第3話:『初めての戦闘と王太子の焦り』
辺境の森の夜。
リリアーナは森の仲間たちと過ごす日々に少しずつ慣れ、魔力の感覚も前回よりずっと明確になっていた。
「よし……次は攻撃魔法の練習ね」
フェンリルが低く唸りながら言った。
「注意せよ。魔力は強くなればなるほど制御が難しい。焦れば怪我をする」
リリアーナは深呼吸して森の中に目を向けた。その時、遠くでガサガサと物音が聞こえる。
「……ん?誰かいる?」
木々の影から、凶暴そうな魔獣が姿を現した。巨大な熊のような体に黒い毛、赤く光る目――。森の生き物たちが怯えて逃げ惑う。
「危ない!」
リリアーナは反射的に手を伸ばす。前世の経験が彼女の体を動かす――動物たちの恐怖心を感じ取り、そのエネルギーを魔力に変換した。
「火よ……出て!」
掌から小さな炎が飛び出し、魔獣の前に立ちはだかる。初めての攻撃魔法だ。
魔獣は一瞬驚き、後退した。その隙に、リリアーナは動物たちの協力も借り、魔獣を森の奥へ誘導する。
フェンリルが静かに現れ、鋭い目で魔獣を睨みつけた。
「後は任せろ」
瞬く間に、フェンリルが一撃で魔獣を押さえ込み、森は再び静寂を取り戻す。
リリアーナは胸を抑えながらも、自然に笑みがこぼれた。
「できた……私、守れた……」
その夜、森の奥にある古びた屋敷で、リリアーナは改めて気づいた。
「私、ここで本当に生きていける……」
一方、王都。
王太子は豪華な玉座の間で、補佐官たちと顔を曇らせながら話していた。
「リリアーナが……辺境で魔力を開花させているだと……?」
補佐官の一人が震えながら答える。
「陛下、最近森で異変が相次いでおり、動物たちが暴れたり、魔獣が増えたりしております。すべてリリアーナ様が関わっている可能性があります」
王太子の顔に焦りが走った。
「無能だと嘲ったあの令嬢が、今や伝説の従魔と契約し……私の国を揺るがすかもしれないだと……?」
怒りと焦燥に駆られ、王太子は拳を握りしめる。
「……このまま見過ごすわけにはいかない……!」
王都と辺境の森――距離は遠くとも、二人の物語は確実に交わろうとしていた。
リリアーナはまだ知らない。王太子が、自分を追いかけてくるということを。
そして、森の奥で眠るリリアーナとフェンリル――
「明日も練習ね。もっと強くなるのよ、私たち」
銀色の狼が静かに頷き、森は夜の静寂に包まれた。