第5話:『森を守る戦いと仲間たちの絆』
辺境の森の朝。
リリアーナは目覚めると、フェンリルとともに森を見渡した。小鳥やリス、子狼たち、そして新たに加わった白キツネとフクロウが、森のあちこちで遊ぶ光景に心が温かくなる。
「今日も練習ね、みんな」
リリアーナは笑顔を浮かべながら、小さな手を空にかざす。掌から淡い光が流れ、森の小動物たちが魔力を感じ取って集まってくる。
しかし、森の静寂は長くは続かなかった。
「……!?大きな影……」
木々の間から、巨大な魔獣の群れが現れた。黒い毛皮に赤い瞳、牙をむき出しにして森を蹂躙する。どうやら人間の手によって暴走させられた、魔法による実験獣のようだ。
「危ない……みんな、隠れて!」
リリアーナは動物たちを森の茂みに誘導しつつ、自分はフェンリルと共に立ちはだかる。
「リリアーナ、私が前衛を務める。お前は魔法で援護せよ」
フェンリルの声に背筋が伸びる。
「わかってる!」
リリアーナは手を掲げ、火球を次々に放つ。動物たちの魔力と心をリンクさせ、自然の力を増幅する。森の精霊たちも協力し、風や水、光の魔法が一斉に魔獣たちに襲いかかる。
小さな子狼たちも牙を剥き、キツネは素早い動きで魔獣の注意を引き、フクロウは空から光の魔法を誘導する。
「みんな……すごい……!」
戦闘中、リリアーナは前世の動物学者としての知識を活かし、魔獣の行動パターンを瞬時に分析。
「右側の群れは動きが遅い……集中攻撃は左側から」
指示通りに魔法を集中させると、魔獣の群れは徐々に押され、森の奥へ追いやられていく。最後にフェンリルが一撃で止めを刺すと、森には再び静寂が戻った。
息を切らしながら、リリアーナは仲間たちを見渡す。動物たちも、フェンリルも、無事だった。
「よくやった……みんな、ありがとう」
彼女の瞳は、涙で少し光った。
一方、王都。
王太子は玉座の間で、顔を真っ赤にして怒りを抑えきれずにいた。
「……あの令嬢め、森を完全に掌握している……!」
補佐官が震えながら報告する。
「陛下、辺境の森で魔獣が退治されたとの情報が入りました。しかも、森の動物たちが協力しているらしく……令嬢様が指揮している可能性が高いです」
王太子は拳を強く握り、歯を食いしばった。
「……無能だと侮った私の判断が間違いだったとは……!」
焦燥と屈辱の入り混じった表情が、玉座の間を支配する。
森の夕暮れ。
リリアーナは仲間たちと共に屋敷の前で休む。子狼やキツネ、フクロウたちが近くで丸くなり、フェンリルも静かに見守る。
「今日の戦いでわかった……私、森を守れる力がある」
リリアーナの胸には確かな自信が芽生えていた。
そして、彼女は小さな声でつぶやく。
「王太子? もう、私のことは関係ない。私は私の人生を生きるの――みんなと一緒に」
森は静かに夜の帳を落とし、銀色のフェンリルが森の外を見張る。
戦いで絆を深めたリリアーナとモフモフ従魔たち――最強賢者への道は、着実に歩みを進めていた。