられた声と同時に、手に握る魔法剣にズンッとした負荷がかかりキンッという音が鳴る。
それが何を示すか察したラファエルは、血の気が一気に引く。それとは逆行するように数の多くなる瞬きと共に、だんだんと良好になる視界の中……残酷な現実を直視せざる得なかった……。
魔法剣が……折られたのだ、と……。
震える手で……魔法剣の柄を握り締め、震える顔を上げれば……そこには、フードを深く被った目元が僅かしか見えないローブに身を包む自分より小柄な何者か……。
「良かったね! 今回は君を殺しちゃ駄目って言われてるんだぁー」
「……は? 何なんだっ! 何なんだお前はっ?!」
「まだ秘密かな。俺、同じの出来るよ。見ててよ!」
「は? 何を……」
そう言って、何者かは、二歩程目の前から横にずれ、右腕を上げ掌を見せた。
直後、あれだけ誇っていた自身の膨大な魔力を上回る圧倒的な魔力波がぶわっとラファエルの体を押し……同時に、自身の後方――北の要塞の方からズドンという爆発音とカッと光が放たれ……地響きのような鈍い音が後から追いかけるように体の奥底を侵食しながら這う。
後ろを振り返りたいのに、微動だにできない中、また何者かが言う。
「ほらっ同じの出来た! 一撃だけって約束なんだっ! じゃ、またねっ!」
そうして、目の前でザッという音と共に砂埃が舞い、何者かが目の前から掻き消えた。
またも呆然としていると、後方から悲鳴や混乱の声、何かが崩れる音が次々と耳に飛び込んでくる。
その日、北の要塞の中央部が崩壊。
死傷者合わせ一千名程、嘗てない規模の人的被害で、今回の南北線戦は幕を閉じざる得ない大敗北を北部は喫する事となった。
ネッコ王国(猫)
ブッタ王国(豚)
お読み頂き有難うございます!
第一話で登場した英雄ラファエル君の初陣の回でした!




