第2話:『森の仲間と最初の魔法』
辺境の森の古びた屋敷。
リリアーナはフェンリルの鋭い視線を浴びながらも、震える手で魔導書を開いた。
「……まずは魔力の流れを感じるのよね」
だが、指先に届くのはわずかな感覚だけ。これまで魔法を持たなかった彼女にとって、全てが未知の世界だ。
「……よし、まずは森の精霊たちと心を通わせてみましょう」
森の精霊? リリアーナは前世での知識をフル活用した。動物や自然の声を感じ取る感覚――それが、この世界で「魔力を媒介する力」と結びつくことに気づいたのだ。
すると、屋敷の外から小さな足音が聞こえた。
「……にゃ?」
リリアーナがそっと窓を開けると、灰色の小さな狼の子どもが顔を覗かせた。
「かわ……かわいい……」
リリアーナはその子狼の目をじっと見つめ、心の中でつぶやいた。
「怖くないよ。私、あなたの気持ちがわかる……」
小さな狼は警戒しながらも、リリアーナの手元に歩み寄る。そして、不思議なことに、リリアーナの手を舐めた瞬間、体中に暖かい魔力が流れ込む感覚が走った。
「これ……魔力……私、感じられる!」
フェンリルは大きく唸った。
「良い。お前の力は本物だ。森の生き物たちはお前の仲間になれる」
その日、リリアーナは森の小さな動物たちと心を通わせながら、最初の魔法を成功させた。草木を少し動かすだけの小さな魔法だが、彼女にとっては大きな一歩だった。
「……できた……!」
喜びのあまり、リリアーナは小さく跳びはねる。
フェンリルは鋭い目で見つめながらも、どこか満足げに頷いた。
「……お前なら、この森で最強になれる」
夕暮れ時、森の空気はオレンジ色に染まった。
小さな狼やリス、フクロウたちが、リリアーナの周りに集まる。彼女の胸には確かな感覚があった――
「私はひとりじゃない。モフモフたちと一緒なら、どんな困難も乗り越えられる」
その夜、リリアーナは魔導書を胸に抱きながら、眠る前に小さくつぶやいた。
「ありがとう、前世の私……。そして、これからの私……」
静かな森の中、銀色のフェンリルが屋敷の外を見張る。
その目には、まだ見ぬ冒険と、最強賢者への未来が映っていた。